読まれざるベストセラー? 保険の「約款」の抑えどころとは

先般、金融庁が数社の生命保険会社の「約款」について修正を求めたことが報じられました。
その修正とは次のようなものでした。

生保4社、約款に「遺伝」「家族歴」記載…金融庁が削除命令

《要約》金融庁は、生命保険会社4社が保険の契約内容を記した約款に、遺伝に関する記載をしていたことが判明したので、不適切な表現として削除を命じたことを発表しました。 家族の病歴などの遺伝情報を加入審査に使っていると取られかねない内容で、各社とも同庁の命令に応じる方針だということです。

金融庁は、生命保険会社4社が保険の契約内容を記した約款に、遺伝に関する記載をしていたことが判明したので、不適切な表現として削除を命じたことを発表しました。

家族の病歴などの遺伝情報を加入審査に使っていると取られかねない内容で、各社とも同庁の命令に応じる方針だということです。

保険会社は約款のこの記載について「今は家族歴を加入審査に使っていないが、約40年前の記載が残っていた。」と説明したのだそうです。人種差別と受け取られかねないこのような記述が長期間にわたって見過ごされていた事実は「保険の約款があまり人目に触れる機会が少ない」ことの証左ではないかと思います。つい先日「広辞苑」改訂版が発売された直後に、「LGBT」の説明が不正確との反応があったこととは対照的な事例と言えます。実は保険の約款は発行部数がとても多いのに、実際には読まれていないのではということから、業界内では「日本で最も読まれないベストセラー」などと揶揄する人もいるのです。

保険加入=契約の締結です

保険加入のことを「保険に入る」と言う人が少なくありませんが、正確に言えば「保険会社と契約を結ぶ」ことです。とかく日本人には「契約」という概念に敏感ではない人が多いように思います。商取引の相手側の誠実さを信じて疑わない「性善説」的な感性はある意味で日本人の良さでもありますが、契約内容についての理解を曖昧にすることは無用なトラブルを招きやすく、経済的損失にも繋がりかねませんから、出来るだけ避けるべきでしょう。

保険契約の内容は非常に多くの項目にわたっており、その詳細は「約款」に記されています。保険会社と契約をする者はその約款に書かれたことを了解したうえで契約しているということになりますから、もしも、将来自分にとって不利益が生じた場合であっても、「約款にあるとおりでございます」と言われてしまえば致し方ないことになるかもしれません。

実際に生命保険申込書には「貴社の保険約款の内容を了承したうえでこの契約を申し込みます」などと記されています。ですから保険契約にあたっては約款をきちんと理解して臨みましょう、と言ったところでそれはあまりに建前論ではないでしょうか?100頁以上にも及びあの小さな文字で書かれている、無味乾燥に感じられる書面をすべて読むことは非現実的かも知れません。しかし、決して少額ではないお金を保険料として払い続ける保険について、その中身を理解したほうが良いことに間違いありません。そこで、保険の約款、特に生命保険契約の約款の押さえておきたい重要事項について整理します。

約款等の書面の基本構成

生命保険契約の約款は保険会社によって多少違いはあるものの、概ね同じような構成になっています。基本は以下の3つで、これらが一冊にまとめられているものと、別冊になっているものがあります。契約をしようとする人はこの3つの基本に加えて、更に保険商品の特長を分かり易くまとめた「商品パンフレット」と、契約者(被保険者)毎に個別に作られる「保険設計書」の説明を受けることになります。

【A】「約款」……約款の本体は民法、刑法などの法律と同じように条文の羅列です。

実際の契約内容には含まれない特約なども含めて、すべてが記載されています。

【B】「契約のしおり」……契約する保険商品のより具体的な内容が、主契約と特約ごとに解説されていて、約款本文の“要点抜粋版”と言える内容です。

【C】……「契約概要と注意喚起情報」・・契約する保険商品がどのような場合に、どのような保険金、給付金を受け取れるかなどをまとめた「概要」と、契約に際しての特に注意すべき事柄、契約者にとって不利益となりうるケースなどについてまとめた「注意喚起情報」です。

「約款(本文)」の各条文を無理なくふむふむと読み進められるのは、おそらく法律の専門家か法学部の大学生くらいではないでしょうか。(例えば、【第〇条・第〇項に定める支払事由(以下「支払事由」と言います)により保険金を支払う場合は(第〇〇条の規定並びに別表〇〇の各項に定める場合を除く)云々・・・・】といった具合です。

現実には契約に際して一般の消費者が行うのは、BとCの要点について、保険会社や代理店の担当者の説明を聞きながら理解する、ということになるでしょう。

さてそれらの資料を理解するにあたり、最低限抑えておきたい要点を挙げてみます。

要点1:契約前の重要確認事項

当り前ですが、保険商品の内容が、自分の求める保障に合致しているかどうか、ここが未確認のままでの契約はあり得ません。例えば医療保険であれば、将来自分が病気になった場合を想像して、具体的にどんな手続きが必要で、どんな場合にどれくらいの受取が可能なのかを試算してみて、理解が不十分であるなら担当者に遠慮することなく質問をしましょう。

