第6回カスタマーの資産は一切預からず、自らの管理を促す!非中央集権の分散型銀行を目指すBread(本社・スイス)

掲載:2018年2月2日

2014年より仮想通貨のビットコインウォレットとしてBreadWalletを展開していたが、今回、新たにBreadとしてリブランディングし、サービスも大幅に充実。同社のWebサイトには、 “Banking reinvented, The way it should be”(新たな銀行の在り方を創出)という文言も掲げられ、単なるWalletではないことが見てとれます。 Breadはどのような銀行の姿を目指し、どのようなサービスを展開されるのでしょうか?Co-founder & CEOのAdam Traidman氏にお話をお伺いしました。 吹田 朝子・保険ジャーナル編集部)

対応してくれた人
Co-founder & CEO
CEO

Adam Traidman氏

Walletからリブランディングした理由とは?

吹田:Bread Walletから、今年、Breadにリブランディングされましたが、そもそも、このビジネスをはじめられたきっかけは何だったのでしょうか?

Adam Traidman氏:Breadの共同創業者のAaronの体験がきっかけでした。彼は、ビットコインの初期に別のウェブサイトを利用していたのですが、それが扱いづらく、多くのビットコインを失ってしまったという経験の持ち主です。そこで彼は、ビットコインをもっと人々に使いやすくポピュラーなものにしようと決意し、シンプルで安全で簡単に使いやすいWalletを開発したのです。

吹田:リアルな経験が背後にあったのですね。

Adam Traidman氏:彼が私に声をかけてきたのは2014年でしたが、それまで私はシリアルアントレプレナーとして技術的な仕事をしており、仮想通貨業界での法人化にはまだ疑問を抱いていました。しかし、彼には、将来のビジョンとともに、今までも様々な大きなビジネスの波に乗るセンスがあり、今がちょうどいいタイミングではないかと私も感じたのです。

吹田:まさに機を観るタイミングですね。当時のBread WalletからBreadにリブランディングしたのはなぜですか?

Adam Traidman氏:AaronのWalletはオープンソースでいいものでしたが、テクノロジーにフォーカスしていて、Walletはフリーのサービスでした。ここ数年は仮想通貨の業界が大きく成長しているので、収益化などビジネスモデルを一緒に考えたのです。2015年から2016年にかけて法人を設立し、シードラウンドでベンチャーキャピタルから120万USドルを調達し、準備を進めてきました。このビジネスモデルを考える際に大事にしてきたのは、カスタマーの声を聞くことです。

吹田:利用者の声をベースに、ブランド戦略を変えたということですね。

カスタマーの声から、全く新しい「分散型銀行」の姿が見えてきた

Adam Traidman氏:カスタマーの声を聞いてみると、既存の法定通貨と銀行システムでは、手数料が高い、営業時間が限られている、国際送金がわずらわしいなど、いろいろな問題が明確になりました。そこで、仮想通貨の世界で、もっとシンプルにローコストで便利な、「分散型の銀行」をつくろうと思ったのです。

吹田:「分散型」とは、今までにない銀行の姿ですね。

Adam Traidman氏:仮想通貨の世界では様々なサービスがまだバラバラで、銀行のようにすべてを統合してカスタマーに対してサービスを提供するところは、まだありませんでした。そこで、ただのWalletではなく、カスタマーにとって使いやすい様々なサービスを一か所にまとめて、「ブロックチェーンで実現する分散型の銀行」になろうと考えたのです。

吹田:なるほど。従来の銀行との違いをもう少し教えていただけますか?

