「元がとれるか」に引っ張られた和製トンチン年金は中途半端な保険

ここ数年で「トンチン年金」という商品について耳にすることが増えてきているようです。大手生保の商品と銀行や証券会社の窓口でも売られる商品として、登場し始めているからでしょう。

しかし、この「トンチン年金」は、実はとても古くからある仕組みなのです。私が保険会社に入社した1989年、最初の部署で海外動向を調査している際も一つのテーマになっていて、そのネーミングが印象的だったのを覚えています。トンチン年金は、17世紀、イタリアのナポリ生まれの銀行家「ロレンツォ・トンティ」氏が考案した年金制度で、当時フランスが財政難の解決策として導入したものだったのです。近代に入り、米国でも2004年から大手生保が商品化して販売をスタートし、以降、各エリアで増えているようです。

日本をはじめ、少子高齢化による財政難が不安視される中、いよいよこれを取り入れざるを得ないかという状況に来ているのだと思います。

今回は、そのトンチン年金について、最近の日本の保険会社のトンチン性年金の特徴や意義、その使い方について整理しました。

長生きするほど「お得」になる「トンチン年金」とは?

《要約》「人生100年時代」と言われ、「長生きリスク」に備える個人年金としてトンチン年金が注目されている。
トンチン年金とは、早く死亡した人の受取額を長生きする人に回すという仕組みで、日本でも、大手生保が2016年から発売を開始し、多くが50歳から加入でき、保険料を20年程度払い込むプランという。

もともとのトンチン年金は早く死亡した人にはほとんど戻らず、長生きした人が総取りする仕組みだが、それでは、日本人には受け入れられないだろうと解約返戻金があるタイプに改良された。 さらに、最近は銀行窓口でも扱われるタイプなど商品が増えている。

本来のトンチン年金は、超長生きに向けた掛け捨ての助け合い

トンチン年金は、もともと、長生きした人向けの年金なので、早くに亡くなった人からみると掛け捨てになる個人年金です。日本の通常の個人年金保険は、保険料の払込期間中に死亡すると払込相当額が戻ってきますが、トンチン年金はその額が相続人等に返還されず、これから年金として受け取る人への準備金に充てられるので、どんなに長生きしても財源がしっかり確保されるというわけです。

米国では2004年から販売がスタートされ、退職を意識する年代から加入でき、同世代間の相互助け合いによる商品として、ロングセラーになっているのもわかります。世界一長寿国である日本が、それらを参考に2016年から商品が販売され始めましたが、その特徴や違いをまとめてみたのが次の表です。

米国のトンチン年金と日本のトンチン性年金
  米国のトンチン年金の例(M社) 日本のトンチン性年金(※)D社の例
保険料の払い方 一時払 毎月払
加入年齢 45歳~ 50歳~80歳
年金受取開始年齢 85歳タイプ(複数の年齢幅から選べるタイプもある) 60歳~90歳から選べる
運用期間 最長40年 最長40年
死亡給付金 なし(年金額の3%相当があるタイプもある) 解約返戻金相当額 (払込保険料総額の7割相当)
解約返戻金 なし(一部、有タイプもある)  払込保険料総額の7割相当
その他 特徴 オプションがあるものあり。(早く亡くなっても、保証期間付などあり) 「10年保証期間付終身年金保険」または、 「5年・10年・15年いずれかの確定年金」

なお、最近の銀行窓口で扱われるトンチン性を高めた年金には、一時払や年金受取開始後の死亡保障をゼロにするもの、外貨建ての年金など多様化している。

なぜか死亡給付や解約返戻金が入って中途半端な和製トンチン年金

最近は米国のトンチン年金も複数のタイプが登場していますが、一番長く販売されているオーソドックスなタイプを参考に特徴をまとめました。これをみると、大きく次の点で違いがみられます。

  • 日本の商品は、死亡給付金が7割と高め
  • 日本の商品は、解約返戻金も死亡給付金程度あるものが多い
  • 日本の商品は掛け捨てではなく、最低5年または10年などの年金受け取りが保証されているものが多い
  • 米国では、一時払が多い
  • 米国では、年金受け取り開始が85歳など、比較的後半に設定されている

いかがでしょうか?こうした要素から、日本の商品はズバリ、トンチン年金ではなく、トンチン性を高めた個人年金とパンフレットなどに書かれているわけですね。掛け捨て要素をなくしているので、毎月保険料も4万円台などと非常に高く、90歳くらいまで長生きしないとその効果を実感できないという内容になっています。加入する契約者の「元がとれるかどうか」という視点に引っ張られてしまい、中途半端な商品になっていると感じるのは私だけでしょうか?

一方、米国では、提供する商品について、長生きした先での受け取り率を最大限に高めるなら、余計な死亡保障や解約返戻金はゼロにして85歳まで受け取れないようにするなど徹底したつくりになっています。一方、それに抵抗がある人には、柔軟に選べるプランを出しますが、どれかを高めるとどれかは犠牲になるという「トレードオフ関係」を心得た上で、提案設計が進められているようです。

1本の契約で自分の人生を補おうとするのではなく、最後は掛け捨ての相互扶助にゆだねるなど発想の転換が必要

自分が何歳まで生きるのか、わかっている人は誰もいません。自分の人生を考えた際に、生存率・死亡率という統計データをもとに1つの金融商品で時系列で網羅しようと思うことそのものに限界があるのではないでしょうか。

例えば、自分の人生を時系列でみると、現役時代の働き方⇒ライフワークでプチ稼ぎと少しの年金⇒身体も衰えて本格年金生活というふうにシフトしていく人も多いのではないでしょうか?

70歳定年などという話も出てくる中、健康に気をつけてライフワークなどで多少の報酬を得られるように努力したり、複数の金融商品などで資金準備したりする方の多くは、100歳とまでいわなくても、「80代前半くらいまでだったらなんとかなりそう」という方が多いようです。

だとしたら、自分の人生のイメージから「85歳までは自分の力で頑張るが、それ以降は世の中の相互扶助に任せよう」と思って、割り切って掛け捨てのトンチン年金を平行することも考え方としてはありかと思います。

その際、トンチン年金は、色気を出さずに本来の掛け捨ての仕組みに戻り、年金以外は受け取らずに「超長生きした時だけ頼む」という姿勢で扱う商品と位置づけられるものであってほしいと思います。そして、仕事の節目でちょっとまとまった資金ができたときにその何割かを一時払でトンチン年金に充当し、超高齢社会に向けた一種の寄付と思って利用するとスッキリするのではないでしょうか?20年近くも運用できれば、相当の財源になるはずですから。

参考

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