必ず入っておきたい「医療補償」

海外旅行保険で扱われる「医療補償」は、”治療費用補償”や”傷害治療補償”と呼ばれるなど、保険会社によって名称が違うことがあります。傷害保険(補償)と聞けば、「ケガは補償されるけど病気は出ない」とイメージしてしまう人もいるでしょう。しかし海外旅行保険の傷害保険は、病気の場合もきちんと補償されます(当サイトではわかりやすく医療補償とします)。

健康に自信がある人でも海外旅行では、慣れない環境や食生活、タイトな旅程などによって体調を崩すことも考えられます。健康保険が使える日本の医療感覚のまま海外で受診すると、全額負担の現地の医療費に困惑するかもしれません。海外旅行に行くときには、絶対に付けておきたい補償です。

医療補償を付けておけば、旅行のために自宅を出てから帰宅するまでの間のケガや、帰宅して72時間以内に発症した病気で治療する場合などにも補償が適用されます。

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海外の医療費は高額なケースが多々ある

当サイトの渡航先の医療情勢一覧ページやジェイアイ傷害火災保険のホームページでは、世界の都市の医療費が紹介しています。

たとえば救急車を例に挙げてみます。日本では、救急車で搬送されても救急車費用はかかりません。しかし諸外国は、公営でも民営でも有料の地域が多くあります。高額な例では、東京の平均走行距離4.53kmで、オーストラリアのゴールドコーストでは9万円超、ホノルルで5~7万円となっています。

それを踏まえて治療例を見ていきましょう。盲腸(虫垂炎)を発症し、救急車で搬送されて入院、手術を受けた場合のパターンはどうでしょうか。

盲腸(腹膜炎を併発していない)の手術、入院、投薬など、日本では健康保険を使わない場合(全額自己負担)の医療費は約40万円かかります。ロサンゼルスやロンドンは100万円を超えて200万円近くかかるので、自己負担でこれだけを現地で用意するのは大変です。

これに対し、ホーチミン(ベトナム)や北京(中国)など日本より安い地域もありますが、病状が悪化したり病気が併発した場合などは一概にできません。

現地で請求されてからでは対応が難しい

旅の途中で、高額な医療費を負担するのはかなり大変です。そもそも、旅の途中にそれほど多くの現金を持ち歩いていることはまれです。海外で利用できるクレジットカードを持っていたとしても、クレジットカードでの決済が可能な病院ばかりとは限りません。たとえ決済できたとしても、そのカードの上限額を超える場合は使用できないので、高額請求をされてからでは対応が難しいのです。

医療補償と合わせて確認したい「キャッシュレスサービス」

保険商品によっては、医療補償を付けることでキャッシュレスサービス(キャッシュレス診療)が付帯されていることがあります。キャッシュレスサービスは、保険会社が医療機関に直接医療費を支払うサービスで、契約者は費用を払わずに治療が受けられます。

ただし、キャッシュレスサービスは保険会社と契約のある医療機関のみで利用可能なサービスです。救急搬送された先が保険会社と契約をしていない場合は利用できないので注意が必要です。契約する保険会社にキャッシュレスサービスはあるか、ある場合はどれぐらいの病院と提携しているのか、数や場所を確認しておきたいところです。緊急な場合でも、なるべくそれらの病院に行きたい旨を、搬送時に伝えられるように心構えはしておきましょう。

