損保の大型M&A、生保との戦略の違いと仕掛け人の存在

損保大手グループでも、海外の大型M&Aのラッシュが始まっています。ちまたでは、その買収がお買い得なのかどうか、様々な憶測が行き交っているようです。
しかし、お買い得かどうかの判断は長期戦ですし、その前に大事なことがあるような気がしてなりません。また、同じ保険業界でも、損保のM&Aは、生保とも違う意味合いがあるようです。

今回は、損保の特徴を踏まえて、その意図・効果などを孫子の兵法「五事」の視点で整理してみました。

大型M&A合戦繰り広げる損保大手。本当の不安の種はどこにあるのか

東京海上ホールディングスが業界史上最高額で米損保HCCの買収を発表し、規模的競争にけりをつけたかのように見えたが、MS&ADグループの三 井住友海上火災保険も、英損保のアムリン買収を発表した。SOMPO(損保ジャパン日本興亜)グループも、英損保キャノビアスを買収しており、損保大手の M&A競争が後を絶たない。
これらの買収は功をなすのか?
目的は、規模の安定と収益の押し上げ効果の他、世界市場のチャンスやリスク分散など各社の狙いがある。その一方で、コミュニケーション不足など障壁もあり、これからが手腕の見せ所だ。

国内市場に限界を感じる生保 VS 様々な商品開発を狙える損保

まず、大手損保の3グループ(東京海上ホールディングス、MS&AD、SOMPOグループ)のメッセージと海外戦略、そして決算データをまとめてみたのが以下の表です。(ご参考までに、海外M&Aに積極的な第一生命グループの情報も添えています。)

大手損保のグループの海外戦略や決算状況

【表】大手損保のグループの海外戦略や決算状況

各社ともそれぞれ海外戦略に積極的で、ここ数年で数百億円から数千億円規模でのM&Aを公表しています。2014年度決算では、損保3グループは保険引受収益で3兆円台、経常利益や当期利益では、東京海上ホールディングスが利益率で高めの数字を出しています。また、参考までに並べた第一生命グループは、損保に比べ、資産運用の割合が高く、規模面での安定感があるのがわかります。

このような状況下で、相次ぐ大型M&Aニュースや関係資料を見ると、損保と生保ではM&Aに対する姿勢に大きな違いがあるようです。

<生保のM&Aの狙い>

まず、生保は、商品の性格上、人の生死に関わる保険がメインなので、海外の保険についても、人口や年齢構成などのマーケットの成長性を主軸に検討することがほとんどです。そして、商品のオリジナリティというよりは、現地での管理・営業手法などのスキルやノウハウの共有、その会社の経営や財務的な側面からの相乗効果などが主な狙いになるようです。

つまり、M&Aの目的や動機について、生保はどうしても人口構成からみた日本国内でのマーケットの限界からスタートし、海外戦略はそれを補うためという視点が強くなってくると思います。

<損保のM&Aの狙い>

一方、損保は、もともと「〇〇海上」という社名もあるように、航海などで海を超え、国境を超えて行われることも補償の対象として取り扱ってきた歴史があります。損保の商品種類は、生保に比べても格段に多く、技術の進歩や新しい事業に伴って、人的リスクや物的リスクなど様々な商品が時代とともに登場するのは珍しいことではありません。

ですから、海外戦略についても、損保会社では攻めの要素として日常から常に検討されていますし、SOMPOグループを牽引する損保ジャパン日本興亜のように「真面目に伝えます。グローバル戦略」というWEBサイトで、社員の顔や姿勢を伝えるページも見られます。

このように、損保会社のM&Aは、より戦略的な要素が強く出てくると思われるのですが、次のような点で整理すると、なぜ今ラッシュが起きているのか、別の視点からの動きが汲み取れるのではないでしょうか。

孫子の兵法「道天地将法」に当てはめてみると・・・

「孫子の兵法」はご存じの方も多いでしょう。2500年前から伝わる戦略本として、書籍も多いのですが、無用な戦いを避けて生き残るための原則を説いたものでもあり、人生哲学や経営哲学にも通じるものとして、私もファンの一人です。

その中で最初に押さえておくべき大事な五事である「道天地将法」は、次のような視点で整理することができ、昨今のM&Aに対してもポイントが明確になると思います。

道:【大義名分】目的・何のために?
天:【天の時】なぜ「今」?このタイミングで?
地:【地の利】この地、このマーケットでの意味は?
将:【キーマン・人】必要な人材、リーダーシップは?
法:【ルール・資金・商品】必要な取決め・資金・商品・機能は?

これらの視点で、3つの大手損保のグループのM&Aについて整理してみると、特に「道:目的」と「天:タイミング」について、気になる点が浮かび上がってきます。

道:【大義名分】目的・何のために?

