生命保険を相続対策として利用するなら知っておきたいこと

本来、生命保険の死亡保険金は、自分が死亡したときに遺族が生活に困らないようにお金を遺すためのものです。特に子供が小さな場合など、まだまだ養育費がかかる状態で一家の大黒柱が亡くなると、残されたパートナーが大変苦労することは想像に難くありません。

ところが最近は、死亡リスクをカバーする目的とは違い、子育ての終わった、夫婦だけで悠々自適に暮らせる世代の方が終身保険に入るケースが見られます。

この大半が相続対策が目的だと言われています。

目次

相続対策に死亡保険を使う理由

生命保険料控除を計算に入れる

平成 27年から相続税の基礎控除額が引き下げられました。たとえば夫婦と子供二人の世帯で、父親が亡くなると、以前は基礎控除が〈 5,000万円+ 1,000万円 ×法定相続人 3人=〉 8,000万円だったものが、現在は、 〈3,000万円+ 600万円 ×法定相続人3人= 〉 4,800万円と 4割も減ってしまったのです。そのせいで、相続税を納める人の割合が増えています。

都内の戸建てで年金生活をしていた父親が亡くなっても、土地代だけで控除を超えてしまうことがあります。資産の大部分が自宅である場合、1軒の家を母と子供たちの 3人で分けることはできませんし、相続税を払うこともできません。

こういうときに有効なのが死亡保険金です。

その理由の一つは、生命保険控除というものがあり、控除額が上乗せされます。先ほどの 4,800 万円の例でいうと、金額は 〈 500万円 ×法定相続人3人= 〉 1,500万円がプラスされますから、 6,300万円の計算になります。これだけでだいぶ違いますね。

現金化が素早い

助かるのは、生命保険金は手続きをすれば 1週間程度で現金が手元に来くること。葬儀費用など何かと物入りのときに現金があるのは大きいです。さらに、相続税は亡くなってから 10か月以内に現金で納付しなければならないのです。このため、お金を作るために自宅を急いで売ろうとすると、足元を見られて買いたたかれることもあるので要注意です。

一時払で節税対策する

上手に節税することを考えるなら、一時払で生命保険に入ることで、保険料分財産を減らすことができます。夫が自分で保険料を払った場合、保険金はもともと夫のものとみなされ、相続財産に算入されます。 500万円の控除を超える部分は相続税の対象になります。

あるいは、長期にわたって年に 110万円(贈与税非課税限度額)ずつ相続人に贈与をし、そのお金で相続人が保険料を払っていくこともできます。その場合は保険金の受取人が保険料を負担していますから、負担した保険料を引いた残りが一時所得となり、所得税の対象になります。

ただ、控除もありますし、税率も相続税よりやすいのでこちらの方がお得な場合が多いです。

 代償分割という手が使える

もう一つ、生命保険が有効な場合が、遺産分割時です。たとえば、自宅と少しの預貯金しかない場合、母親に居宅として家を相続させると、子ども 2人はわずかな預貯金を半分ずつ相続することになり、法定相続分を大きく下回る遺産しか相続できないことになります。このとき、母親が受取人の生命保険に入っておけば、それを子供たちに分け与えることができます。これを代償分割といいます。

これは次に母親が亡くなった時( 2次相続といいます)に特に有効です。母親の資産は家だけです。これを子供の一人が相続するともう一人は相続するものがありません。そこで、家を引き継ぐ子供を受取人にして母親が生命保険に入っておくと、その保険金をもう一人の子に渡すことができます。これも代償分割です。

 生命保険を相続対策に使う注意点

このように、いろいろ便利に使える生命保険ですが、注意点もあります。

まず、両親と子供の家族の場合、必ず 1次相続、 2次相続まで通した相続対策をしておく必要があります。なぜなら、 1次相続では配偶者に大きな控除があって、相続税が軽減されるのですが、 2次相続では配偶者の立場の相続人がいないので、控除額はかなり少なくなってしまうからです。

配偶者は、遺産の半分か、 1億 6,000万円の多い方まで相続税が無税になります。そこで、 1次相続で配偶者が全部の財産を相続すると、 2次相続で子供二人がその財産を半分ずつ相続することになり、配偶者控除のような大きな控除もないので、相続税は高額になります。

そこで、両親が健在なうちから、「 1次相続で配偶者がどのくらい相続するとトータルの相続税が少なくなるのか」のシミュレーションをして必要な対策をする必要があります。

まずは今の資産で相続税がどのくらいかかるのかをはっきりさせましょう。そのうえで、生命保険の金額もどのくらいだったら良いのか検討します。相続人が保険料を払う場合は、 500万円を超える部分がいくら必要か、一時所得の税率は誰が一番低いか、などを検討して保険金を決めます。

全体を通して

その他にも、間違った節税対策で生前の生活が苦しくなったり、かえって相続税が増えたりは、よく聞く話です。節税のためと勧められ、借金して賃貸マンションを何軒も買い、ローンの返済に苦労しているなど……。

あいまいな情報に飛びつくことのないよう、慎重に動きましょう。

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