Adam Traidman氏:従来の銀行サービスの場合、銀行がカスタマーのお金を中央集権的に管理していて、ユーザーは手数料を支払います。その結果、1人1人の資産はあまり増えず、どちらかというと銀行に収益が上がる仕組みといえます。一方、分散型銀行を目指すBreadの場合、カスタマー自身が個々の資産を管理する権限をもっていて、それぞれが主体的に管理をし、企業側(Bread)よりも各カスタマーにベネフィットがあるような仕組みを創っていきます。

吹田:「預金」という感覚ではなく、顧客が自ら、自分のお金を管理する仕組みですね。

Adam Traidman氏:従来の銀行の場合、カスタマーは資産を銀行に管理してもらう形で預けていますが、非中央集権型の分散型銀行としてのBreadは、個人のデジタル資産は一切保有しません。Breadは、秘密鍵も含めて管理はせずに、カスタマー自身が自分の仮想通貨を管理するのです。

吹田:お金の保有や管理を外部に頼むのではなく、顧客である私たち自身が自分で管理することに慣れることが大事ですね。

Adam Traidman氏:最近、浸透してきたAirbnbやUberは、「部屋をもたないAirbnb」「車を持たないUber」と言えますが、まさに、Breadの目指す非中央集権型の分散型銀行は、「預金を持たない銀行Bread」です。銀行の再発明として、冒頭のReinvented」と言っているのは、今までのカスタマーの不便を解消して、彼らが望むものを提供することを意味しているのです。

カスタマーのベネフィットとは?

吹田:新しいBreadで、私たちはどのようなサービスやベネフィットを受けられるのでしょうか?

bread_02Adam Traidman氏:24時間利用でき、低い手数料で、高いユーザーエクスペリエンスが得られること、フィナンシャルプライバシーは守られ、世界中のどの国・どのエリアでも、カスタマーが望むものを提供しようと思っています。Breadは銀行のサービスをブロックチェーンでやろうとしているので、従来の銀行口座のお金の出入り、例えば、給与振込、公共料金などの支払い、送金、ローン、貯蓄、投資などもBreadでできるようにしていきたいと考えています。

吹田:給与振込や公共料金なども、ですか?

Adam Traidman氏:実際に、私も給与の一部をビットコインで受け取っていますし、来年は電気代などもビットコインで払えるようにしていく予定です。電力会社など事業者側がビットコインで受け取るのは難しいでしょうが、ユーザー側からビットコインで支払うことはできるようにしていきます。

吹田:それは大きな変化ですね。私も以前、海外の会社にビットコインで報酬を振り込んでもらうように頼んだことがありましたが、まだ難しかったです(苦笑)。

Adam Traidman氏:会社が何か手続きをする必要はないのですよ。既に米国でやっている方法ですが、給料を二つの口座に分けて振り込む形で、その片方をBread提携パートナーの銀行と指定するだけです。パートナー銀行で法定通貨で振り込まれたものがビットコインに変わるという、それだけです。

吹田:なるほど。そういう方法なら可能性大ですね。日本のように現預金の割合が多く、銀行に預金の元本安全性と利息を求めるのは、もう時代遅れというかんじですね。

Adam Traidman氏:今や銀行の金利は低く、ベネフィットはどんどん薄くなっています。本社のあるスイスの法人口座でも、金利はなく、手数料が発生し、何のために存在するのかショックでした。ビットコインなど仮想通貨自体は、預金と違って元本が保証されるものではありませんが、リスクもとりつつリターンを得ている人もいます。

吹田:リスクやお金の管理についての意識改革が必要ですね。

Adam Traidman氏:教育は一番必要です。もちろん、仮想通貨はリスクもありますが、資産が増えることに固執するのではなく、まずは「自分で管理できる」という状態が何より重要と考えています。今、人々に必要なのは、誰かに資産の管理を任せるのではなく、自分自身で管理することでしょう。

アプリから直接ブロックチェーンに繋がるという仕組みは世界でも非常にユニーク

吹田:Webサイトによると、Breadは、世界中120か国以上で使われているとのことですが、どの国が多いのでしょうか?

Adam Traidman氏:利用は、140か国以上に広がっています。中でも北米が一番多いですね。日本は最近、急激に増え、しかも一番アクティブです。

吹田: 日本人は売買の取引が盛んということですか?

