またも値上げ!の貯蓄型保険~「外貨建て保険」は強力助っ人となり得るか?

長引く低金利環境の影響で貯蓄性のある生命保険の保険料が上がるというニュースはここ数年繰り返し報じられていますが、つい先日もあらたな値上げの報道がありました。度重なる値上げに、「またか」と感じる人も少なくないでしょう。実際に終身保険・養老保険・個人年金保険・学資保険など(以下、貯蓄型保険とします)の保険料は2014年から毎年続けて値上げされており、商品によっては販売停止となったものもあります。

参考:おすすめ終身保険2017(円建て・外貨建て保険の実情)

今回の値上げは金融庁が設定する「標準利率」大幅低下の影響が大きいので、他の生命保険会社も追随する可能性が高そうです。

日本生命 4月から貯蓄保険料値上げ 他社も追随の方針

《要約》日本生命保険は貯蓄性が高く、毎月保険料を支払うタイプの終身保険や個人年金保険、学資保険などの保険料を約2~30%値上げすると発表した。日銀の大規模な金融緩和により低金利環境が続く中、運用難になっているため。

貯蓄型保険の保険料値上げは、死亡保障などのコストアップだけでなく貯蓄性の低下、金融商品としての魅力の低下でもあります。度重なる値上げを受けて、かねてより「保険には貯蓄性を期待するべからず」と主張しているFP諸氏の声がますます大きくなりそうです。

しかし貯蓄型保険にはそれぞれ一定のニーズが存在するので、これらが完全消滅することはおそらくないでしょう。史上最低水準の超低金利であっても銀行の定期預金という商品が無くならないのと同様です。消費者の多様なニーズに応えるためにも、保険料収入を確保するためにも、保険会社は一定以上の品揃えを維持しようとします。また日本人の「貯蓄好き」傾向を決して軽視できないという背景もあるようです。

貯蓄性の高い「外貨建て保険」販売が増加する傾向

そこで魅力の薄れた貯蓄型保険商品の販売力を回復強化するものとして徐々に増えているのが、日本の国債ではなく海外の債券などで運用する保険「外貨建て保険」です。

生命保険各社のHPなどで確認したところ、現在は生保41社中15社が外貨建て保険を販売しています。それら15社は多くが外資系または元外資系などであり、会社名にカタカナあるいはアルファベットが含まれない「漢字生保」(歴史の長い国内生保)は2社のみです。その漢字生保の大手である明治安田生命が、この夏に外貨建て商品の販売を開始する模様というのが先月報じられたこのニュースです。

明治安田が外貨建て保険 今夏メド、国内運用難補う

明治安田生命保険は今年夏をめどに外貨建て保険の取り扱いを始める。金融機関の窓口を通じ、保険料を一括で払い込む一時払い商品として販売する。2017年度から始まる中期経営計画では投資型商品の充実を柱の一つに据える。国債利回りの低下による運用難で円建て保険の販売が難しくなり、外貨建てで顧客をつなぎ留める。

少子化で国内の生保市場は縮小傾向にあると考えて、海外へ事業展開を進める保険会社が増えてきています。また、資金運用面でも海外資産に活路を見出そうとする保険会社が出てきていますから、その運用実績やノウハウを国内の保険販売に生かそうとする動きは、外貨建て保険の販売増を後押しすると思われます。今は15社の外貨建て保険の販売会社は今後増えてくる可能性がありそうです。

外貨建て生命保険とは何か

さて外貨建て保険とはどんな商品か、生命保険文化センターの概要説明を引用します。

外貨建て保険とは

日本の保険会社が販売する外貨建て保険の多くは米ドル、豪ドル(オーストラリア)及びユーロによって運用する商品です。現在、「終身保険」、「養老保険」、「個人年金保険」、「変額個人年金保険」などの一部に外貨建ての生命保険商品があります。

この商品は、外貨(米ドルやユーロ、豪ドルなど)で保険料を払い込み、外貨で保険金や解約返戻金などを受け取る仕組みになっていますので、例えば、受け取った外貨を円に換算する際、為替変動の影響を受け、場合によっては、日本円で受け取る保険金額などが円ベースでの払込保険料の総額を下回る可能性もあります。

外貨建て商品を販売する保険会社が謳う最大のメリットは「日本よりも高い金利での運用が可能」ということです。運用利率が高ければ保険料は安くなります。値上げが続く円建ての保険に比べて、外貨建て保険はどのくらい安いのか、某社の米ドル建て終身保険で実際の違いを見てみましょう。

※以下に提示する保険金額、保険料、解約返戻率などの数値は、外貨建て保険の特長や概要を示すために手元の資料を基に試算した例示です。実際の保険商品の説明ではありません。

