多様化する保険の販売チャネル。消費者にメリットはあるのか?

4月の初めに携帯電話のauが保険販売と住宅ローン事業を開始しました。

携帯各社 保険商品拡充 スマホとセットで利用者囲い込み

《要約》携帯電話大手がスマホを使った金融サービスの提供を拡大中。auは4月5日から、スマホで契約できる生命保険や損害保険、住宅ローンの取り扱いを始める。ソフトバンクはスマホなどで契約できる海外旅行保険や「ペットほけん」も販売しており、ドコモは今年夏ごろに生命保険の取り扱いを始める予定とのこと。携帯市場は激しい競争が続いており、契約期間の長い生保などの金融商品をスマホの契約と組み合わせることで、利用者の囲い込みを図る狙いがある。

auといえば、私は「ツーカーセルラー東京」時代から20年以上継続している長期ユーザーです。その間、他社からの乗り換えキャンペーン攻勢を聞き流し、携帯のみならずPC通信環境をauの光通信に変え、さらに固定電話2回線も同社の光電話に変えました。長期間にわたり、しかも携帯以外のサービスも含めて契約継続している理由は、長年の付き合いで特にトラブルが無かったことと、多種目契約のセット料金等による通信総コストの削減です。

そのauがこの4月から「保険」を始めたというので地元の販売店を訪ねてみると「お客さまの生活をもっと豊かにする様々なサービスを提供」と謳われたパンフレットを渡されました。

目次

サービス多角化の真の目的は?

複数のサービスを一つの会社(または企業グループ)にまとめることは、消費者にとっては「手続きや支払いの一本化による簡素化」と「セット割引などのコストダウン」のメリットがあります。しかし通信会社が保険や住宅ローンを始めたのは「利用者の生活をもっと豊かに」という表向きの理由ばかりではなく、むしろ企業側の事情によるところが大きいのが実情でしょう。auだけではなくドコモもソフトバンクも同様の事業展開をしつつありますが、ニュースにもある通り、

『携帯市場は激しい競争が続いており、契約期間の長い生保などの金融商品をスマホの契約と組み合わせることで、利用者の囲い込みを図る狙いがある。』

ということなのです。
「利用者の囲い込み」という営業戦略は、この4月から自由化された電力小売りについても同じように見られます。新規参入各社の目論見には、電力小売り事業による売り上げ増だけではなく、新規顧客の開拓や長期的な顧客の囲い込みが含まれているのでしょう(電力小売りの登録事業者約280社の中に携帯大手2社も含まれていて、いずれもホームページのトップで「○○電気」と新サービス開始をアピールしています)。

異業種の会社が初めて電気を扱うことは利用者にとっての不利益とならないのでしょうか?
自由化実施前後に発表された情報によれば、どの小売り業者と契約しても電気自体は同じもので品質の優劣はなく、また停電リスクが高くなることも制度上無いのだそうです。利用者に届く電気が同じなのであれば特にデメリットは無く、他のサービスとのセット割引などの恩恵を受けるというメリットがあるのみと言って良いのかも知れません。

保険の抱き合わせ販売に問題はないか?

「顧客囲い込み」の手段として展開される多種目商品・サービスの「抱き合わせ販売」ですが、保険商品の場合はどうなのでしょうか? 
以前、あるクルマ販売店の営業マンから突然ガン保険の勧誘をされてびっくりしたことがありました。自動車保険ならまだわかりますが、クルマの販売とは全く関連のないガン保険の勧誘という商品拡大については、どこに「顧客の利益」があるのかは大いに疑問でした。実際にその営業マンは、保険のプロとは言えない自分が保険を販売するのは、お客様に不利益を与えるかも知れないので怖いと本音を語っていました(現在、この会社は保険の併売を止めているようです)。