Adam Traidman氏:アプリの利用全体です。というのも、Breadはプライバシーの観点から、サーバーを経由せずに個人のアプリから直接ブロックチェーンにつながっているので、それぞれのユーザーがどれくらい資産を持っているか、どれくらい取引しているかなどは一切わからないからです。一般的な取引所のアカウントは、取引所全体としてブロックチェーンにのっていて、その中のデータベース上で個人の資産が管理されているので、合計残高もわかるようですが、我々は、カスタマーが直接、アプリからブロックチェーンにアクセスをしているので、詳細情報はわからないのです。

吹田: 単にブロックチェーンと言っても、1つ1つの取引がアプリから直接つながっているのか、まとめてなのかという違いがあるとは知りませんでした。私たちは自分の取引が、その都度ブロックチェーンに記録されているかどうか見ることはできるのでしょうか?

Adam Traidman氏:できます。Breadのアプリは非常にユニークなものと自負しているのですが、1人1人のスマホのアプリが、ブロックチェーンのノード(仮想通貨ネットワークに参加する各プログラム)となっていて、それぞれのアプリがBreadという企業を介さずに、ブロックチェーンにつながっています。なので、それぞれが実行した取引のIDは一般的なブロックチェーンのWebサイトでみることができます。

吹田: こうした仕組みを提供しているところは世界でも少ないのでしょうか?

Adam Traidman氏:そうですね。これは、当社の共同創業者Aaronと実績豊富で高い技術力を誇るメンバー2人によって開発されたもので、すべての機能をフルにアプリからつなげられるソフトウェアは世界でも非常に少ないと思います。

もう一つ、プライバシーが守られていることにも関連しますが、Breadという企業に「信頼を委ねる必要はない」ということも大事なポイントです。もし、企業がなくなるようなことがあっても、ユーザーのアドレスは、ブロックチェーン上に存在して、自分の資産は100%管理して、使い続けることができるのですから。

吹田: ちなみに御社のWebサイトには、「約2000億円相当の資産がBread内に存在」とありますが、これは、個人の資産を集計したのでも、保有しているわけでもないのですよね?

ビットコイン

Adam Traidman氏:はい。「約2000億円相当」というのは、実際には誰がいくら持っているかはわからないけれども、見積りをしたものです。テクニカルな話ですが、ビットコインとビットコインキャッシュが分岐した際にユーザーの選択がみえたので、そこから保守的に試算したものです。そして、「存在」というのは、Breadが持っているのではなく、ユーザーが持っている資産の合計概算という意味です。実は、ユーザー1人当たりの資産は、一般的な取引所の平均に比べてBreadのユーザーはおおよそ5倍高いようですが、それは安全性が高いと評価されているからだと考えています。

ビジネスを進める上で、非常に大きな2つのハードルとは?

吹田:今までの展開の中で、苦労されたこともあったのでしょうか?

Adam Traidman氏:大きく2つあります。1つは、政府のレギュレーション。これは世界中の国々で、大きなハードルを感じました。お金は社会でも非常に大事なものなので、政府や銀行もコントロールをしたいのは当然のことです。仮想通貨は1人1人にコントロールの力を分け与えるものとして、そうした構図を変えうるものなので、政府の心配は理解できますし、新たな規制もできつつあります。中国も規制をしましたが、それで仮想通貨がなくなったわけではありません。法規制と付き合いつつも、成長し続けているのが現状です。

2つ目は、競合対策ですね。「分散型銀行」というビジネスは、オリジナルのなはずですが、App Store で「ビットコイン」と検索すると5000ものアプリが出てきます。多くの人はその中で1つまたは2つを選ぶでしょうから、ダウンロードされるためには皆、競合になってしまいます。なので、カスタマーの啓蒙やマーケティング、広告などを工夫していかないといけないと思っています。

吹田:確かに、それぞれの違いを理解して選ぶには、いろいろな勉強も必要ですね。

Adam Traidman氏:それぞれの国の特性や文化、環境やマーケットの特徴なども理解しながら、なぜBreadが良いサービスなのか伝えていかないといけません。それには、時間も資金もかかるけれども、やっていかないといけないと思っています。

ポイントをくれる世界初の銀行としても、ユーザーのベネフィットは魅力大

吹田:最後に私たち日本人に対して思うところ、期待しているところはありますか?