実際どのくらい魅力的なのか

30歳男性が死亡保険金1,000万円で加入する終身保険(円建て)の60歳払い保険料は月額25,000円です。同じ保険会社の米国ドル建て終身保険はどうでしょうか。保険金と保険料は共に〈1ドル=110円〉で試算してみましょう。

死亡保険金91,000ドル(円換算1,001万円)の米ドル建て終身保険の60歳払い保険料は128ドルで、円に直すと14,080円です。25,000円と14,080円の違いです。

日常の買い物感覚で言えば、同じ物が4割以上安い値段で買えるのですから、テレビショッピングの年末特別大感謝セール並みの安さですぐにでも買いたくなる、或いは反対にあまりの安さに何か疑念を持つくらいの差額かも知れません。

終身保険には死亡時の保障だけではなく、老後資金などに積立金活用するというもう一つの機能があります。将来の積立金に関しては利率の違いがどんな影響をもたらすでしょうか。上記の例で65歳時点の解約返戻率(返戻金額÷保険料総額)は円建て保険が90%でドル建ては120%です。こちらも外貨建てが大いに有利です。

ドル建て終身保険は円建てに比べて保険料が4割も安く、しかも将来の積立効果も3割も高いという魅力ある商品ということになります。しかし、これはあくまでもドルという外国通貨ベースでのメリットであり、当然検討しなければならないのが為替レートの変動リスクです。

1ドル=110円の時に1000万円に相当する金額で加入した生命保険の保険金91,000ドルは、実際に受け取るときのレートが1ドル=80円になっていた場合は728万円(91,000×80)となってしまいます。もちろん逆のケースもありますが、どっちになるのかは不確定で、これが為替変動リスクです。前出の生命保険文化センターHPの説明にもあるように、『受け取った外貨を円に換算する際、為替変動の影響を受ける』のです。

為替の変動によっては、ドル建て保険に加入したメリットが吹き飛んでしまうことがあるのかどうか、外貨建て保険の加入検討には当たり前ですが為替リスクの理解が必須課題です。では、円=米ドルの為替レートの推移はどういうことになっているでしょう。リスクを理解するためには過去の実績データの確認が必要です。

為替レート変動はどのように推移するのか

為替レート推移は、現在のリアルタイム情報から、過去1年、10年、20年、30年など様々なデータをインターネット上で確認することが出来ます。

米ドルと日本円の為替レートを過去20年のデータで見てみると、ドルが最も高かった(円安・ドル高)のは2002年の135円台で、最もドル安だったのは2011年の75円台です。それではドル=円は今後もこの辺りの範囲で推移するのかというと、もちろんそれは誰にも断言できません。

トランプ新大統領の政策によって当面はドル安に推移するというエコノミストがいると思えば、アメリカの金利上昇からドル高になるという意見もあります。(つい先日、トランプ大統領が夜中に側近に電話をして「アメリカにとって高いドルと安いドルのどっちが良いのか」と質問したという興味深いニュースもありました)

為替変動リスクについての様々な見解をまとめて表現すると「結局どうなるか分からない」ということになってしまいます。エコノミストの研究対象として、或いは各種コメンテーターのネタとしては、様々な推論や予測理論が存在するかも知れませんが、現実の家計において一般消費者が選択検討する際にどの意見を採用するかの判断は容易ではありません。

しかし、だからといって「リスク商品はやめましょう」ということではありません。為替の変動が怖いからと、今のような金利ほぼゼロのままで何も対策をせず、将来大いに後悔することになるかもしれません。為替変動はリスクですが、超低利率に甘んじて動かずにいることは機会損失のリスクでもあるのです。どのような性質のものであれ、何かを選ぶときは常にリスクが存在します。リスクを確定することが不可能でも、リスクの性質を知って、自分のリスク許容範囲を見極めて、賢い選択をしたいものです。株式投資などの資産運用と同じように、外貨建て保険の活用においても「市場は予測できない」という大原則のもとで検討をするしかないのだと思います。

為替レート変動幅について、リスク許容範囲を検討する

リスクのある商品を購入、契約する場合にはそのリスクの性質を知り、自らの資金計画はどの程度のリスクまでを許容できるのかを判断することが大事です。1ドル=110円の時にドル建て終身保険の契約をした人は、将来どの程度のドル安になると損をするのでしょうか。その損得の分岐点が分かれば、ドル建てを選択する際の判断材料になりそうです。

例えば外貨建て個人年金で10年後に受け取れる年金額(もちろん外貨で)が保証されているという場合に、受取時点の為替レートがいくらであれば元本割れとなるのか、これは容易に検討可能です。終身保険の場合も、遺族生活保障や相続対策上で必要な金額を設定した場合に、将来保険金受取時点の為替レートがどの程度のレベルまでなら想定内と言えるのかと考えることになります。

