いつか起きる「想定外」… 地震保険の要・不要の判断基準は?

熊本を襲った大地震から2ヶ月が過ぎました、徐々に復興の兆しが見えはじめたものの、被災者の方々が元の生活を取り戻すにはまだまだ時間がかかることでしょう。被害に遭われた方々には心からお見舞いを申し上げます。

大災害が起きるたびに、どのくらい保険が役に立ったのだろうと、保険相談を生業とする者としては、つい気になってしまうものです。そこで今回の地震被害にかかわる保険の状況について調べてみたところ、地震大国日本における地震保険の悩ましい実態が見えてきました。

損害保険協会の発表によると、今回の地震にかかわる地震保険の支払い件数は16万8000件、保険金額は2724億円であり、現時点(6月6日)で阪神淡路大震災のおよそ3倍となっているそうです。

では、地震保険の加入状況はどうだったのでしょうか?

地震保険加入率、熊本県は全国平均と同等だった 

2014年度熊本県の地震保険の世帯加入率(契約件数÷世帯数)は28.5%でした。また火災保険契約に地震保険が付帯されている率(地震保険件数÷火災保険件数)は62%です(損害保険協会の統計資料より)。 

この世帯加入率は全国平均28.8%とほぼ同等であり、九州の中では福岡についで2番目に多いです。熊本は地震が少ないと見られていて、様々なメーカーが生産拠点を置いていると聞いていたので少し意外でした。しかし、やはり7割以上の世帯が加入していなかった。火災保険に加入している世帯もその内4割近くは地震保険を付けていなかったのが実態でした。

この加入率の違いの要因は様々あるかと思われますが、自分の地域に地震が起こる可能性についてどう考えるかということもその一つでしょう。そしてその根拠になり得る公表データの一つが「地震の発生確率」です。

「地震確率7・6%」熊本の教訓 数値低くても備え必要(6月11日 西日本新聞)

《要約》「関西は地震がない」との誤解があったことから、地震の可能性を全国に周知するために2005年にスタートした全国地震動予測地図だが、残念ながら今年の熊本地震でも同じ教訓が残った。

記事にあるように、政府の地震調査委員会が『全国地震動予測地図』の最新版を6月10日に発表しました 。データを見ると最も高い千葉市の85%に対して熊本市は7.6%となっています。素人の目ではこれは相当に大きな差であり、熊本の地震発生確率はかなり低いと感じるのが普通の感覚だと思います。しかし、その熊本市が大地震に襲われてしまったのです(ちなみに地震発生前の2014年データでも7.8%でした)。

「熊本は一見少ない8%弱の値だが、実際に地震が起きた。予測をどう防災、減災活動につなげるかを議論する必要がある」と語った調査委の平田直委員長(東京大教授)は、被災地の自治体や住民に地震への警戒が十分に理解されていなかったと残念がったといいます。

火災保険もカスタマイズの時代・・・では地震保険をどう考える?

近年、保険選びに関してはネットを中心に様々な情報が提供されるようになり、保険営業のお勧めのままに加入するのではなく、保障を取捨選択して”自分に合った保険選び”をしようという機運が増しているように思われます。

そうした消費者意識をくみ取り、また保険料競争のためもあって、火災保険でも補償内容の取捨選択がある程度可能な、”カスタマイズ型”の商品が増えてきています。

火災保険は火事だけではなく様々な災害を補償する保険ですが、例えば、「自宅はマンションの3階なので床上浸水はあり得ない」と判断して、水災害を除外するなどが考えられます。必要性の薄い補償をカットして節約するのは合理的な保険選びと言えるでしょう。それでは、地震についてはどう考えればよいでしょうか?

地震の発生確率データと現実の関係は?

大地震発生確率のデータから「自分の居住地域は確率が低い」と考えて地震保険に加入しなくて良いと判断する人は少なくないでしょう。しかし紹介した記事の通り、地震調査委員会は熊本の7.6%のように一桁台の確率でも「高い」のだと強調しています。各地域の確率が大きく異なっていても、日本全体は世界有数の地震大国なのですから、結局は「いつどこで起きてもおかしくない」ということになるのでしょう(『2014年防災白書』によれば世界の0.25%の国土面積である日本において、マグニチュード6以上の地震回数は世界全体の18.5%を占めているのです)。