なお経験上感じている点として、保険料額ばかりに目を取られて、保険期間や保険料払込期間の認識が薄くなってしまうこともあります。保険期間が短かければ保険料が安いが、期間終了後はどうするのか。あるいは終身払い保険料は安く感じるが、支払累計はどうなのか、短期払いを検討するべきかどうかなども含めての確認が必要です。保険の対象、保険金・給付金の種類、実際の支払い額、保険期間、保険料払込期間、保険料額、すべての要素が理解すべき内容です。

要点2:保険金や給付金を受け取れない場合

「どんな場合に受け取れるか」と合わせて「受け取れないケース」の確認も重要です。受け取れないケースの説明は、販売する側には「マイナスイメージを強調したくない心理」が働くこともあるかも知れませんから、遠慮していれば曖昧になりがちです。また、こういう点についてあえて丁寧に説明をするかどうかは、担当者の質の良さを見極めるポイントとも言えそうです。

要点3:保険金や給付金の支払い要件と手続き

より踏み込んだ具体的な支払い要件や必要な手続きなどは、実際に支払事由の発生した際に確認すれば良いと思いますが、いざという時には色々と大変な状況に置かれ、落ち着いて確認するのは困難かも知れません。「契約のしおり」の中の【給付金の請求】の項目について、ここにこんなことが書かれていると知る程度でも良いですから、一度目を通した方が良いでしょう。

要点4:契約後の変更について

死亡保障であれ医療保障であれ生命保険契約は長期間にわたることが多いですから、ご自身の環境変化や家族状況の変動もあることでしょう。結婚や離婚、転職とか経済的な急変など、状況が変わった場合に保険を見直そうと考える場面も出てくるでしょう。しかし、状況が変わったからと言って、必ずしも保険を切り替える(解約して別の保険に変えたり、或いは転換などの手続きをする)ことが必要になるとは限りません。例えば保険金の増額とか減額、保険期間の短縮や延長、払い済みへの移行、特約の中途付加或いは特約のみの解約、などなど、元の契約を基本的に生かしたままで契約後の状況変化に対応できる様々な制度があります。生命保険は年齢が上がるごとに保険料が上がる商品ですから、可能な限り若い時の条件を維持したほうが有利な場合が多いのです。どんな時にいくらもらえるかだけではなく、どのような変更制度があるのかを知っておくことは、長期間にわたって投入する資金の無駄遣いを防ぐ意味でもとても重要です。

要点5:約款の「別表」について

例えば支払い対象となる疾病の種類とか手術名称、対象となる身体障害の具定例などは条文の中ではなく「別表」にまとめられており、通常は巻末に近いところに整理されています。特定疾病とはどんなものなのか、高度障害とは、医療機関とは、入院とは・・等々、この別表を眺めてみることでイメージできることもあるでしょう。最近の医療保険などでは、別表には具体例の記載がなく、公的医療保険制度で定めている「医科報酬点数表」を参照する必要がある場合もあります。(別表のそのまた別表!)

例えば対象となる手術はどんなものがあるのかなどは、面倒がらずに一度でも見ておけば、いざという時に何を確認すれば良いのかを思い出すことになり、適正な請求と迅速な受取実現にもつながるでしょう。前述のように保障対象の手術が公的医療保険制度で定めたものとなっていたり、先進医療の定義や要介護状態の判定が公的医療・介護保険制度を参照するようになっていたりと、最近の保険商品は社会保障制度との関連性が強まっている傾向です。別表の理解を通じて、更に公的医療制度の規定などに触れる機会となる場合もあるでしょう。別表には是非一度目を通しておきましょう。

保険のプロにも見落としがあるかも

前記の通り保険商品とその内容は多様化・複雑化の傾向にあり、また保険の適用要件などが社会保障、医療制度などと密接に関わっている現状もあります。保険のプロである担当者諸氏は果たして、保険商品内容のみならず周辺状況も含めてきちんと把握しているでしょうか。

実際に入院した場合などに営業の担当者に聞いたら「それは対象外です」と言われたが、本当は保障されるべきものであった、というようなケースも絶対無いとは言い切れません。そうした行き違いは契約者にとっても保険会社にとっても望まれる事態ではありません。自分が結んだ契約の内容は本来、人任せではなく自分で確認するべきものです。契約者は「お客様」ではありますが同時に「契約当事者」なのですから、「何かの時はいつでもご相談下さい。」と言ってくれる親切な担当者がいたとしても、契約の約款を理解しようとする意識は持っていただきたいと思います。提供する側の保険会社も、約款の冊子のサイズや文字サイズを大きくしたり、視覚的配慮も含めて要点整理した概要を読みやすくしたり、パソコンなどで閲覧したり項目を検索できるようにしたりと、様々な取り組みも行っている昨今です。

「保険の約款=読まれざるベストセラー」の汚名返上を願うものです。

参考

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