新入社員は狙われる?保険営業の絶好のターゲットにならないために

 

桜前線が日本列島を北上中です。今年の桜はどんなだろうか、いつまで楽しめるだろうかなどと老弱男女の間で話題になるこの季節に、もう一つあちこちで語られる話題に「今年の新人はどんな性質か?」というものがあります。桜の季節は新入社員がビジネス街にデビューする季節でもあります。期待と不安を胸に新たな一歩を踏み出す新入社員たちには、それぞれの世界で様々な試練が待ち受けていることでしょう。一方、大いなる期待とともに新入社員を待ち受けている人たちもいます。その代表格が保険営業(特に生命保険)の人たちです。

筆者の新入社員時代には大手生保各社に一人ずつ、会社への出入りを許された担当者がいて、彼女たち(全員女性でした)は昼休みや夕方の退社時間前後にパンフレットを手にして、毎日のように会社の入り口に立っていたものでした。一度も話を聞いたことのない私ですら、数か月後には皆さんの顔と名前が一致するほどでした。

しかし、私の場合は保険会社に就職した大学の2年先輩から電話があり「社会人になったら保険ぐらい入った方が良い」とのお言葉に素直に従い、言われるままに内容も理解せずに加入しました。いわゆる「お付き合い」でしたが、2年ほど経過したときにお財布状況が厳しいからと解約してしまいました。思えば加入時も解約時も随分いい加減なことであったと反省しています。

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新入社員は狙われる

一般に生命保険加入を検討するタイミングは人生の様々な節目の時であることが多いでしょう。実際に、就職、結婚、出産、子供の進学、住宅購入、転職、転勤、離婚、退職、家族の療養などなど、家族環境や家計状況が変化する時は保険加入の検討や見直しが必要となるでしょう。

そしてそれら節目の時は保険を売る側にとっても絶好の機会となるのであり、まして、社会人デビューしたばかりの初心(うぶ)で素直な新入社員は格好のセールスターゲットということになります。

さて、それでは新たな一歩を踏み出した新入社員たちが加入すべき保険とはどんなものなのか、あるいはネット上に散見されるように「新入社員には保険など必要ない」が正しいのか、考えてみましょう。

まず必要なのは「保険」ではなく「ライフプラン」

結論から言ってしまいますが、新入社員がまず考えるべきことは「保険加入」ではなく「ライフプラン」だと断言します。そもそも世代に関わりなく、保険加入時に際して商品知識以上に重要なのはライフプランの発想であり、ライフプランの一要素として保険を検討するのが正しい考え方です。

新入社員時代には社会常識、会社のルール、仕事の段取り、人間関係、言葉使いなどなど覚えることがあまりに多く、またあらゆる場面で初めての体験と失敗の繰り返しがあり、立ち止まって人生設計を試みるなどは無理であると反論もありそうです。しかし、社会人の常識を身に着ける上でも、会社のルール習熟の際にも「お金のこと」は必ず絡んできます。働くことの主要な目的はお金を得ることなのですから、自分とお金の関わり方を考えること、即ちライププランを考えることは社会人の第一歩においては重要課題であるはずです。

さて、そうは言っても新入社員に対して「ライフプランはいかがですか?」と近づいてくる人の殆どは保険営業の人であったりします。「ライフプラン」はセールストークの一環に過ぎず、結局は保険商品PRを始める前の一種の儀式で終わってしまう可能性もあります。

そこで、保険営業の人たちから聞かされそうな「○○に備えましょう」のお誘い言葉に応じて、如何にライフプランの先行が重要かについて考えましょう。

「病気やケガによる長期療養に備えましょう」

ほとんどの保険会社が販売している様々な医療保険、その検討の前に知るべきなのは、健康を損ねた時に困るのはどんなことか、そしてどんな対策がありうるかです。

新入社員のあなたが休日のレジャーで誤って大けがをして1カ月の入院を余儀なくされたとしましょう。入院費や手術費用、薬代などがかかり、また長期間会社を休むことになるのはとても不安です。しかし、すべての会社の従業員は(よほどのブラック企業でない限り)何らかの形で社会保険の医療保険被保険者になっています。つまり新入社員の皆さんは基本的に「既に保険に加入している」のです(自営業者の場合は自ら社会保険加入の手続きが必要です)。

医療を受けた場合に健康保険が全て賄ってくれるわけではく、自己負担がありますから、例えばケガで1ヶ月入院したときにどの位の自己負担額になるのかを調べてみましょう。その過程では「高額療養給付」とか「傷病手当金」という保障制度の存在を知るはずであり、その上で、さらに自前の保障(つまり民間の保険など)が必要なのかどうかを考えることが出来るのです。