バブル経済期の後半に資産家向けの相続対策、運用手段として、銀行と生保が組んで変額保険を大量に販売したことがありました。銀行から融資された資金を、当時好調な運用を続けていた変額保険の一時払い保険料として投入するのです。その後バブル崩壊で大きな損失を被った保険契約者が自殺した事案もあり、銀行・保険会社を相手に起こされた訴訟は400件以上になったと言われます。融資と保険の「抱き合わせ販売」の危険な事例と言えます。
その後2007年以降は金融自由化が進んで銀行自身が保険販売をするようになり、今度は変額保険の一種である「変額個人年金保険」が資産評価減などの相続対策を中心に大量販売されました。お堅い銀行の人が熱心に勧めてくれるのだから「大丈夫なのだろう」という思い込みから、商品特性や運用リスクの理解が不十分なままに契約してしまったという苦情が多く発生したという経緯があります。この例も「安定した預貯金」と「変動商品」との抱き合わせ販売と言えそうです。 

保険商品ではありませんが、同じように銀行での販売が解禁された投資信託についても、定期預金とセットで契約すれば金利をアップしますという「金利優遇・抱き合わせ商品」があります。たとえ定期預金金利が0.5%アップしたとしても、投資信託で元本を下回る損失が出れば「元も子もない」のですから、一体誰のための抱き合わせなのかと言いたくなります。当然ながら投資信託を販売する銀行には、販売手数料の報酬が「約束」されているのです。

クレジットカード会社から保険のお勧めが送られてくることがあります。私は保険が本業なので、なんとなく加入してしまうことはありませんが、「初年度無料でご提供!」などのお誘いに応じて、あまり吟味をせずに申し込みをしてしまう人も一定数いるのではないかと想像します(郵送コストをかけて行っている以上、一定の効果があるのでしょうから・・・)。
最初は無料でもその後、グレードアップなどの通知に反応して「なんとなく」有料で契約している人もいるかも知れません。また海外旅行の際に、クレジットカードに旅行保険が付いているからと安心していて、実際に旅行先で事故に合ったらあまり役に立たない補償内容だったというようなことも起きているそうです。

保険の選択にはコミュニケーションが必須

生命保険も損害保険も様々な保障が組み合わされて出来ていたり、保障対象の範囲や支払い要件なども多かれ少なかれ違いがあったりするのが実態です。 保険という商品はたとえ商品名が同じであっても中身が同じだとは限らないと考えておくべきで、基本的に品質の差がない「電気」とは全く性質が異なるのです。保険は個々の目的に応じて検討され、選択されるべき商品です。

以前、保険営業の際に「加入の主な目的は何ですか?」とお尋ねしたところ、お客様から「何度も保険の勧誘を受けているが、そんなことを聞かれたのは初めてだ」と感心されたという笑い話のようなことを経験しています。本来、保険の選択にあたっては良きコミュニケーション関係の中で、目的とその手段の綿密なすり合わせが必須であると考えます。
この5月から施行される改正・保険業法でも、保険を販売する過程での適切な情報提供と加入希望者の意向や適合性の確実な把握が、かなりの厳格性をもって求められています。
売る側と買う側が共にじっくり時間をかけて情報を整理し、目的との整合性を検討し合うことが必要な保険なのですから「ついでに、気軽に、まとめてお得に・・」が優先されるような性質のものではないのです。 合わせて販売される商品の特性が保険自体の価値判断に影響を及ぼしたり、あるいは保険の内容の吟味が疎かになったりすることは避けるべきでしょう。

また保険販売においては法律上、キャンペーン割引やセット契約割引などが認められていないので、他のサービスとまとめて契約することによる「保険自体のコストメリット」は無いはずです。通信料などのほうで何らかの優遇があったりしても、もしも保険そのものの中身が有益で最適な選択でなければ意味がありません。そうした観点から保険は抱き合わせ販売に適さないと、私は個人的に考えています。

参考

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この記事を書いた人

博多生まれの東京育ち。国立市在住30年。老舗機械商社営業マンから突然!脱サラ。当時外資系だった生命保険会社の営業マンとなり、独立自営へのステップとして成果報酬の保険営業を9年間経験。その後ファイナンシャルプランナー(FP)として独立し、現在は保険相談を中心に独立系FP事務所&総合保険代理店を経営している。
本当に必要で本当に役に立つ保障システムの構築と、資産の安定化の実現をサポート。誠実と向上心をモットーに顧客の利益最大化を目指す。

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