保険の手数料開示問題と欧米の手数料をめぐる動き

仕事柄、保険の募集に携わる人と多く接しますが、昨今の保険業界の募集に関する規制は、過去を振り返っても、大きな変化だと思います。

以下、その中でも様々な憶測が飛び交うテーマをあげてみました。

手数料記載の報告書提出、保険ショップに義務付け 金融庁案

金融庁は2015年2月18日、改正保険業法の施行規則と監督指針案を公表し、2016年5月末に施行すると発表した。
これは、複数の保険商品を扱う大手の保険ショップ(乗り合い代理店)への販売規制と言われている。保険ショップが手数料に偏った販売をしないように監視を強めるのが狙いで、保険会社からの販売手数料の報告を義務づけるほか、扱っている保険の内容を顧客が比べやすい仕組みの導入を求める内容となっている。

 なお、上記でいう金融庁の公表内容とは、以下が該当すると思われます。

平成26年改正保険業法(2年以内施行)に係る政府令・監督指針案の公表について(平成27年2月18日)金融庁
(以下一部抜粋)

2.保険業法施行規則及び保険会社向けの総合的な監督指針の改正
(1)情報提供義務の導入に伴う規定の整備
・商品情報など、顧客が保険加入の適否を判断するに当たって必要な事項を、保険募集に際し、顧客に情報提供すべき事項として規定する。
・複数保険会社の商品から比較推奨して販売する場合、上記に加え、「比較可能な商品の概要」、「特定の商品の比較推奨を行う理由」について、情報提供を求める旨を規定する。

 

おそらく、上記の金融庁の公表内容のうち、「顧客が保険加入の適否を判断するに当たって必要な事項」「特定の商品の比較推奨を行う理由について、情報提供」という内容が、今回の日経記事のテーマ(手数料)に該当すると思うのですが、私は、「この規制は誰のためのものか?」を考えながら拝見していました。

保険商品も自由化が進み、国内社や外資系含めて商品開発が盛んになり、それを取扱う募集人も一社専属ばかりとは限らず、複数社の代理店として幅広く取扱うなど、お客様にとって門戸も広くなってきました。

私自身は募集人ではないので、手数料の詳細はわかりませんが、保険の成約に伴う手数料は、保険会社の一つの商品の中でも異なると聞いています。具体的には、保障額はもちろん、特約の付け方、一時払いや前期全納(もともとは月払や年払のものを全部最初にまとめ払いし割引を利かす方法)など保険料の払込方法によっても、変わってくるそうです。

そうした計算を経て出てくる手数料の額なのか、手数料率なのかもまだ不明瞭ですが、どの段階で、誰にどのように開示していくとお客様への良い影響につながるのか?が見えてこないような気がします。

例えば、来店型ショップで、各社の複数のパンフレットや設計書を並べられて説明を受けるとき、お客様は何を大切に考え商品選びをされるのか?

これは、自分や自分の家庭で、どの商品が、保障額や契約期間中のサービスが信頼できて、保険料負担も続けやすいかという点ではないかと思っています。たんに手数料の情報が明記されていたとしても、全体の傾向を掴める程度にすぎず、そのままよい商品選びにつながるとは限らないでしょう。

目次

「販売手数料」から「アドバイス対価」へシフト

日本が手数料などの情報開示などの議論をしている一方で、実は、英国・米国はもっとドラスティックな流れにあります。

英国では、6年以上の準備期間を経て、2012年12月31日より「個人向け金融商品販売制度改革(Retail Distribution Review)」と呼ばれる改革が実施されました。これにより、特定の金融機関所属ではなく、多くの金融機関の金融商品を扱う独立系フィナン シャル・アドバイザー(Independent Financial Adviser)向けに、なんと、保険会社などプロバイダーからの販売手数料(コミッション)を廃止するなどの決まりが導入されたのです。

その目的は、業界のプロ意識を高め、顧客ニーズを満たす提案力を上げるためとのこと。やはり諸外国でも、金融機関からの販売手数料が、お客様への提案をゆがめるコミッション・バイアス(commission bias)の払拭が問題視されたようです。この法律改正によって、販売手数料の代わりに、お客様からアドバイスの対価としてフィー(Fee)をいただく仕組みへ流れが変わっています(なお、厳密には、すべての商品が対象ではなく、貯蓄性を兼ねた商品が中心のようです)。

また、米国では、法改正ではなく自然の流れで、顧客からのフィー方式をとるアドバイザーが増えています。投資信託の取扱残高をみても、最近は、手数料の高いアクティブファンドよりも、インデックスファンドの残高が急増しているようです。

Fee方式により芽生える信頼と責任ある商品選び

このように、販売手数料(コミッション)方式から、お客様にいただくアドバイスの対価(フィー)方式へのシフトが、欧米の金融商品で起こっている事実を知っておくことは、これからの私たちの金融商品選びについて、目先の損得ではなく、広い視野の中で冷静に考えるのに役立つと思います。

そもそも、私たちは何かを手にするにあたり、そこに人や労力が介在している以上、どこかで手数料や対価の流れが発生していると認識したほうがいいでしょう。むしろ、手数料や対価をしっかり認識して払うことで、相手にも自分にも信頼と責任が芽生え、気持ちのいいスムーズな手続きになることもあります。

おそらく、「お金を払う」「サービスに対する対価として手数料を払う」という私たち個人個人の意識は、実際の商品やサービス選びの質を高めていくに違いありません。

これは私の感覚なのですが、日本の金融機関は、実際に商品などの仕組みを作っている方たちと話をしていると、私の予想以上に、消費者の声を聞いて改善しようと「聴く姿勢」でいてくれたりします。

ですので、私たちも「◎◎になっちゃったからー」などと受け身ではなく、積極的に選ぶためにどんな情報が欲しいのかといった要望を出すくらいの気持ちで接してはいかがでしょうか?

きっと、お客様の声を吸い上げる営業パーソンは、会社でも評価が高くなっていくでしょうから、身近にいる意識の高い営業担当者とも、「もっとこうなると選びやすい」という意見を共有していくことで、保険会社や業界も変わっていく可能性があると思います。

参考

  • 英国の金融商品販売の改革について
    //www.celent.com/ja/reports/30783
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この記事を書いた人

一般社団法人円流塾代表理事、STコンサルティング有限会社代表取締役。一橋大学卒業後、保険会社の企画部・主計部を経て1994年独立。CFP®、1 級ファイナンシャルプランニング技能士。約20年間、金融商品は扱わず、約3300件の家計を拝見してきた経験から、お客様の行動の癖や価値観に合わせた「美しいお金との付き合い方」を提供中。TV出演、著書多数。

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