子どもの医療費窓口無償化で保障設計の見直しに拍車をかけるか

以下は、長野県が今年6月5日に、子ども等にかかる医療費について、従来から行われていた医療費助成の方法を変更する施策を開始すると発表しました。

《要約》平成30年8月から、市町村が定める一部の方(子ども等)を対象に、医療機関等の窓口で被保険者証とともに福祉医療費受給者証を提示することにより、受給者証に記載された一定の自己負担金をお支払いいただくことで、医療サービスを受けられる「現物給付方式」を導入します。

従来は、いったん医療機関の窓口で自己負担割合に応じた公的医療保険制度における自己負担金額を立て替える形で支払い、後日所定の書類を提出して自己負担した額を還付していました。

長野県の今回の制度改正の特徴は、医療機関の窓口で公的医療保険の被保険者証と併せて、この制度の対象者となる証明書を提示すれば、医療サービスを受けられる「現物給付方式」が導入されることです。ただし、上限を500円とする一部負担金を支払う必要がある場合があります。

長野県内においては、対象となる人については、市町村ごとに、

  • 満15歳に達して最初の3月末までにある人(中学卒業まで)
  • 満18歳に達して最初の3月末までにある人(一般的に高等学校卒業まで)

のように、さまざまです。

現物給付の対象となるものは、医科・歯科・調剤および訪問看護医療費となっています。

一方で、現物給付の対象とならないものは、柔道整復師の施術、県外の医療機関での受診、医療機関の窓口で受給者証を提示しなかったときの医療費、などとなっています。現物給付方式の対象とならなかった人については、窓口でいったん医療費を支払った後、市町村から医療費助成がなされる、現行の「自動給付方式(償還払い方式)」となります。

目次

全国で子どもなどに対する助成が行われている

厚生労働省では、毎年、「乳幼児等に係る医療費の援助についての調査」を発表しています。直近の昨年7月に発表されたものによれば、全国のすべての都道府県・市区町村で、乳幼児等に係る医療費の援助を行っていました。

給付を受けられる子どもの年齢

この調査によれば、都道府県においては、入院・通院ともに就学前(6歳に達して最初の年度末)までの給付が最も多くなっています。市区町村での給付は、これを補完する位置づけとなっており、15歳に達して最初の年度末(中学校卒業まで)が最も多くなっています。

18歳に達して最初の年度末(一般的に高等学校卒業まで)のところも増えてきていますが、ごくまれに20歳以上の年度末まで給付している市区町村があります。

通院・入院で対象年齢が異なっている場合がある

医療費の助成を受けられる子どもの年齢の上限が、地方自治体によって、通院と入院で異なっている場合があります。例えば通院については未就学児に限定していて、入院については15歳に達して最初の年度末まで支給するなどのようなケースです。入院時には高額な医療費がかかる場合があるので、その経済的な負担を軽減する制度設計としている地方自治体があるのです。

所得制限が設けられている場合がある

医療費の助成を受けるためには、「一定の所得以下であること」という制限が設けられている場合があります。ここでいう「所得」とは、一般的に以下のように算出します。

  • 給与所得者の場合は、「給与収入」から所得税法で定める「給与所得控除」(給与収入に応じて定められた算式で求める)を差し引いた金額(「源泉徴収票」の「給与所得控除後の金額」に記載の金額)から、さらに一定の「控除額」を差し引いた金額
  • 事業所得者の場合は、収入から必要経費を差し引き、さらに一定の「控除額」を差し引いた金額

この「控除額」とは、一般的に「医療費控除」、「雑損控除」、「障害者控除」などとなっています。

自分の「収入」の金額を見て助成を受けられないと即断しないように。「所得」の金額と、さらにそこから差し引くことができる「控除額」について、条件に合致しているかどうかを確認しましょう。わからない場合は、市区町村の窓口で問い合わせてみましょう。

一部負担金を求められる場合がある

 公的医療保険制度による自己負担分を全額助成してくれる場合もあります。しかし、比較的少額の一部自己負担が求められる場合もあります。

現物給付か償還払いか

厚生労働省の前述の調査では、この部分の調査データが掲載されていません。

子ども等を対象とする医療費助成の制度では、いったん医療費の自己負担分を立て替えて、後日請求で給付を受ける償還払いが一般的です。

しかし、前述の長野県で8月から開始する現物給付は少数派です。しかし、ここ数年あらかじめ給付された認定証を医療機関の窓口で提示すれば、自己負担を極力少額とした上で医療サービスの現物給付を行う市区町村が増えてきており、今後も増えてくると思われます。

北海道の南富良野町では、在学中であれば入院・通院を問わず22歳まで医療費助成の対象とする、という突出した制度となっています。さらに親の所得制限もがなく、北海道内の医療機関での受診であれば窓口での一部自己負担もありません(北海道外の医療機関を利用した場合は、償還払い)。

子どもを被保険者とした医療保険は必要か

確かに、子どもの医療費助成がある期間は、公的医療保険による「高額療養費」の制度をさらに補完する期間となっていて、実質的な子どもに係る医療費の負担は軽くなっていると考えてよいでしょう。したがって、子どもを被保険者とする医療保険について、本当に必要かどうか、再検討する必要があると思います。結果的に不要であるという結論になるかもしれません。

その分、自分たち親の医療保障を充実させたり、長期間の寝たきり状態となった場合の経済的ダメージをカバーする方にその原資を回した方が、リスクマネジメントの優先順位という点では合理的かもしれません。

しかし、次のようなケースでは、やはり子どもを被保険者とする医療保険が必要ではないか、という判断になるかもしれません。次のような視点で検討が必要と考えます。

  • 子どもの医療費助成はあくまで公的医療保険の自己負担分。特に入院で公的医療保険以外の出費(公的医療保険適用外の治療・差額ベッド代・入院にかかる諸雑費など)を保有する現金でカバーできるか。
  • 「償還払い」では、立て替えた分が戻ってくるまでタイムラグがある。手元の資金繰りが一時的に苦しくなるケースが想定されないか。
  • 収入が多い状態にもかかわらず手元の資金が少ない状態で、「所得制限」により助成が受けられなくなるケース。高額療養費の区分により自己負担額が大きい(健康保険組合管掌健康保険の付加給付がないなど)ケース。

地方自治体の取組みが、医療保障を見直す契機となっています。今後、私たちには、地方自治体の動向をみながら保障設計を行うことが求められてきていると言えそうです。

参考

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この記事を書いた人

1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。 生命保険会社を経て、現在、独立系ファイナンシャル・
プランニング会社である株式会社ポラーノ・コンサルティング代表取締役。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 CFP®認定者認定者。十文字学園女子大学非常勤講師。
個人に対するFP相談業務、企業・労働組合における講演やFPの資格取得支援、大学生のキャリアカウンセリングなど、
幅広い活動を展開している。

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