人気の先進医療特約は本当に必要なのか?

ここ数年、先進医療にかかる技術料を一定額まで保障する先進医療特約が流行しています。 200万円とも300万円ともいわれる高額な先進医療費を月額100円程度の掛金で保障してくれるうえ、医療機関までの交通費やホテルの宿泊費まで支払ってくれる会社もあります。

このような破格の内容ながら、各社ともパンフレットやCMなどで積極的に宣伝しており、コストパフォーマンスの高い“お得な特約”として消費者に広く知られることになりました。

しかし、特約の知名度だけが先行して、先進医療そのものの内容についてはあまり知られていない気がします。先進医療とはどんな医療なのか? わざわざ特約で備える必要性はあるのか? 先進医療の基礎を学びながら考えてみましょう。

目次

先進医療とは

先進医療の定義については、厚生労働省のHPに以下のように記載されています。

先進医療については、平成16年12月の厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣(規制改革、産業再生機構)、行政改革担当、構造改革特区・地域再生担当との 「基本的合意」に基づき、国民の安全性を確保し、患者負担の増大を防止するといった観点も踏まえつつ、国民の選択肢を拡げ、利便性を向上するという観点か ら、保険診療との併用を認めることとしたものです。 また、先進医療は、健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)において、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」として、厚生労働大臣が定める「評価療養」の1つとされています。具体的には、有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに一定の施設基準を設定し、施設基準に該当する保険医療機関は届出により保険診療との併用ができることとしたものです。 なお、先進医療については、将来的な保険導入のための評価を行うものとして、未だ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術等と保険診療との併用を認めたものであり、実施している保険医療機関から定期的に報告を求めることとしています。

何やら堅苦しく書かれていますが、噛み砕いていえば、大学病院など高度な医療機関で研究・開発された医療技術であり、安全性と治療効果は確保しているけれど、保険診療の対象とするかは検討中のものを指します。そのため現段階では、先進医療にかかる費用は患者が全額自己負担することになっており、治療内容によってはとてつもなく高額になってしまうケースもあるということです。

(例)総医療費が100万円、うち先進医療にかかる費用が20万円の場合

※出典:厚生労働省「先進医療の概要について」

先進医療にかかる20万円はすべて自己負担です。診察・審査・投薬・注射・入院料等、通常の治療と共通する部分は保険が効くので、残り80万円の3割負担で24万を一部負担することになり、計44万円を窓口で支払うことになります。もっとも、一部負担については高額療養費制度が適用されるので、申請すれば8~9万円程度で済みます。(※高額療養費制度については医療費の自己負担を大幅に軽減。高額療養費制度とはもご覧ください)

先進医療にはどんな治療があるのか?

どんな治療が先進医療に区分されているかは随時リニューアルされていて、2016年9月1日現在では62種類(第3項先進医療[先進医療B]を除く※)になっています。また、先進医療を実施している医療機関はどこにでもあるわけではなく、一定の技術環境が整った病院でしか受けることができません。

【参考】先進医療を実施している医療機関の一覧(厚生労働省) //www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan02.html
※第3項先進医療(先進医療B)については以下のPDFをご参考ください。 //www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0618-4b.pdf

健康保険の対象にするかどうかは検討中のものですから、患者のニーズや医療技術の進展次第で健康保険の治療に加わったり、逆に先進医療から外れたりする治療もあります。

高額な治療費がかかる先進医療はどんなものがあるのか?

先進医療にかかると不安なのは、先進医療部分の治療費が全額自己負担になってしまうからです。先ほどの例では20万円でしたが、これが自分の支払い能力を越える額となると、保険に頼りたくもなるでしょう。 実際に先進医療はどのくらいの費用がかかるのか? 厚生労働省の資料をもとに以下のようにまとめてみました。

年間実施件数の多い先進医療(A)ベスト10とその平均技術料

順位技術名1件あたりの先進医療費用年間実施件数実施医療機関数(複数)平均入院日数
1多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術55万4,707円11,4784591.2
2前眼部三次元画像解析3,662円6,739860.4
3陽子線治療276万22円2,01698.8
4重粒子線治療309万3,057円1,78759.8
5歯周外科治療におけるバイオ・リジェネレーション法6万4,629円27718
6EBウイルス感染症迅速診断(リアルタイムPCR法)1万5,761円234644.6
7高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術30万1,000円145111.1
8腹腔鏡下広汎子宮全摘術74万8,666円1362013.3
9抗悪性腫瘍剤治療における薬剤耐性遺伝子検査3万7,722円1181254.6
10内視鏡下甲状腺悪性腫瘍手術26万6,643円10656.5

※平成28年度先進医療技術の実績報告(平成27年7月1日~平成28年6月30日)より独自編集

表からもわかるとおり、すべての先進医療が高額なわけではありません。 がん治療で有名な陽子線治療や重粒子線治療が200万円以上かかる一方で、前眼部三次元画像解析は役3,600円と、保険に頼る金額ではないことがわかります。上位10位のなかでも10万円以下の治療が半数を占めています。現に、2016年4月より、小児がんの陽子線治療と骨軟部腫瘍の重粒子線治療には公的医療保険が使えるようになりました。

こうしたデータから考えると、先進医療特約の必要性は高くないと言えそうです。

先進医療を受ける確率は低い

年間実施件数を見てピンときた方もいるかもしれませんが、先進医療を受ける確率は高いとはいえません。たとえば、3位の陽子線治療は年間役2,000件で多いように見えますが、現在、治療中のがん患者が約150万人であることを考えると、確率的にはかなり低いことがわかります。

また、陽子線治療や重粒子線治療など高額で比較的メジャーな治療は、近い将来保険診療になる可能性もあります。 以上から、先進医療特約の必要性は低いと断じてもいいのではないでしょうか。

ごくわずかな保険料で大負けを防ぐ「お守り」である

とはいえ、当サイトでは先進医療特約の付帯には肯定的な立場です。理由はやっぱり保険料。月約100円というわずかな掛金で最大2,000万円の治療費を保障してくれるのは魅力的です。200万円や300万円なら優に全額カバーが可能です。(※ただし保障内容は各社異なります)

保険はしばしばギャンブルに例えられますが、先進医療特約はまさに大負けを防ぐお守りのようなものだと思っています。レアな確率とはいえ、年間1,200円、10年間でも1万2,000円で何百万円もの大ダメージを回避できるのですから、コストパフォーマンスの高いオプションとして付帯しておくのは良い選択ではないでしょうか。

もっとも、既に医療保険に加入している人が、先進医療特約を目当てに保険を見直すとなると話は別です。先進医療特約は「特約」ですから、一定の年齢を境に保険料が更新されます。 質の良いオプションとはいえ、わざわざ加入し直すことで本当にメリットがあるのか、よく考えてから行動に移してください。

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