豊かなシニアライフを送るための自宅活用法

2017年9月、新生銀行株式会社とグループ会社の昭和リースは、自宅マンションを活用した個人向けリースバック事業を開始しました。昭和リースが自宅リース事業を行い、新生銀行が取引の媒介や宣伝広告等を行う「新生My WAY」という商品です。

事業のしくみは昭和リースが自宅マンションを買い取り、所有者はその時点で売却価格の50%または70%の金額を受け取ります。昭和リースが所有者となりますが、その後10年間は不動産リース契約を結びリース料を払って住み続けることができます。10年後に昭和リースがそのマンションを第三者に売却し、売却資金と当初の売却価格との差額をもともとの所有者が受け取ります。

顧客にとっては自宅に住み続けながら2回に分けてまとまった売却資金を受け取れるため、当初の資金は老後の生活の潤いのために使い、10年後にはたとえば老人ホームに入居するための入居金として使うことも考えられます。

平均寿命が延びる中、自宅さえあれば終身年金である公的年金と退職金の取り崩しで一生暮らしていける時代は終わりを告げようとしています。単身または夫婦のみの高齢世帯も増える中、次世代に自宅を残さず、自分自身の老後の生活と終の棲家のために自宅を活用できる仕組みとして、自宅リース事業を考えてみたいと思います。

「新生My Way」のしくみ

1.当初マンション売却時のしくみ

「新生My WAY」は、50歳以上のシニアが所有する、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の時価4,000万円以上2億円未満のマンションが対象です。住宅ローンの残高がある場合は、住宅ローン完済後の金融資産が2,000万円以上あることが条件です。

まず自宅マンションを昭和リースに物件評価額(時価)の50%または70%で売却し、昭和リースは代金をマンションの所有者に一括で支払います。たとえば時価が6,000万円のマンションを50%で売却した場合、3,000万円を当初の売却時に受け取ります。売却と同時に所有者は昭和リースとなりますが、元の所有者は10年間の定期建物賃貸借契約を結び、リース料を払いながら住み続けることができます。10年経過後希望すれば、所定の審査の上5年ごとの再契約もできます。

家賃は売却価格をもとに昭和リースが査定しますが、周辺より安い賃料で住み続けることも可能です。新生銀行ホームページの事例では、時価6,000万円のマンションで、家賃は毎月7.5万円となっていて、契約期間中は固定家賃となります。もともとのマンションの所有者は住み続けている間、家賃7.5万円とマンションの管理費、修繕積立金、固定資産税、都市計画税、火災保険料、駐車場代等を払い続けます。もしマンションの維持費を年間80万円とした場合、年間の住宅にかかる費用は家賃とあわせ年間170万円で10年間では1,700万円です。一時金で受け取った3,000万円から住居費を差し引いた1,300万円は老後資金として使える計算です。セカンドライフを豊かに過ごすための資金の一部に充てることもできます。

2.定期建物賃貸借契約終了時

10年後、契約期間を更新せず終了した時、所有者である昭和リースはマンションを第三者に売却します。第三者への売却額が諸費用を除いて5,000万円だった場合、元の所有者は、当初の売却代金3,000万円と5,000万円の差額の2,000万円を受け取ります。仲介手数料等売却経費は元の所有者が負担します。もし、不動産相場が10年間で急落してマンション価格が3,000万円以下になっていたとしても、元の所有者は損失分を返還する義務はありません。当初に受け取った3,000万円は保証されます。

第三者に売却後は、いよいよ自宅マンションから退去することになります。第三者への転売時に受け取るお金を元手に老人ホームやシニアマンション等、高齢期の住まいへの住み替えなどが考えられます。

新生My Wayのしくみ

新生銀行HPを参考に筆者作成

具体的な活用例

ゆとりある老後の生活と終の棲家の安心の両方を実現できる商品に見えますが、人生最後の砦である自宅を売却する、という大きな決断をするための注意点も含めて、商品の活用方法を考えてみたいと思います。

1.セカンドライフのゆとり資金として自宅を使い切る

内閣府の平成29年版高齢者白書によると、平成27年(2015年)現在65歳以上の高齢者がいる世帯は全体の約半数、そのうち夫婦のみ、単独世帯の割合は半数を超えています。こうした中で、次世代が自宅を引き継がないのであれば、自分の老後の生活のために「自宅」も資産として使い切る、と考えるシニア世代も増えています。

自宅の活用に手っ取り早い手段として売却がありますが、高齢期の住まいについてのご相談を様々うけていると、高齢期には住み慣れた自宅でできるだけ長く過ごしたい、という希望を持たれている方がほとんどです。売却してしまったら、住み慣れた自宅に住み続けることはできません。しかし、自宅に住み続けている限り、現在の自宅は固定資産税と維持費がかかるコストにしかならず、自宅をお金に替えることはむずかしいのです。