これらの制度を知れば、あえて民間の医療保険に加入する必要はないと判断する人もおられるでしょう。但し、自己負担が高額になる場合もある高度先進医療を受けた場合に備えて、先進医療実費保障をメインにした医療保険を検討することは意義があるかも知れません。また、日本人の二人に一人がいつかはガンに罹患するとも言われていますから、健康であり保険料も安い若いうちから備えておくというのもひとつの考え方です。

なお、病気やケガの費用を負担してくれる社会保険は、上記のような私生活上の傷病の場合は「医療保険制度」ですが、業務上、就労中などに発生した傷病の場合は一定の手続きを経たうえで「労災保険制度」(労働者災害補償保険)が適用される場合があります。

「ケガや病気で障害が残り働けなくなった時に備えましょう」

何らかの傷病で障害が残った場合には国民年金や厚生年金(または共済制度)の障害年金制度があります。前段と同じく、障害の原因が業務上の傷病なのであれば労災保険の適用を受ける場合があります。また、傷病治療が非常に長期間に及ぶ場合や、障害によってその会社で働けなくなった場合、別の仕事に就くことになる場合などには「雇用保険制度」の出番となります。この場合も「既に保険に加入している」のですから、障害特約付きの収入保障保険の検討の前に、やはり公的保障制度の理解が必要です。

「高齢化の実態を知って自分の老後にも備えましょう」

2017年度新入社員意識調査アンケート(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)によると、自分の老後についての回答では「年金をもらえない可能性が高いと思う」と「年金は絶対にもらえないと思う」の合計が過半数を超えています。国の公的年金制度は財政状況が非常に悪くて、若い世代ほど損をすると言う類の情報は今や一般常識のように流通しています。

国家財政状況の真相についての議論はさておき、若い世代が公的年金の将来に大いに不安を抱いていることは間違いなく、そこを狙い目にして「自分年金の必要性」を訴える商品展開が、保険のみならずあらゆる金融業界で大きな分野を形成しています。

一般に「個人年金保険」は日本の国債で運用されるため、現在の金利情勢では高い収益性が望めません。某保険会社HPで個人年金のシミュレーションをしてみたところ、22歳の新入社員が毎月1万円を60歳までコツコツ積み立て、5年間据え置き期間を経て、65歳から75歳まで受け取る年金額は合計で訳446万円となりました。積み立てた保険料の総額ともらえる年金総額の比率(返戻率)は106%です。さて、このシミュレーション結果は新入社員たちの目にどう映るのでしょうか?

経済成長過程の高金利時代や、ある程度の金利が保たれていた時代を知る世代と、全く知らない世代では「40数年で106%」に対する感じ方は異なるとは思いますが、それにしてもこの低い収益性の商品を積極的に推奨する人は、少なくとも独立系FP(ファイナンシャル・プランナー)の中にはいないと思います。

ちなみに筆者は日本の公的年金が40年後に破綻しているとは考えていません。将来の予測は不可能との前提ですが、国民の老後生活水準の維持は国家成立の根本施策の一つであり、国民の納税意識を保ち信頼関係を崩壊させないためにも、国は老後保障制度を死守するだろうと思うからです。ただし、老齢年金でもらえる金額が不透明であることはきちんと認識したうえで老後計画を立てることは重要です。

「低金利時代を克服するために資産運用をしましょう」

上記の個人年金保険のごとく円貨で最低保証のある金融商品では資産は殖やせません。

そこで保険会社が今力を入れて販売促進展開をしているのが米ドル、豪ドル、ユーロなどで運用される「外貨建て保険(年金)」及び「変額保険(年金)」などです。

“現状では殆ど金利が付かない円だけに固執せず、比較的高金利が約束されている外貨運用の商品を活用しましょう。”、“グローバル経済の時代には通貨分散をしましょう。”、“投資はリスクを伴いますが、何もしないで将来の収益を取り逃がすのも大いなるリスクです。” などのセールストークが聞こえてきそうです。

これらの主張については一定の合理性があると思いますが、外貨取引には為替変動リスクがあり、変額商品、投資商品には当然ながら資産価値変動のリスクがあります。資産分散や時間分散、資産内容のコントロールなどの様々なリスク軽減策を駆使したからと言って、リスクが殆ど無くなるかのように感じてしまうのは危険です。投資や資産運用には確認すべき常識、資産ごとに異なる性質など勉強すべきことがたくさんあります。商品説明を聞く前に「株式や為替などの勉強」が必須なのです。さらに国の政策である所得税軽減などの措置を背景にして制度がスタートした「NISA」や「iDeCo」の概要を知ることも必須項目と言えるでしょう。