補償額の相場と支払事例

では、実際にどのくらいの補償額を保険で準備したらよいのでしょうか。実際の支払い事例を見てみましょう。

性別女性(28歳)
渡航先イタリア
病名腹膜炎
治療概要手術・2週間の入院。一時帰国後、通院治療・完治
治療費71万円
救援者費用180万円(親族2名分の交通費、宿泊費など)
合計金額251万円
性別不明
渡航先中国
病名くも膜下出血・内頚動脈流
治療概要手術・13日間の入院。医師・看護師付き添いチャーター機で医療搬送
治療費内訳不明
その他費用内訳不明
合計金額2,001万円
性別女性(20代)
渡航先アメリカ
病名溺れて意識不明
治療概要ICU治療・1ヵ月間の入院。看護師付き添いプライベートジェットで医療搬送
治療費内訳不明
その他費用内訳不明
合計金額3,000万円(保険金超過分は全額自己負担)
性別男性(20代)
渡航先中国
病名交通事故による足の骨折
治療概要現地で2度転院し手術・入院。事故後17日間後に看護師付き添いのもと帰国
治療費搬送費用604万円(治療費不明)
その他費用内訳不明
合計金額666万円(バス会社からの補償4万5000円を差し引いた差額が保険金として支払われる)

上記4件は特に医療費が高額になった事例です。純粋な治療費以外にも救急車の費用であったり、医師や看護師の付き添い費用、チャーター機手配費用などが含まれているのが高額請求に拍車をかけています。もちろん、さほど費用がかからない場合もあります。ただ、思いもよらない事故やトラブルに見舞われたとき、数百万円~数千万円などの高額請求は珍しいことではないのです。

国の医療情勢や渡航日数によっては補償額を「無制限」にする

このように事例を見ると、改めて医療補償の大切さが理解できますね。せっかく医療補償に加入していても、補償額を国や渡航日数に合わせて準備しておかないと、いざというときに高い確率で自己負担が出てしまいます。

「治療費用1,000万円」という補償額を見て、「これだけあれば十分だろう」と考えるのはNGです。補償額の大きさは、国や渡航日数によって違うということを理解しておきましょう。

渡航先の医療情勢があまり良くない、または渡航日数が長い場合は補償額を「無制限」に設定するのもよい方法でしょう。医療補償を「無制限」に設定できる保険会社もあるので上記を確認した上でしっかり検討しましょう。

意外と低いクレジットカードの補償額

海外旅行保険付きのクレジットカードにも、医療補償が付帯されています。クレジットカードのランクにもよりますが、年会費無料の一般カードはほとんどの場合200万円程度の補償額になっています。

渡航先の医療施設が充実していてキャッシュレスサービス施設が多い、言葉が通じやすく渡航日数も短いなど、ライトな旅行であれば手持ちのクレジットカードの補償額を合算して対応できる場合もあります。

海外旅行保険の医療補償が手厚いクレジットカードもあります。基本的に年会費有料のゴールドカード以上に多いですが、カードによって補償内容は違うので過信しすぎるのはよくありません。今一度、自分の手持ちのクレジットカードにどんな補償が付いているのか調べてみるのもいいでしょう。

改めてクレジットカードの付帯補償について確認したうえで、海外旅行保険に強いクレジットカードを申し込んだり、海外旅行保険の医療補償に加入するようにしましょう。

海外旅行保険の医療補償で持病は補償されるのか

ところで、旅行中に持病が悪化した場合は医療補償は適用されるのでしょうか。

海外旅行保険の医療補償の適用範囲は"旅行中(帰宅後72時間以内)に発症した病気に対しての補償"なので、残念ながら補償は適用されません。しかし、保険会社によっては持病や既往歴の悪化が補償される商品もあります。AIU保険会社の「疾病に関する応急治療・救援費用」が代表的です。

いずれにしても、持病や既往歴がある人は、保険加入の際にどこまでが補償の適用範囲なのかを確認しておきましょう。資料請求をしたり、窓口で尋ねるなどして確実に保障されるという範囲を知っておくと安心です。

各健康保険からも払い戻しできる場合がある

また、国民健康保険でも、会社の健康保険でも、海外旅行時に医療関連で支払った費用を一部払い戻してくれる「海外療養費制度」があります。詳しくはこちらで紹介していますが、加入している健康保険組合や保険者に確認しておくといいでしょう。この制度は海外旅行保険で給付金を受け取っていても申請可能です。

帰国後2年以内の申請手続きが必要です。手続き方法などはこちらで詳しく紹介しています。

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