大型で優良な保険会社のM&Aをする狙いとして、東京海上ホールディングスは「グローバルな成長機会と分散の効いた事業ポートフォリオの構築」を掲げていますが、MS&ADは「規模や収益性による主導的なポジション」を一番に打ち出しています。やはり本音の部分は、国内で長年続いている規模的競争をより優位に運びたいという思惑が大きいのではないでしょうか。

しかし、競争に勝つことを目的としたM&Aは、競争相手を意識した意思決定になりがちで、キリがないと思います。また、当事者である相手との目的共有やコミュニケーションに支障をきたすリスクもあるでしょう。

M&Aは、会社と会社の結婚でもあるので、やはり相互の理念や使命感を大事にして進めていくことが何より大切だと思います。その意味で、損保ジャパン日本興亜のREAL VOICE(国際部門)というページで、「同じ経営理念を持てるかどうかも大切なポイント」という言葉を見つけたときは、やはりそうか!と納得しました。

天:【天の時】なぜ「今」やるのか?

東京海上ホールディングスが6月にHCC買収を公表したわずか3か月後に今度はMS&ADがアムリンの買収を公表しました。MS&ADはその目的に規模と収益性を掲げ、やはり競争に負けたくないという動機が強いことがうかがえます。

しかし、なぜ円安に振れて、買収する会社の価格も高くなりがちなこの時期に立て続けに、M&Aニュースが続くのでしょうか?

ここで背後に、M&Aを仕掛けている存在があることを忘れてはいけないと思います。

既に東京海上ホールディングス、三井住友海上、第一生命、明治安田生命、住友生命のM&Aには、米国の投資銀行ゴールドマン・サックスが、買収側か被買収側のどちらかでアドバイザーを務めたと公表されています。M&Aアドバイザーは他にも存在しますが、案件の規模に応じて何十億円もの手数料を得る彼らによって、保険業界の大型M&Aが加速し、年間の日本のM&A総額も前年比67%増に至っているのが現状です。

ある程度の競争は意識せざるをえないとしても、本来、M&Aは当事者同士でベストタイミングが変わってくるものと思います。同じ時期に横並びで急ぐのではなく、何千億円もの資金を動かす最高の時期として、お互いに慎重に向き合う姿勢が何より大事ではないでしょうか。それもお互いの理念や目標あってのことだと思います。

地:【地の利】この地、このマーケットでやる意味は?

マーケットについては、各社とも非常に戦略的に検討されているのは言うまでもありません。東京海上ホールディングスは、アジア・欧州・北米・中東の4地域に積極的で、MS&ADもアジア中心から、ロイズ2位の拠点を元に欧州・米州までバランスを高めることを期待しています。また、SOMPOグループも、欧米を軸とした先進国とアジア・ラテンアメリカ、MENA地域(Middle East & North Africa)を中心とする新興国に強みを見出そうと展開しています。

将:【キーマン・人】必要な人材、リーダーシップは?

保険は目に見えない商品なだけに、人材育成には昔から積極的なのが保険業界の特徴です。語学・法律・環境や文化の違いなど様々な課題はあるでしょうが、コミュニケーション能力を高めるための人事・研修制度、外国人の役員登用など、各社とも積極的に取り組んでいるようです。

法:【ルール・資金・商品】必要な取決め・資金・商品・機能は?

これらも、各国の法制度や文化などの研究、専門性を高める商品研究が盛んなようです。東京海上ホールディングスは、HCCが農業や健康分野の専門性の高い保険商品に長けている点を上手に取り込むことを検討していますし、MS&ADも、アムリンの専門性や再保険を活かそうとしています。SOMPOグループも先進国では専門性と高度な技術を駆使した財物保険や海上保険を、新興国では成長性ある商品に取り組んでいます。

以上、各社のM&Aをみると、戦略上大切な「道天地将法」の5つの視点のうち、「道」(目的)や「天」(時期・タイミング)について、本来のあり方としてふさわしいかどうかが、特に気になった次第です。

M&Aは、非常に多額のお金が動きますし、その元は、契約者の負担する保険料収入から捻出されています。相互扶助からなる保険の原点を思うと、会社どうしのM&Aは、目的やビジョンをしっかりと深く共有し、競争にあおられたりタイミングを焦ることなく、じっくりと相乗効果を得られるプランを実行してほしいと願ってやみません。

参考

  • 損保ジャパン日本興亜 「真面目に伝えます。グローバル戦略」
    http://www.sompojapan-nipponkoa-saiyo.com/global/globalstrategy/
  • 損保ジャパン日本興亜 REAL VOICE国際部門
    http://www.sompojapan-nipponkoa-saiyo.com/style/minds/minds06.html
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