がんの治療を始めたら、仕事を辞めなくてはならないか?

がん治療を始めるとき、気になるのは、働きながら続けられるか?ということです。長期の入院や、頻繁な通院が必要であれば、仕事にも支障が出るはずです。仕事と治療は両立できるのでしょうか?

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今までどおりの仕事を続けながら治療できる人は少数派

厚生労働省が3年に1度行っている「患者調査」によると、退院した患者の平均入院日数は、平成2年の「44.9日」をピークに徐々に減少傾向にあり、平成26年には「31.9日」まで減っています。がん患者に限って言えば、平成26年度の平均入院日数は「19.9日」と、平均よりも短くなっており、退院後に通院治療を行うケースが主流です。

ただ、入院日数は他の病気と比べ短いものの、「退院」=「完治・元気になる」というわけではありません。

アフラックが2010年に行った調査によると、がん治療のために休職・休業したがん経験者は全体の59%にものぼり、そのうち3割が3ヵ月以上休職・休業しています。

このように、がんと診断された後もそのまま仕事を続けられる人は少数派です。基本的には「治療を最優先し、仕事は休業・休職になってしまうのもやむを得ない」と思っておきましょう。

会社によっては、私傷病の休職制度を設けているケースもあるので、使える制度がないかどうか積極的に人事担当部署などに相談してみることをおすすめします。ただ単に休みを取ってばかりいると、就業規則に照らして休みが多すぎ、問題になってしまうことも考えられます。会社ごとの規則を正しく把握するためにも、勝手に判断せずに担当部署と相談しておくことが大切です。

治療のための収入減にはどう対応するか?

がん治療のために仕事を休むとなると、金銭的な面にも向き合っていく必要があります。治療費はがん保険の給付金などで対応できたとしても、それはあくまで治療費であり、収入ではありません。

この収入減こそが、がんのリスクの最大のものかもしれません。だからこそ、収入減への対策はしっかりと考えておく必要があります。

(1)会社の有給休職制度+傷病手当金を使う

まずは、安易に今の仕事を辞めてしまわないことが大事です。前述したような私傷病の休職制度があれば活用する、負担の少ない部署に配置転換してもらう、など、できるだけのことをしながら、退職は最後の手段とします。

勤務先に特別な制度がなくても、会社員(=全国健康保険協会加入者)であれば、「傷病手当金」という制度が利用できますので知っておきましょう。連続して3日間以上仕事を休み、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して手当金が支給されます。支給される金額は「支給開始日以前の継続した12ヵ月間の標準報酬月額を平均した額」の2/3です。例えば、毎月30万円の給与を受け取っていた人は、1日あたり6,666円、1ヶ月あたり20万円の傷病手当金が支給されます。支給開始日から最長で1年6ヵ月まで受け取れますので、会社員であれば、1年6ヵ月までは少なくとも無収入は避けられるということです。

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(2)退職した場合に備えて、雇用保険延長の手続きを

それでもやむなく退職、となった場合、次に考えるのは雇用保険の受給(いわゆる失業手当)です。しかし、雇用保険はあくまでも求職者のための給付ですので、病気で療養中であり、仕事は探していないという状態では受け取れません。

ところが、何もしないでいると、療養中に失業給付の期間が過ぎてしまい、いざ、完治してから仕事を探そうとなった時期に給付が受け取れないということになってしまいます。

そこで、病気で30日以上働くことができなくなってしまった場合は、働けなくなった日数分、雇用保険の受給延長を申請しておきましょう。最大3年間、延長できますので、完治後の求職期間に助かります。

(3)就業不能に備える保険も検討したい

就業不能に備える保険商品も存在します。就業不能保険(所得補償保険)などと呼ばれるものがそれで、所定の就業不能状態になった場合に、月額給付金が受け取れます。

たとえばライフネット生命の「働く人への保険2」だと、入院しているか、「医師の指示を受けて、日本国内の自宅等で、軽い家事および必要最小限の外出を除き、治療に専念している状態」が、60日または180日以上続いたとき、以降、給付が開始されます。

がん治療に関していうと、この条件は比較的厳しめで、このような状態になるケースはそう多くないでしょう。しかし、個人事業主やフリーランスなどの自営業者(=国民健康保険加入者)は、傷病手当金や雇用保険がないので、こういった保険を検討する価値はあります。

また、最近は、がん保険が、収入減リスクに備えた給付金をプラスしている例もあります。診断確定後、年金形式で給付金が受け取れるアクサ生命の「アクサの収入保障のがん保険」や、診断の翌年から最大5回まで「収入サポート給付金」を受け取れるライフネット生命の「がん保険ダブルエール」などがそうです。

今後は、こういった「治療費以外の部分もサポートしてくれるがん保険」が増えていくかもしれません。

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