がんの治療はお金がかかる、とよく言われる理由のひとつが、いわゆる「保険の利かない治療」が多いこと。「保険の利かない治療」を自由診療といいますが、なぜ治療費が高くなるのでしょうか。また、自由診療の高額な治療費はがん保険で保障されるのでしょうか。
公的な保険が利かない「自由診療」とは
保険が利く治療を保険診療といいますが、多くの人は自己負担3割となっており、その医療費総額の3割だけ支払えばいいことになっています(高齢者は1割や2割になります)。しかし保険の利かない自由診療は、全額自己負担。そのため高くなるのです。
保険診療は、疾患ごとに受けられる検査や治療内容、回数などが決められています。ひとつの治療方法が保険適用になるまでには、安全性や有効性などが充分に確認される必要があり、確認のための期間が長期にわたることもしばしばです。そのため、海外で承認されている薬や治療を受けようと思っても、日本では保険適用になっていないケースもあり、その場合は自由診療となります。
保険診療と自由診療を併用することを、混合診療と言います。現在日本では、混合診療は基本的には認められていません。一部でも自由診療を受ければ、すべての治療が自由診療として全額自己負担となります。
ただし例外があり、先進医療には混合診療が認められています。
評価中のあたらしい医療技術「先進医療」とは
先進医療とは、保険診療にするべきかどうか評価中の新しい医療技術のことで、2017年7月1日現在104種類の手術法や検査法などが認定されています。安全性と有効性を確保するため、医療機関の設備などに関する基準が厳しく設定されており、どこでも受けられる医療ではありません。がん治療に有効とされる陽子線治療や重粒子線治療などが先進医療に含まれており、これらを治療の選択肢としたいがん患者も少なくないはずです。
先進医療を受けた場合は、先進医療そのものにかかる費用については全額自己負担です。陽子線治療や重粒子線治療では、約300万円。それ以外の、通常治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料など)の費用は保険診療と同様に扱われ、3割負担となります(自己負担3割の場合)。
がん治療と自由診療・先進医療
がんの治療は、まずは保険診療である手術や抗がん剤、放射線治療をしていくことが一般的です。しかし、副作用によるQOL(=Quality of life、生活の質)の低下を避けるなどの理由で、保険適用ではない療法を自由診療で受けたいとなることもあるでしょう。
また、抗がん剤は長く使っていると耐性ができ、効果がなくなってくることがあります。新しい抗がん剤を試したいと思っても、海外で承認されている薬が国内では未承認という場合もあります。そんなとき、未承認の抗がん剤を自由診療で使用するかどうか。厚生労働省の『治験実施状況及び未承認薬使用状況についての調査』によると、約4割の人が未承認の抗がん剤の利用を希望していました。
また、述べたように、先進医療にも、陽子線治療・重粒子線治療などをはじめとして、がんの治療を目的にしたものがあります。このように、がん治療は自由診療・先進医療を受けることで、自己負担が高額になりやすいのです。
がん保険で自由診療は保障されるか?
では、がん保険で、自由診療の医療費は保障されるでしょうか。がん保険は、保険診療の適用であるかどうかではなく、一定の給付条件さえ満たせば給付金が受け取れる仕組みになっているため、自由診療だから保障されない、という心配はありません。たとえば、「がんの診断を受けたら一時金で100万円」、「がんの治療を目的として入院をしたら1日につき1万円」といったように、それぞれの給付条件を満たしさえすれば問題ありません。
しかし、多くのがん保険は定額給付制であるため、自由診療や先進医療を受ける場合には、保障が不足することもありえます。そこで、先進医療については先進医療保障特約を付けておくことで保障を受けられます。先進医療特約の保険料負担は月払で数百円程度と少なめですので、付加しておく価値はあるでしょう。
自由診療については、医療費を実費補償するタイプのがん保険で備えておく方法もあります。これは、診断や入院に対しての定額給付ではなく、実際に自己負担した額が給付されるというものです。一定の上限はありますが、おおむね十分な額になっています。ただし、給付対象になる医療機関が定められていますので、もしも自由診療を受けることがあれば受診前に必ず確認しておく必要があります。