住んでいる自宅をお金に替える方法としては、自宅を担保にお金を借りるリバースモーゲージのような商品もあります。リバースモーゲージは所有はしたまま住み続けますが、「借金」であるため、年金収入による借入額の上限が決まっていたり、配偶者が連帯保証人になる、法定相続人の承諾が必要なるなどの条件や、金融機関の審査をクリアすることが必要です。借入額も金融機関が評価する極度額の50%までなど、自宅の資産価値に対する借入可能額が思った以上に少なく、自宅の価値すべてを活用するところまでには至らないことがほとんどです。さらに、相続発生後は自宅を売却して借入金を精算しますが、売却についてはまずは相続人が行うことが原則です。

これに対し「新生My WAY」は自宅を売却してしまうため法定相続人等の承諾や収入制限もありません。資金の使い道についての制限もありません。また、売却価格の50%を一時金として受け取り、売却価格をもとに家賃設定されるため、資金計画をしっかりと立てれば10年間は安心して住み続けることができます。家賃は10年間固定ですので、10年間の家賃と売却金額の差額分は10年間の生活のゆとり資金として活用することもできます。

たとえば、3,000万円という売却資金を70歳の時点で受け取る場合と、80歳で売却した場合では、手にしたお金の価値は大きく異なるでしょう。70歳であれば家賃を差し引いても今後10年間、毎年100万円以上を楽しみのために使うことも可能です。もし、これが80歳で売却した場合、4,000万円、5,000万円という資金を得たとしても、生涯で使い切ることはむずかしいかもしれません。

また、将来自宅を売却して老人ホームなど高齢者施設に住み替えようと考えていても、もしその時認知症になって判断ができなくなっていると、自宅の売却自体を自分の意思で行うことができません。せっかくの自宅という資産を全く活かすことができなくなるばかりでなく、自分が希望していた高齢者施設に入居できなくなる可能性もあります。元気なうちに自分の意思で自宅を売却しておくことで、自分のために資産を使い切ることが可能になります。

2.次世代に面倒を残さない

不動産は相続の時に分けにくく、兄弟がいる場合は均等に分けられないなど揉め事の原因になることもめずらしくありません。親御さんの相続時に遺産分割で苦労した、というシニア世代の方もすでに多く、こうした経験からお子さんがいても自宅は子どもたちに残さず、自分たちが元気なうちに処分しておく、と考える方も増えています。

ただし、処分するといっても住み慣れた自宅からすぐに住み替えたいわけではなく、元気なうちはやはり今の自宅に住み続けたい、という方が多いのも事実です。そのためライフスタイルを変えずに自宅に住み続けながら自分の意思で自宅を処分できるしくみは、次の世代に問題を残したくない、というニーズにもこたえられる商品です。

3.リスクはないか

最後に「新生My WAY」を利用するにあたってのリスクや注意点についてもしっかりと考えておきたいと思います。

そもそも、地域や時価評価額4,000万円以上のマンションなど、対象となる物件がかなり限定されています。現在は中古マンションの相場が比較的高い時期が続いていますが、首都圏で築浅の物件であれば条件をクリアする物件も多いかもしれません。しかし、シニア世代が現在住んでいるマンションと考えると対象物件はかなり限られるでしょう。郊外の一戸建てから利便性の高いマンションに住み替えた、長年住んでいたマンションが建て替えられて資産価値が上がった、といった方たちが想定されるかもしれません。

また、売却時から10年間は住み続けられますが、契約を更新しなければ10年後には必ず退去しなくてはなりません。退去後の住まいをどうするのか、働く収入を増やすことはむずかしい中で「どうにかなるだろう」ではなく具体的に考えておかなくてはなりません。

10年後に老人ホームに住み替える、などの計画を立てていても、10年以内に健康状態が悪化して住み替えが必要になったり、相続が発生する可能性もあります。10年以内であっても契約解除はできますが、解除になった時の条件で住み替えが可能なのか、家族にどのような負担がかかるのか、売却前に確認しておきましょう。

さらに、10年後転売時の価格は保証されていません。その時の不動産の相場によっては、思った資金を受け取れない可能性もあります。2,000万円受け取れると思っていたのに1,000万円しか受け取れなかったとすると、その後のライフプランが大きく違ってしまいます。その他住み続ける間払い続けるマンションの管理費や修繕積立金もマンションが古くなれば上がる可能性もあります。修繕も住んでいる人の負担になりますので、家賃だけでなく自宅コストも余裕をもった資金計画が必要です。

長生きしても安心して暮らせる住まいのために

高齢期になると、今は元気で心配ない、と自分も家族も思っていても、急激に健康状態が悪くなったり、認知機能の衰えが進んだりします。しかし、高齢者が単身でまたはご夫婦だけで暮らしている場合、そうした衰えに合わせて住まいを住み替えるということは困難です。

高齢期の住まいについては、働く収入がなくなっている分失敗はできません。元気で経済力があるうちに、今の自宅を相続などで次の世代に引き続のか、引き継がないのであればどのように活用して自分のために使い切るのかをしっかりと考えることが肝心です。預貯金や有価証券など金融資産だけを資産ととらえるのではなく、今住んでいる自宅の価値をしっかりと見極め、長生きを支える資金として考える時代がやってきたのではないかと思います。人生100年時代を楽しく生き抜くためにも、自宅をコストではなく使えるお金に替えるための活用方法に目を向けていきたいものです。

参考

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