熊本地震後の調査・分析によれば、被害が大きい建物の周辺に未知の活断層が見つかったり、過去の内陸直下型地震と違って「観測史上初めて」震度7が連続して起きるなど「想定外」の現象が明らかになりました。政府や公的機関が発表するデータがあっても、現実にはその想定を超えた災害が起きてしまうのです。これらデータのとらえ方をどう考えれば良いのか、我々生活者にとっても今後の課題と言えます。

「地震保険料は高い」のだろうか

大地震の発生確率と共に重要なものとして、住宅の耐震性が挙げられます。

1981年の建築基準法改正で住宅の耐震基準は引き上げられ、それまでの「震度5強で損傷しない」に加えて「震度6強~震度7でも倒壊しない」耐震性が求められるようになりました。基準改正の前と後では大きな違いがあり、熊本地震でも改正以前に建てられた家屋の倒壊が目立っているようです。

地震保険の保険料は耐震性の高い住宅には割引が適用されますから、耐震性の低い建物は相対的に保険料が高くなります。地域による保険料の差異も合わせると、どうしてもリスクが高めの住宅ほど地震保険加入のハードルが高くなってしまう可能性は否めないようです(リスクが高い人ほど加入し難いのは、どの保険にも言えるジレンマです)。

国民生活の安定確保を目指して、地震保険は国と民間保険会社が共同して広めようとしているのですが、まだまだ加入率が低迷しているのが実態であり、専門家の間では自動車賠償責任保険のように強制加入の制度導入も議論されています。

地震保険は火災保険とセットで加入する決まりですが、地震保険金額は火災保険本体の保険金の30%~50%の範囲で設定することになります。保険料は安いとは言えませんから、設定上限の50%にこだわらずとも、家計予算と相談して少し低めの設定での加入を検討しても良いかもしれません。

実際に被害に遭った場合に受け取る保険金は、必ずしも家屋の修理や建て替えに使う必要はなく、例えば移住するための準備資金にしたり、避難期間中の収入減の補てんに充てても良いのです。被災した方にとっては経済的にも精神的にも危機状態に陥った時に、ある程度のまとまったお金が有るのと無いのとでは大いに違うのではないでしょうか。地震保険は少額でも良いから加入しておくという考え方もあると思うのです。

地震保険はあまり役に立たないと思いますか?

損害保険料率算出機構が実施した意識調査結果(2015年)によると、地震保険は「保険料が高い割にいざという時にあまり受け取れない」というイメージがあるようです。前記のように一般の火災保険の50%までしか付保できないのに保険料は安くないし、被害規模の分類が全損、半損、一部損、という大分類になっていて実際の被害額には満たないケースが多いという評判もあるせいでしょう。

地震保険は国の防災対策の一環でもあり、官民共同で少しずつ改善が行われています。保険会社は儲けを度外視して運用していますし、国の税制では平成19年から地震保険料が所得税控除対象になりました。保険金支払い時の被害度分類もより実態に沿えるように改定が行われつつあります。

30年に一度、100年に一度などと言われ、一生涯に一度も使わないかもしれないけれど、日本のどこかで同胞の誰かが恩恵を受けている。もしもそれが自分に降りかかったときには、ああ、加入していて助かったと思える。保険は勝てない賭けごとだと言う方がおられますが、胴元が皆の金を巻き上げる類の博打とは異なり、自分の手元に戻ってこないお金が、どこかで困っている誰かを救っている、それが本当の保険なのです。地震保険は保険の原点とも言えるのではないでしょうか。

こうした観点から私は「地震保険にはすべての人が少額でも加入しておくべき」と考えます。

地震保険+日々の防災対策を

地震対策は地震保険だけではありません。地域や家屋の耐震強度を知る、家具類の転倒防止、水、食料、トイレ等の準備、緊急時の行動予定を家族で共有するなど、やるべきことは沢山あります。様々な対策を日常的に、出来ることからやっておくことが、地震大国に住む私たちにはとても大切です。

少し前に売り切れ続出で話題となった『東京防災』という東京都発行の防災ハンドブックには、具体的で現実的な地震対策、防災ノウハウがまとめられています。書店で買うと140円、電子書籍は無料です。一家に一冊、そして各自のスマホなどに登録しておくと良いと思います。

5年前の東日本大震災や今年の熊本地震などの様々な教訓が、私たちの生活の安定に出来る限り生かされるように私たち自身が日々努力することが、多くの犠牲者の方々への供養にも繋がるのではないでしょうか。地震保険の加入と、日常的防災対策の検討について再確認してみませんか。

参考

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