為替レートの変動幅をどの程度までなら受け入れるのか、リスク許容範囲をどの程度想定した計画とするのか、決めるのは自分自身です。

保険金受取時点に想定以上のドル安になっていた場合に、受け取った保険金をすぐに円に換えることなく外貨のままにしておく選択肢もあり得ます。ドルで受け取った保険金を外貨預金などで運用して、満足できる為替レートになる時を待つのは合理的な選択です。海外での仕事が頻繁にある人や、家族で海外旅行に行く機会が多い人なら、為替レートの悪い時期に円に換金する必要はないでしょう。外貨建ての為替変動リスクは、外貨を使う機会のある人にとってはリスクではなくなるのです。しかし、そういう機会のある人かどうかや、保険金を受けた相続人に資金的余裕があるのかどうかなどはケースバイケースです。

こうして考えてみると外貨建て保険が良いのか悪いのかの判定基準は、他のすべての保険商品・金融商品と同様に「活用する目的との整合性」「契約者自身のマネープランの基本姿勢」によって異なるということになるでしょう。

外貨建て保険選択時の留意点

以上見てきたように、外貨建て保険は魅力的でもあるがリスクもある商品です。検討するときの留意点をあげておきます。

1)販売担当者の力量を見る

外貨建て保険のパンフレットを見ると、一般消費者にとって見慣れない文言が並んでいます。「基本保険金額」「積立金額」「第一運用期間・第二運用期間」「基準金利」「最低保証利率」「市場価格調整適用利率」「予定利率保証期間」「保険関係費用」等々です。

販売担当者がこれらすべてを一般消費者に分かり易く説明できる人かどうかは重要です。これらに疑問を持って質問した際に分かり易く説明してくれるでしょうか?

2)商品の本質的な特性を理解する

保険としての商品特性と変動金融商品としての特性を併せ持っている商品なので、法律で定められた「説明すべき重要なこと」が非常に多く、説明をするのも聞くのも大変です。あまりの情報量の多さで、本質を見落とさないようにする視点が必要です。確定部分と未確定要素、一時払いか毎年払いか、満期のある年金商品か終身保険か、そもそも保険として必要なのかなど重要な点を確認しましょう。

3)自身の目的を確認する

販売する側には「契約したい」という明確な目的があります。買う側もその熱意に負けないくらいの目的意識を持ち、自身にとって本当に必要なのか、有効なのか、欲しい商品なのかを常に問いかけましょう。「熱心に勧められたから」や「他に良いものが無さそうだから」だけで飛びつくのはとても危険です。「貯金の替わりに」も「子供に残す」も「資産を分割する」もすべて、ご自分が目的を明らかにしてから検討するべきです。

4)判断材料としてのデータの見方

為替レート変動の過去データはどういう視点で見るかによって見え方が変わります。

例えば過去1年のグラフを見ると、ドルがズルズルと安くなってきたが反転して大きく上がり、今は高い位置に戻ってきて勢いがあるような印象です。5年データはドルが底辺から這い上がって来て高い位置で安定しつつあるように見える。しかし10年データを見ると、ドルがズルズルと下がった後、反転して高くなっているが、またズルズル下落するかもしれないなあと感じます。

グラフを見て感じる直感的な印象であり何の根拠もありませんが、人間の経済行動が多くの場面で感情や印象に支配されうることは行動経済学が証明しているところです。

グラフの横軸(表示される期間)が短いと長いのでは印象がかなり異なります。為替変動傾向をどの期間で見るかによって、全く逆の印象を持つこともあるので、そういう点をあらかじめ知っておくべきでしょう。

▼ドル円レート:1年間の推移

ドル1

出典:http://www.pwalker.jp/rekishi.htm

▼ドル円レート:5年間の推移

ドル5

出典:http://www.pwalker.jp/rekishi.htm

ドル10

出典:http://www.pwalker.jp/rekishi.htm


5)外国為替の決定要因はなにか

為替を動かす要因はなんでしょう。国の経済成長率か、経済の安定性か、財政状況か、時の政権の政策次第なのか、または軍事バランスでしょうか?金融の基本書には「購買力平価説」「国際収支説」「為替心理説」「アセット・アプローチ」など諸説が並んでいますが、どれが正解というものではないようです。必ずしも金融経済の本を読むべきということではなく、為替の影響を受ける商品を買うのなら、少なくとも「為替とは何か」を考える姿勢だけはもつべきだと思います。

為替レートの決定要因はいったい何だろう、この疑問を突き詰めてゆくと、おそらくはお金とは何だろうという貨幣論の世界に入ってしまいそうです。100ドル紙幣も1万円札も、それを誰もが同じ価値として受け取ってくれるという、互いの了解があるから成り立っているのがお金の真実です。お札を見たこともない絶海の孤島の住人にとってはただの紙切れです。経済というのはなんとも訳の分からない「信用関係」の上で成り立っている、という基本の基本に立ち返ってみることも、たまには必要なのかもしれません。

参考

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