Adam Traidman氏:日本人の中には、大きなブランドで全てを管理してくれることを求める人も多いと思いますが、それでは、今までの銀行と同じで、中央集権的になって自分で管理できるチャンスを放棄することになってしまいます。中央集権的管理によるリスクと分散型によるベネフィットをしっかり理解してもらいたいと考えています。

吹田:リスクとベネフィットですね。

bread_03Adam Traidman氏:過去10年を振り返ると、伝統的な銀行で自分の預金が盗まれることはありませんでしたが、仮想通貨の世界では過去5年くらいでマウントゴックスなど取引所の管理の不備により、お金が盗まれる事件がありましたよね。これは、Breadのように1つ1つの取引がブロックチェーン上に記録されているのではなく、仮想通貨の取引所がまとめてブロックチェーンにのせていて、ユーザーはそこにお金を預けている状態だったから、ハッキングなどのリスクにさらされたということです。

吹田:仕組みの違いでリスクも変わることは、私たちもしっかり理解することが必要ですね。

Adam Traidman氏:大事なお金については安全なWalletアプリを使ってほしいです。Breadは簡単にダウンロードできますし、1つ1つがブロックチェーンとつながって、ハッキングのリスクがないからです。また、他の取引所で初めて口座を開設するには、手続き上本人確認書類など手間がかかりますが、Breadは5秒ででき、個人情報の登録も不要です。まさに、シンプルで簡単で安全なサービスを追求しています。

吹田:5秒とは手軽ですし、ブロックチェーンとの直接的なつながりは、セキュリティ面も安心なのですね。

Adam Traidman氏:もともと、このビジネスモデルはサトシナカモトのプランですし、誰かが中央で管理するのではなく、1人1人が自分で資産の管理をできるという「真に分散化された世界」を実現することを我々は目指しるだけです。

吹田:なるほど。そしてどんどん銀行も進化していくのですね?

Adam Traidman氏:はい、従来の銀行に頼らなくてよくなるように、違いを明確化できるように、もう一つ取り組んでいます。ユーザーのベネフィットを高める方法として、2017年にICO(※2)でBreadトークンを発行しました。今まで、ポイントをくれる銀行ってありました?

吹田:いえ、ないと思います(笑)

Adam Traidman氏:Breadトークンの発行は、Breadを使い続けてくれることに対して、ロイヤルティを提供するもので、ユーザーにポイントを付与するようなものです。具体的には、Breadトークンで優待などの特典、無料利用権や限定サービスなどを受けられます。

(※2:ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)は、資金調達をしたい企業や事業プロジェクトが、独自の仮想通貨を発行(販売)して、資金調達する方法。)

吹田:トークンを通じていろいろな権利やサービスが充実し、お客様との双方向でつながるのですね。確かに従来の銀行の枠を超えた新しい姿です。

Adam Traidman氏:分散型銀行として、日々働いている人たちに、時間やコストを節約して、資産を自身でコントロールする力を付けてもらうことをサポートしたいと思っています。それがBread名前の理由なのですから!(That’s why Bread name is Bread.)

吹田:Breadは「パン」ですか?

Adam Traidman氏:Breadは「Breadwinner」という言葉から来ていて、パンを勝ち取ってくる人、稼ぎ手・大黒柱という意味があります。つまり、家族のために稼いでくる人の資産を100%本人主体で管理できる仕組みをつくってサポートしたいといのが、名前に込められた想いです。

編集部の帰り道

仮想通貨業界の中でも、Adam Traidman氏のように、20年以上ものハードウェア、ソフトウェア、IT業界でのマネージメントや開発の経験を持って、社会分析しつつ将来を熱く語る人は貴重な存在ではないだろうか?分散型銀行として、そのロイヤリティを分け与えるトークンを発行するという今回のICOは、わりかんアプリのペイモで知られるAnyPay株式会社(本社:六本木)がコンサルティングをし、数時間で$32Mを完売というから、世界の注目度の大きさを感じる。従来の銀行は一層存在感が薄くなってくると思わざるを得ないし、今後の銀行の進化系として、ぜひブレイクスルーしてほしいと思った。

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