保険の請求は契約者本人が行う必要があります。地震で被害を被ったら、契約者が被害状況を保険会社に説明し、定められた手続きを経て保険金を受け取る流れです。
このときに知っておきたいのが、地震保険はどんな時に支払われ、どんな時に支払われないのか。請求関連で無駄骨を折らないためにも、基本的なことは頭に入れておくのが望ましいでしょう。
基本事項
支払基準に関する基本知識は別ページでも触れていますが、念のためこちらでも軽くおさらいしておきましょう。以下の表をご覧ください。
保険金の上限 | 損害区分 | 詳細条件 |
---|---|---|
火災保険(主契約)金額の 30~50%かつ建物5,000万円、 家財1,000万円 | 全損(100%) | 【建物】 ・建築時価の50%以上の損害 ・建物の延床面積の70%以上 【家財】 ・家財時価の80%以上 |
大半損(60%) | 【建物】 ・建築時価の40%以上50%未満の損害 ・建物の延床面積の50%以上70%未満の損害 【家財】 ・家財時価の60%以上80%未満 | |
小半損(30%) | 【建物】 ・建築時価の20%以上40%未満の損害 ・建物の延床面積の20%以上50%未満の損害 【家財】 ・家財時価の30%以上60%未満 | |
一部損(5%) | 【建物】 ・建築時価の3%以上20%未満の損害 ・床上浸水または地盤面から45㎝を超える浸水 【家財】 ・家財時価の10%以上30%未満 |
保険金の上限は火災保険の50%まで。2,000万円の契約なら、地震保険の最高金額は1,000万円になり、1,000万円のうち何%受け取れるかは4つに区分された損害度により決まります。建築物、家財によりさらに支払い条件が異なりますね。少しわかりにくいかもしれないので、詳しくは個々のケース例で見ていきましょう。
【ケース1】地震の揺れで食器が割れて落ちた
【答え】△:損害額が家財総額全体の10%以上なら受取可
食器は家財物なのでもちろん補償対象内。しかし保険金を受け取るためには、家財総額全体の10%を超える損害でないと一円も支払われません。食器が何枚か割れただけでは当然出ないということ。地震保険は大きな損失に備えるための保険なので、仕方ありません。
【ケース2】300万円の壺が割れてしまった
【答え】×:保険金は支払われない
実は、一個または一組30万円を超える書画、骨董品・貴金属品、いわゆるぜいたく品の類は支払い対象から外れます。現金、預貯金通帳、有価証券などについては完全に支払い対象外です。ちなみに、金庫そのものは家財に含まれますが、中の現金や有価証券はやっぱり対象外なので、損失すると本当に困るものは貸し金庫へ預けるのが正解です。
【ケース3】事務所件自宅が完全に倒壊、または津波で流失
【答え】○:100%支払われる
完全に倒壊・または流失ですから「全損」で上限の100%を受け取ることができます。
ここでポイントなのは「自宅件事務所」です。地震保険は、自宅用のほか、この例のような居住部分と事業用部分がある「店舗併用住宅」についても契約することができるので、このケースでは問題なく支払われます。
【ケース4】家は無事だが壁にヒビが入った
【答え】△:損害度が時価の3%以上なら受取可
建物の場合、その主要構造部、つまり「柱」「はり」「壁」などに一定の損害が生じた場合に支払われることになっています。このケースでは壁なので最低条件はクリアしていますが、問題はその損害度。表にも記載しているように、建築時価の3%以上20%未満の損害であれば、最低でも一部損の5%の保険金は受け取れることになります。
【ケース5】地震による津波で車が流されてしまった
【答え】×:保険金は支払われない
車は生活用家財と思いがちですが、火災保険でも地震保険でも支払い対象ではありません。実は現状、地震・噴火・津波による車への損害には打つ手がなく、一部車両保険に付帯できる「地震・噴火・津波補償特約」はあるものの、わりと高めなのでオススメはできません(東日本大震災後は販売をストップしている保険会社もあります)。
【ケース6】液状化で家が傾いてしまった
【答え】△:損害度に従って支払われる
埋立地や湾岸部など、地下水が比較的浅い所にある地盤は、地震による強い揺れで砂粒子が変化しやすく、地盤が不安定になることがあります。これを液状化現象と呼びます。
地盤が液状化して支持力を失うと、建物が傾いたり、沈んだりするわけですが、こうしたケースでは以下のような支払い基準にそって支払われます。
建物 | 認定区分 | 被害の状況 | 支払保険金 | |
---|---|---|---|---|
傾斜 | 沈下 | |||
全損 | 1°を超える場合 | 30cmを超える場合 | 建物の地震保険金額の全額 (ただし、時価が限度) | |
半損 | 0.5°を超え、1°以下の場合 | 15cmを超え、30cm以下の場合 | 建物の地震保険金額の50% (ただし、時価の50%が限度) | |
一部損 | 0.2°を超え、0.5°以下の場合 | 10cmを超え、15cm以下の場合 | 建物の地震保険金額の5% (ただし、時価の5%が限度) |
※傾斜・最大沈下量のいずれか高いほうの認定区分を採用。
全損、半損、一部損傾斜と区分するのは同じ。後は傾斜と沈下の被害度によって支払われます。東日本大震災以降、損害調査方法が明確化され、以前と比べより適用範囲が理解しやすくなりました。
【ケース7】分譲マンションの柱に多大な損害が生じた(専有部分は問題なし)
【答え】○:損害度に従って支払われる
マンションの地震保険は、玄関ホール、柱、外壁などの「共有部分」と、室内の家財や間仕切り壁などの「専有部分」に分かれて補償がされます。共有部分の保険は管理組合が加入し、専有部分は購入者が個人で加入するのが一般的。今回のケースでは共有部分に損害が生じているので、損害度にそってきちんと保険金が支払われます。
なお、日本損害保険教会によれば、共用部分の地震保険加入者は30%と低い水準。要不要論あるマンションの地震保険ですが、耐震度や居住地のハザードマップ等からリスクを想定し、いざというときに路頭に迷わないよう対策は練っておくべきでしょう。
【ケース8】地震から10日目以降に壁にヒビが
【答え】×:保険金は支払われない
地震発生日の翌日から10日経過した後に生じた損害については、地震との因果関係が希薄になるため保険金が支払われません。液状化などで明らかにゆっくり家が傾いているなどの場合は、放っておくと危険ですので、速やかに損害防止対策を講じましょう。
さいごに
補償対象と損害度によって地震保険は0にも100にもなります。損害の鑑定には全社共通のチェックシートが用いられますが、鑑定人によって調べ漏れがないとも限らないので、できる限り自らもチェックし、請求漏れのないようにしたいものです。