1滴の血液・尿でがんの超早期発見が可能に!? がん保険はどう変わる?

少量の血液などから、がんの早期発見が可能な時代がすぐそこまで来ています。ごくごく初期の段階でがんが発見されれば、がんはますます治せる病気になることでしょう。このことが、がん保険などに与えるインパクトについても考えてみました。

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がんの早期診断が可能な日も近い!?

一生涯の間に2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなる病気、がん。日本では死因のトップに位置づけられる国民病と言えますが、一方ではがん検診を受ける割合は3割程度と低いまま。がん検診はがんの種類ごとに受けなくてはならず、また自費で受けると費用もかかり、後手に回りがちなのも確かです。もっと手軽に、できれば1度に複数のがん検診ができる技術が求められています。

そんな中、ごくわずかな血液や唾液、尿などからがんを早期発見できる技術が研究されています。まずは国家プロジェクトとして進められているものから。

1滴の血液や尿、唾液から13種類のがんを超早期発見

1滴の血液や尿、唾液などを調べるだけで、がんの超早期発見ができる技術の研究が進んでいる。それが、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が国立がん研究センターや東レなどと共同で行っている「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」というプロジェクトである。2018年までに実用化される見込み。

「血液1滴でがん早期診断、「パンドラの箱」が開く」(日経デジタルヘルス)

国立がん研究センターが2014年8月に出したニュースリリース等によると、このプロジェクトでは、がん細胞が分泌する「マイクロRNA」と呼ばれる物質に着目し、従来の診断方法では見つけられない微小ながんを早期に発見しようとしています。

マイクロRNAは血液や唾液、尿などの体液に含まれる小さなRNA(リボ核酸)のことで、病気によって患者の血液中で種類や量が変動することがわかっています。しかも、がんの種類によってマイクロRNAの内容も異なるため、がんの種類ごとのマイクロRNAの特徴などが解析されれば、「がんに罹患しているか」だけでなく、「何のがんにかかっているのか」「転移の有無」までわかるとのことで、期待されています。

このプロジェクトは、国立がん研究センターの約7万人の血液サンプルの解析やデータベースがあって初めて成り立つもので、こうした大がかりな取り組みは世界でも初めてのことだそうです。

プロジェクトのイメージ

プロジェクトの対象とされている13種類のがんとして挙がっているのは、胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫。このうち、まずは乳がんと大腸がんの早期発見が先行スタートし、13種類すべてについては2018年度末までに完成する予定です。プロジェクトには、同じマイクロRNAを使った認知症の診断も含まれています。

現状、解析がもっとも進んでいるのは乳がんで、すでにマイクロRNAを利用して9割を超える確率で乳がんの診断ができるそうです。触診やマンモグラフィーでは見つけられないような初期の乳がんでも診断可能になっています。

マイクロRNAを使った研究はほかにもいくつかのグループが行っており、すでに一部で実用化も始まっています。

“におい”や唾液の成分でがんを見つける技術も

 がんの早期発見を行う技術はほかにもさまざまなものがあり、複数のグループが研究を行っています。その1つが、がんの“におい”に着目したものです。

手の平のにおいでがんを早期発見

病気のにおいが手の平からしみだしていることに着目。人の嗅覚ではわからないがんのにおい成分をセンサーで感知し、早期発見できる技術を目指している。

 東京医科歯科大学のグループが行っている研究で、「探嗅カメラ」によって、手の平のがんのにおいの可視化も可能になっているそうです。

線虫ががんのにおいに反応

線虫ががんのにおいに反応することに着目し、高い割合でがん発見ができる技術を開発。がんの種類までは特定できないものの、尿1滴でがんの有無が分かり、腫瘍マーカーとして期待される。何よりコストが低廉に抑えられる点も大きい。

九州大学理学部のグループが研究しています。すでに製品化されて使われている腫瘍マーカーよりも精度が非常に高く、ステージ0のがんや、見つけにくい初期のすい臓がんにも反応。コストも低廉なうえ、1時間半程度でスピーディに判定でき、腫瘍マーカーとして可能性は大きなものがありそうです。

さらに、唾液に含まれる成分を分析し、がんを発見する研究も進められています。

少量の唾液でがんがわかる

最新の質量分析計を使い、唾液に含まれる500種の成分を詳細に解析し、量も測定。がん患者と健常者で異なる成分の濃度などから、がんのリスクを判定する。乳がんや大腸がん、早期発見が難しいすい臓がんなども初期に発見できる。

慶應義塾大学先端生命科学研究所が行っている研究で、3000人分の唾液を分析したデータベースを保有。患者から採取した唾液を分析し、データベースと照合することでがんの早期発見につなげています。すでに臨床研究に入っています。

がんの早期発見で何が変わる?

がんの早期発見に関する技術の研究が急ピッチで進められ、精度も格段に上がる中、がんの「早すぎる発見」が問題になるケースも出てきているようです。

臨床研究や実用化されたがんの早期発見の検査を受け、がんのリスクが高いと判定されたものの、まだ小さいがんでエコー検査などで見つからないこともあるようです。がんが特定できない以上、治療はできないことになります。

しかし、そもそもがんは時間をかけて大きくなるため、ごく初期であれば慌てることはないようです。

むしろ、手軽で高精度ながん検診が実用化されることのメリットは計り知れません。より多くの人ががん検診を受けるようになれば、がんの早期発見、早期治療につながります。そうなれば、がんは死因トップではなくなるかもしれませんし、国の医療費も大幅に抑えられる可能性も高いでしょう。

また、がんが早期に発見できて治る病気となれば、当然ながら平均寿命も上がり、いわゆる老後はもっと長くなります。個人にとって、長生きを「リスク」と捉えるかどうかでメリットかどうかは変わってくる点ですが……。

がん保険はどうなる?

あくまでも私見にすぎませんが、がんの早期発見が進めば、がん保険にも影響が出るのではないでしょうか。

特にがん発見の精度が高まり、また簡単に受けられることから、初期の段階でのがん確定診断も増えることでしょう。もしも「知らぬ間に自然完治していた小さながん」(そういうものがあるとすれば、ですが)や、がんが発見されないまま他の病気や事故で亡くなっていた方などまで診断されるようになれば、がん保険の給付は増えていきます。

こうした早期発見の技術を前提に保険料が決められていないため、想定より給付が増えたときに、がん保険や医療保険のがん特約が維持できるのかという心配もあります。特に、がん診断給付金が「2年に1回、無制限」「1年に1回、無制限」で出るタイプなどでは、金額の大きい診断給付金の給付が増えたときの影響は大きいのではないでしょうか。

がん保険は終身型が多いため、約款の内容を急に変更することもできず、急な給付の増加は大きな負担になりかねません。

もちろん、現在のがん罹患率から極端に離れることがなければ単なる杞憂で済みますが……。

他にも、早期発見が主流になれば、治療法もそれを前提にしたものに変わっていくはずです。今入っているがん保険の保障内容が、様変わりする治療技術と合わなくなる可能性は十分に考えられます。

いずれにしても、今後の変化に注目していく必要がありそうです。

参考

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この記事を書いた人

経済誌・経営誌などのライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャル・プランナー。FPラウンジ 代表。個人相談やセミナー講師の他、書籍・雑誌の記事や記事監修などを行っている。95年、保険商品の全社比較を企画・実行して話題に。「保険と人生のほどよい距離感」をモットーに保険相談に臨んでいる。ライフワークとして大人や子どもの金銭教育にも携わっている。座右の銘は「今日も未来もハッピーに」。

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