「社会人としての最低限の死亡保障を準備しましょう」

“生命保険の本来の役割は家族の生活保障なので、新入社員には死亡保障は不要である。”、“いや、人が亡くなれば遺族など周りの人に何らかの負担がかかるのだから、最低限の費用の準備は必要だ。”

どちらももっともに思えますが、本当は「人それぞれの状況次第である」というのが正解です。若くして世帯を構えている人もいれば、社会人になるまで頑張って育ててくれた親に報いたいと考える人もいるでしょう。死亡保障の要不要も人それぞれ、千差万別なのです。お葬式代くらいは準備しましょうとか、積み立て効果もある終身保険で老後資金準備も始めましょうとか、ドル建て終身保険で保障と資産形成をはかりましょうとか、様々なお誘いがあるかもしれませんが、いずれにしても個々人の考え方や経済環境や家族状況によって必要性や優先順位が異なります。これについても、まずはライフプランが先行されるべきでしょう。

他人への迷惑を最小限にするための準備

生命保険商品ではなく、売り込みを受ける機会があまり無さそうな保険ですが「個人賠償責任保険」があります(基本的に損害保険の商品)。

他人の財物を壊してしまったり大けがを負わせたり死なせてしまったりして、多額の賠償金を請求される可能性は日常生活に潜むリスクの一つです。車やバイクの運転をするなら、自動車保険(任意保険)の加入は社会人としての常識と言えますし、自転車しか乗らない人も賠償責任保険は是非とも加入しておいて欲しいものだと思います。思わぬことで加害者になってしまい、人生が狂うというリスクを想定しおくこともライフプランの課題の一つです。

【まとめ】やはり何と言っても「ライフプラン」のスタートが肝心

「社会人になったのだから最低限の保険に入りなさい」と言われるままに加入した新入社員の頃の私は、保険どころか世間のことを何も知らず、税金とか社会保険とか貯蓄とか金利とか将来への備えとかも一切考えてなどいませんでした。毎月受け取る給与明細を開いても注目するのは「手取り金額」だけで、明細の意味を理解するようになったのは、転職してFPとしての勉強を始めてからなのです。今思えば恥ずかしい限りですが、今の新入社員諸君も、実態はさほど変わらないのではないかとも思います(そうでない方には失礼ですが…)。

以上、見てきたように、新入社員が検討するべきことは「社会人の第一歩に際して保険に加入する」ことではなく、保険とは何か、どんな必要性があるのかを含めて、お金の使い方、節約や将来への備え方をまず知ることです。どんなリスクがあり、どんな対策手段があるのか、長い人生を乗り越えてゆくために人生設計、ライフプラン作りを始めることが先決なのです。特にリスク対策の手段である保険の検討に関しては、社会保障・社会保険制度の理解が必須であり、また勤め先が独自に設けている様々な制度を知ることも大切です。その確認作業自体が日本の国の在り方や経済の仕組み、生活環境の実態などについて考えるきっかけになるでしょう。そしてその中での自分の生き方を考える、まさしくライフプランニングを始めることになるはずなのです。

どこから始めれば良いか迷っている人のために、ライフプランを手助けしてくれるFPの名刺を持った人から声を掛けられるかもしれません。しかし、日本におけるFPの約9割は保険会社など金融機関の営業社員、あるいは保険や金融商品を販売する代理店などの販売担当者たちです。肩書に惑わされることなく、まずはご自身でライフプランとは何かを知るところから始めてください。ライフプラン入門用サイトもありますから、ご覧になるといいと思います。一人でのプランニングが難しいときは、金融商品販売への誘導ではない真のFPを探しましょう。

参考

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この記事を書いた人

博多生まれの東京育ち。国立市在住30年。老舗機械商社営業マンから突然!脱サラ。当時外資系だった生命保険会社の営業マンとなり、独立自営へのステップとして成果報酬の保険営業を9年間経験。その後ファイナンシャルプランナー(FP)として独立し、現在は保険相談を中心に独立系FP事務所&総合保険代理店を経営している。
本当に必要で本当に役に立つ保障システムの構築と、資産の安定化の実現をサポート。誠実と向上心をモットーに顧客の利益最大化を目指す。

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