実は進んでいる! 同性パートナーでも死亡保険金の受取人に

2015年3月に、「同性パートナー証明は保険契約に変化をもたらすのか?」という記事を書きました。ちょうど、東京都渋谷区が同性カップルにパートナー証明書を発行する条例案を区議会に提出した時期でした。

記事が掲載された頃に、渋谷区の同性パートナーシップ条例が成立。世田谷区でも同様の動きが起きて話題になりました。区内に住む20歳以上の同性カップルに結婚に相当するパートナーシップを認める証明書の交付がスタートしました。

ちなみに、申請は渋谷区役所戸籍課に2人で出向いて行います。2人の戸籍謄本や公正証書(「任意後見契約公正証書」と、愛情に基づいた関係や共同生活における責任についての「合意契約公正証書」)が必要とされています。

当時は、自治体で認められた同性パートナーでも、お互いを保険金受取人にして保険契約をすることはできませんでした。一般的に、保険金の受取人になれるのは被保険者の法的に認められた配偶者か2親等以内の血族に限られていました。保険会社の中には、事実婚や内縁関係で認められる保険会社もありますが、それはあくまでも異性の場合で、同性パートナーは対象外でした。

そのため前回の記事では、裏ワザとして、2親等以内の血族をいったん受取人にして契約をした後に、改めて同性パートナーを保険金受取人に変更する方法をご紹介しました。

ところが実は、直後に大きな変化の波が起き、同性パートナー証明が保険契約に大きな変化をもたらしてきたのです。

目次

多くの保険会社で同性パートナーの保険金受取が可能に

まず、アスモ少額短期保険が、2015年4月に日本で初めて同性パートナーを保険金受取人に指定できるよう拡大しました。同性パートナーシップ証明書があれば、同性パートナーを死亡保険金の受取人に指定できるようになったのです。

その後、8月にアクサ生命が生命保険の保険金受取人に関する内規を見直し、同性パートナーを対象に含めることになりました。11月には、渋谷区で初の同性パートナー証明書の交付にタイミングを合わせる形で、ライフネット生命や第一生命、少しずれて日本生命が、死亡保険金受取人として指定できる範囲を拡大しました。

さらには、年末近くにはオリックス生命、年明け元旦よりジブラルタ生命、1月20日にチューリッヒ生命と続き、2月にプルデンシャル生命、そして4月にメットライフ生命と広がってきました。

■同性パートナーを保険金受取人に指定できる保険会社
保険会社開始時期
アスモ少額短期保険2015年4月9日
アクサ生命2015年8月1日
ライフネット生命2015年11月4日
第一生命2015年11月5日
日本生命2015年11月19日
オリックス生命2015年12月24日
ジブラルタ生命2016年1月1日
チューリッヒ生命2016年1月20日
プルデンシャル生命2016年2月1日
メットライフ生命2016年4月1日

同性パートナー証明書がなくても可能な会社も

自治体のパートナー証明書がなくても可能な保険会社も増えています。直近で変更したメットライフ生命の例でみてみましょう。

メットライフ生命では、下記の(1)および(2)の書類を提出すれば、同性パートナーであっても死亡保険金受取人になることができます。ただし、渋谷区が発行する「パートナーシップ証明書」または「渋谷区パートナーシップ証明書交付済証明書」の写しを提出する場合は(2)は不要です。

  1. 自治体が発行する「パートナーシップの証明書類」の写し
  2. 「任意後見契約の公正証書」(正本または謄本)または「生活、療養看護および財産の管理に関する事務を援助する旨の合意契約の公正証書」(正本または謄本)

メットライフ生命では既契約についても同じ対応をしており、書類を提出することで同性パートナーを死亡保険金受取人に変更することも可能です。

渋谷区ではパートナーの2人ともが区内在住であることを発行の条件としているため、一方が他の地域に住んでいるカップルや、そもそも渋谷区在住でないカップルには、渋谷区のパートナーシップ証明書が発行されません。その場合には、メットライフ生命のように、渋谷区のパートナー証明書がなくても手続きができる保険会社でないと保険金受取人にはなりにくいと言えます。ただし、冒頭に書いたように二次的に保険金受取人を変更する方法であれば可能ですので、絶対にできないわけではありません。

相続は相変わらず権利なし

 同性パートナーが死亡保険金受取人になることができても、問題は基本的には相続の権利がないことでしょう。同性パートナーは法的な婚姻に基づく関係ではないため、法定相続人には該当しません。そのため、相続財産を同性パートナーに残したいときには、遺言書は必須です。

また、相続時に配偶者に認められる1億6000万円か相続財産の1/2までのいずれか多い方を限度とした控除も、残念ながら認められません。死亡保険金に対する500万円の非課税枠も使うことができません。さらには、同性パートナーは遺族と認められないため、遺族年金も受け取れません。

博報堂DYグループのLGBT総合研究所の調査では、セクシャルマイノリティのLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)の数は、約5.9%だそうです。生命保険の保険金受取人が可能になったとはいえ、異性パートナーと同程度の権利を持つまでにはまだ時間がかかるのかもしれません。

参考

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この記事を書いた人

経済誌・経営誌などのライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャル・プランナー。FPラウンジ 代表。個人相談やセミナー講師の他、書籍・雑誌の記事や記事監修などを行っている。95年、保険商品の全社比較を企画・実行して話題に。「保険と人生のほどよい距離感」をモットーに保険相談に臨んでいる。ライフワークとして大人や子どもの金銭教育にも携わっている。座右の銘は「今日も未来もハッピーに」。

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