普及が進む「先進医療給付金の医療機関宛直接支払いサービス」

朝日生命保険相互会社は2017年6月29日、同社の「先進医療特約」など先進医療を受診した際に技術料相当額を支払う特約について、先進医療給付金を受診した医療機関に直接支払う「医療機関直接支払サービス」を7月3日から開始すると発表しました。

//www.asahi-life.co.jp/company/pressrelease/20170629.pdf

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先進医療は時々刻々変わっている

先進医療とは、先進的な医療技術のうち厚生労働省が定める病院において行われるものです。AとBの2つの種別があります。

  • 先進医療A・・・
    未承認・適応外の医薬品や医療機器の使用を伴わない医療技術などです。実施可能な医療機関の施設基準が定められています。
  • 先進医療B・・・
    未承認・適応外の医薬品や医療機器の使用を伴う医療技術などです。医療機関ごとに個別の実施の可否が決定されます。

2017年7月1日現在、先進医療Aは36種類、先進医療Bは68種類、合計104種類あります。公的医療保険制度が適用されないので、受診の費用は全額自己負担となります。これらは先進医療として認定された後は随時見直され、新規で追加されたり、逆に公的医療保険が適用されるものとなることもあります。また、実施の取り下げや削除などにより減少することもあります。つまり、時々刻々変化しています。

先進医療は公的医療保険と併用できる

通常、公的医療保険が適用されない治療・投薬などを受けた場合は、保険診療分を含めて全額自己負担となってしまいます。

しかし、差額ベッドなどの「選定療養」については全額自己負担となりますが、保険診療との併用が認められています。

また先進医療についても、将来的に公的医療保険制度が適用となることをめざして現時点でその評価を行う「評価療養」として、「保険外併用療養費」が適用されることになっています。つまり、先進医療部分は全額自己負担となりますが、公的医療保険適用部分は一部自己負担をすればよいことになります。また、「高額療養費」が適用されるので、1人・1医療機関1暦月の自己負担に一定の限度額が設けられます。

先進医療にかかる費用はどれくらいかかるのか

2017年1月に先進医療会議(厚生労働省)で発表された、2015年7月1日から2016年6月30日の1年間の先進医療Aのうち、1件当たりの先進医療費が最も高額であったものは、重粒子線治療で約309万円でした。次いで陽子線治療で約276万円でした。これらはがんの最先端治療で、がん細胞にピンポイントで粒子線を当てることで効果的に治療を行うものです。このように粒子線治療は高額な医療費がかかり、それが全額自己負担となります。

がん患者は年間約100万人の増加、がん患者全体では約163万人に上りますが(厚生労働省「患者調査))、重粒子線治療または陽子線治療を受けた人は直近1年間で合計3,800名程度、わずか0.2%です。消化器系のがんなど、粒子線治療が適応とならない人も多いことも事実ですが、費用の面でも大きな壁となっていると考えられます。

それ以外の先進医療の多くは数万円、または数十万円のものが多く、この2つの粒子線治療の費用が突出していると言えます。

先進医療特約が有効に機能する「医療機関宛直接支払サービス」

このように、高額な医療費を保険商品で備えることは、合理的なリスクマネジメントの手法であると思います。最近の医療保険やがん保険では、先進医療特約を付保できるものが一般的になってきました。

問題は、先進医療にかかる高額な医療費を、いちど患者が立て替えなければならない点です。その時点で十分な預貯金があれば問題ありません。しかし技術料相当額の資金が手元に無い場合は、保険商品に加入していても、医療機関への支払期日までに資金の準備ができないことになります。

そこで、技術料が全額自己負担となる先進医療の中で、とりわけ高額となる陽子線治療および重粒子線治療について、患者自身による費用の準備や医療機関への送金手続きなどの負担を軽減するために、医療機関宛直接支払サービスを取り扱う保険会社が増えてきました。朝日生命もこの動きに追随し、このサービスを開始することになったのです。朝日生命では、先進医療として重粒子線、陽子線治療を行う日本国内すべての医療機関(2017年6月29日時点で16医療機関)において、利用できるとしています。

先進医療を広く保障する特約であっても、このサービスが使えるのは重粒子線治療、陽子線治療に限定されているものが一般的です。また、保険会社によっては、このサービスが適用される医療機関の中に、治療を受ける医療機関が含まれていない場合もあります。実際にこれらの粒子線治療を受診する前には、保険会社に連絡することも必要ですので注意してください。

助成金や先進医療保険専用ローンによる資金準備方法もある

保険商品以外で、緊急に発生する高額な先進医療の費用を準備する方法があります。

たとえば神奈川県では、神奈川県立がんセンター(横浜市旭区)で重粒子線治療を受けた県民を対象に、公的医療保険の対象とならない医療費について、35万円を助成する制度があります。治療費を支払う日時点で、引き続き1年以上神奈川県内に居住していることが要件です。

さらに神奈川県立がんセンターでは、横浜銀行、スルガ銀行と提携し、重粒子線治療を受ける人のための専用ローンを取り扱っています。重粒子線治療の治療費350万円と前記の助成額35万円の差額315万円を借入金の上限として、それにかかる利子相当額を補てんする利子補給制度も併せて設けられています。

先進医療として重粒子線治療・陽子線治療を行っている医療機関のある、福岡県、鹿児島県、群馬県、茨城県などの各県で同様の利子補給制度があります。

いずれの制度も、民間の保険商品で「先進医療特約」から助成額または融資額を超える給付金を支給された場合は、この制度を使うことはできません。

まとめ

先進医療の認知度が高くなったことにより、その資金準備の方法についての関心も高まってきていると言えます。先進医療特約に医療機関への直接支払のサービスがあれば、この保障が有効に機能することになるでしょう。その結果患者のがん治療の選択肢が増えることにつながるでしょう。時々刻々と変化する先進医療に対して、このサービスが今後どのように変化していくのか。注目していきたいと思います。

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この記事を書いた人

1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。 生命保険会社を経て、現在、独立系ファイナンシャル・
プランニング会社である株式会社ポラーノ・コンサルティング代表取締役。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 CFP®認定者認定者。十文字学園女子大学非常勤講師。
個人に対するFP相談業務、企業・労働組合における講演やFPの資格取得支援、大学生のキャリアカウンセリングなど、
幅広い活動を展開している。

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