老齢年金の受給資格期間が10年に短縮されることで見えてきたもの

「年金機能強化法」の一環として、平成29年8月から、公的年金の老齢給付を受給するために必要な資格期間が短縮されました。皆さんはご存知でしたか?

《要約》これまでは、老齢年金を受け取るためには、保険料納付済期間(国民年金の保険料納付済期間や厚生年金保険、共済組合等の加入期間を含む)と国民年金の保険料免除期間などを合算した資格期間が原則として25年以上必要でした。 平成29年8月1日からは、資格期間が10年以上あれば老齢基礎年金、老齢厚生年金を受け取ることができるようになりました。

「人生100年時代」を生き抜くためには、一部の富裕層を除いて、公的年金の老齢給付はやはり大きな柱と言えます。国民共通の老齢基礎年金を受給するための要件が緩和されたことは、朗報であることに変わりありません。この点が緩和されたということは、会社員・公務員の老齢厚生年金の受給要件も緩和されたことになります。

しかし、今まで通り、原則として20歳から60歳になるまでの40年間保険料を支払う義務があることには変わりありません。また、公的年金、特に老齢基礎年金を知ることで、公的年金の受給について留意しなければならない点が、あらためて浮き彫りになってきました。

目次

直近の受給者は「カラ期間」の確認を!

今回の措置で、新たに年金を受給できることになった人は、日本年金機構から黄色い封筒で年金請求書が郵送されることになっています。また、受給資格期間が10年未満の人に対しても平成29年中にお知らせが送付されるようです。

//www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2017/20170801.html

該当する人は到着しているかどうか、確認してみましょう。

 受給資格期間を算出する際の内訳として、保険料を納付した期間(サラリーマンの被扶養配偶者の期間も含みます)、保険料免除期間に加え、合算対象期間(カラ期間)というものもあります。これを念頭に入れなかったために、受給資格期間を満たさないと誤解している人がいらっしゃいますので、簡単に説明しておきましょう。

「カラ期間」とは、以前国民年金に任意加入だった期間に、実際に加入していなかった期間です。この期間は年金の受給資格期間に算入することはできるのですが、年金額には反映されない点に注意してください。

過去に国民年金の任意加入であった期間は以下のケースです。

  1. 昭和61年3月以前に、サラリーマンの被扶養配偶者だった期間
  2. 平成3年3月以前に学生だった期間
  3. 海外に住んでいた期間
  4. 昭和61年3月以前に脱退手当金を受給した期間

などです。

離婚により分割された年金を受給する人もメリットと留意点

平成19年に、離婚時に相手の老齢厚生年金を分割できる制度ができました。例えば、婚姻(事実婚を含みます)してから離婚までの夫の年金記録を分割し、それに対応する老齢厚生年金を妻が受けることができるものです。

従来は25年の老齢基礎年金の受給資格期間を満たさなければ、分割された老齢厚生年金を受給することはできませんでした。

今回の制度改正で、10年の受給資格期間を満たせば、分割された老齢厚生年金を受給することができます。ただし、前述の例では、夫の老齢基礎年金部分は分割の対象外で、妻の老齢基礎年金の金額は、あくまで妻の加入期間に基づくものになります。したがって、受給資格期間を満たしていても、その年数が短期間である場合は、後述のようなリスクがあります。

受給資格期間ギリギリの場合は、年金額はごくわずか!

いくら受給資格期間が10年と短縮されても、老齢基礎年金は加入期間に応じた金額にしかなりません。平成29年度の老齢基礎年金の年額77万9,300円は、40年加入した場合の金額です。

ピッタリ10年の加入期間だと、その4分の1になります。したがって、年額19万円あまり、月額では1万6,000円程度にしかなりません。

今回の改正で、受給資格期間の短縮措置が行われても、受給できる老齢基礎年金の金額が定額となることがあり、「これではいけない」という認識が高まってくるのではないでしょうか。それにより、長寿化に少しでも備えるモチベーションが高まってくることになると思います。

あきらめていた老齢年金を受け取る資格を得たり、年金額を増やするためには、いくつかの方法があります。スペースの関係で詳細は省略しますが、60歳から65歳まで任意加入する制度、平成30年9月までの特例である後納制度(過去5年以内に国民年金保険料の納め忘れがある場合でも、保険料を納めることが可能)・特定期間該当届(第3号被保険者の届出漏れの手続き)があります。

個人事業主は他の制度を組み合わせて年金に厚みを!

個人事業主の年金額に厚みを持たせるために、他の制度と組み合わせる方法があります。

まず、国民年金基金や個人型確定拠出年金の制度です。いずれも、国民年金の保険料を納めていることが、加入できる要件です。保険料が未納となっている場合や、障害基礎年金を受給している場合を除き、国民年金の保険料が免除されている期間は加入できません。両者を合わせて年間81万6,000円が掛金の限度額となっています。

もうひとつ、個人事業主の老後の年金づくりの制度として、小規模企業共済があります。これは年間84万円まで掛金を拠出して積み立てることができます。

これらの制度の掛金は、全額個人事業主の所得から差し引くことができます。その結果所得税・住民税を軽減することができることが大きなメリットです。老後資金の準備のためには、最優先で活用したい諸制度です。

遺族年金・障害年金では要注意!

老齢年金の受給資格期間は短縮されましたが、遺族年金、障害年金については、この要件が適用されていないために、いくつか注意しなければならない点があります。

(1)遺族厚生年金

遺族厚生年金は、現役の会社員や公務員が死亡した場合などには、加入期間は問われません。

それ以外の場合は、従来と制度が変わっておらず、今回注意すべき点です。

既に老齢厚生年金を受給している人が死亡した場合、妻などの一定の遺族に遺族厚生年金が支給されます。ただし、受給資格期間が25年未満となっている老齢厚生年金を受給している人の遺族は、遺族厚生年金を受給することができません。

例えば、入社して20年間会社員を経て退職し、そのまま60歳まで国民年金を未納のまま65歳を迎え、老齢厚生年金を受け取っている人が死亡したケースなどです。

また、入社して20年間会社員を経て退職し、そのまま国民年金の保険料を未納のまま、50歳で死亡した場合なども同様に遺族厚生年金が支払われません。受給資格期間が25年未満であるため、従来どおり遺族厚生年金を受給できる要件に合致しないためです。

 (2)障害基礎年金

1級・2級の障害状態となった場合には、障害基礎年金が支給されます。その要件のうち、保険料納付要件として、障害の原因となった病気やケガの初診日前日において、以下のいずれかを満たさなければなりません。

  • 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること。つまり3分の1以上の保険料未納の期間がないこと
  • 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと

いくら10年以上保険料をおさめていても、上記の要件をいずれも満たさないケースであれば、障害基礎年金は支給されません。

まとめ

公的年金は、遺族給付と障害給付がセットされたトンチン年金です。その前提として、保険料の納付要件を満たさなければならないことを、しっかりと認識したいものです。

今回の改正は、特に保険料の納付で問題が起こりやすい個人事業主などの老齢年金や、障害年金・遺族年金を含めた公的年金制度を改めて見つめ直す契機となったのではと思います。

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この記事を書いた人

1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。 生命保険会社を経て、現在、独立系ファイナンシャル・
プランニング会社である株式会社ポラーノ・コンサルティング代表取締役。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 CFP®認定者認定者。十文字学園女子大学非常勤講師。
個人に対するFP相談業務、企業・労働組合における講演やFPの資格取得支援、大学生のキャリアカウンセリングなど、
幅広い活動を展開している。

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