現在も捜索活動が続く御嶽山噴火に伴う遭難事故の件、非常に衝撃を受けております。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆様には心よりお悔やみ申し上げます。また、怪我を負われた方々の1日も早いご回復を願っております。
こんなタイミングで…と非難されそうですが、今だからこそ、登山をするなら山岳保険について知っておくべきだと感じました。たとえハイキング程度の軽い山登りでも何が起こるか分からないのが自然です。捜索・救助されたときの補償や、カバーできる山岳事故の範囲を知っておくことは重要ではないでしょうか。
そこで今回は、山岳保険の補償範囲について調べて分かったことをまとめました。
概要
山岳保険の基礎知識
まずは、山岳保険の基礎知識をざっとおさらいしておきましょう。山岳保険は、自分の身体への補償や第三者への賠償責任、また捜索・救助費用の負担などをカバーするために加入するものです。
特に備えたいのが捜索・救助費用です。警察や消防など公的機関による救助活動は公費で賄われますが、人出が足りない場合は民間団体の手を借りることも少なくなく、そのときに要する費用は自己負担になります。救助員1人あたりの日当が3~5万円、ヘリコプターは1時間の利用で数十万~数百万円かかりますから、トータルで相当の金額が請求される恐れがあります。
以前は、普通傷害保険や旅行傷害保険に捜索・救助関連の特約がセットになったプランが主流でしたが、現在は捜索・救助費だけに特化した保険もあり、どんなリスクに備えたいかによって保険選びが変わります。
もぶ太が調べた主な山岳保険は次の4つ。
【セットプラン系】
■モンベル山岳保険(運動危険補償特約付傷害総合保険)
アウトドアの活動形態に合わせて3つのプラン・11コースが設けてあり、救援者費用等は500万円まで補償。携行品損害特約、受託品賠償責任特約などもあり、補償内容が豊富です。
■JMA山岳保険(傷害補償(標準型)特約付団体生活補償保険)
日本山岳協会が取り扱う会員制の傷害保険。こちらはアウトドアの種類に合わせて4つのコースがあり、捜索・救助系込みの補償なら『登山コース』を選ぶことになります。加入にあたっては、山岳共済会への入会も求められます。
【特化系】
■日本山岳救助機構(JRO)
保険ではなく会員制の相互扶助組織で、1年間に発生した捜索・救助費を次年度に会員全員で分担する仕組み。保険や共済のように責任準備金を含まないのでコストが安く、年費2000円+事後分担金1000円未満(直近4年間実績)で最高330万円まで補償してくれます。
■レスキュー費用保険(日本費用補償少額短期保険)
1年間5000円の保険料で補償額は最高300万円(免責3万円)。コストパフォーマンスではJROより劣りますが、疲労や悪天候による遭難も補償対象なのが大きな特徴です。
それぞれ、どんなケースの山岳事故を補償してくれるのか。気になった点をメールやコールセンターなどで問い合わせて確認しました。
こんな場合は補償される?
(1)ハイキングやスキーなどでの捜索・救助費用
・モンベル山岳保険・JMA山岳保険……(◯)
・JRO・レスキュー費用保険……(◯)
JROとレスキュー費用保険は、登山の定義が幅広く、山の高さや季節、用具なども問わず補償されます。
モンベル山岳保険とJMA山岳保険も補償対象内ですが、少々ややこしいいのは、両保険ともピッケルやアイゼンなどを使用する本格的な「山岳登はん」を特別扱いし、軽登山と補償のコース・グレードを分けている点です。
具体的には、山岳登はんには「遭難捜索費用」が、軽登山には「救援者費用」が適用されます。
以下はモンベル山岳保険のHPから引用です。
救援者費用等補償
国内・海外を問わず、乗っていた航空機・船舶の遭難や、旅先でのケガによる入院(14日以上の入院に限ります。)などで、保険契約者、被保険者またはその親族が負担された捜索や救助にかかる費用または事故現地への旅費などの費用を負担された場合、保険金をお支払いします。
遭難捜索費用
日本国内において山岳登はん(ピッケル・アイゼン・ザイル・ハンマー等の登山用具を使用するものおよびロッククライミング、フリークライミングをいいま す。)の行程中に遭難された場合、被保険者の捜索・救助・移送のために捜索者に支払った費用のうち、社会通念上妥当な部分で、かつ、保険事故と同等のその 他の事故に対して通常負担する費用相当額をお支払いします。
ただし、保険期間を通じて遭難捜索費用保険金額をお支払限度とします。
記載表現に違いがありますが、公的機関が遭難であると認め、民間団体が出動した際に負担する諸費用はきちんと出るそうです。救援者費用補償は、山岳事故用の特約というより、幅広い事故を対象とする一般的な傷害保険特約ですね。
ハイキング程度の登山しかしない人は、それに応じたコース、または特化系の保険が適していると思います。
(2)ピッケルで他人を怪我させてしまったときの賠償費用
モンベル山岳保険・JWA山岳保険……(◯)
JRO・レスキュー費用保険……(×)
第三者の身体やモノに損害を与え、法律上の賠償責任を負った場合は、個人賠償責任保険の守備範囲になります。JROとレスキュー費用保険は、捜索・救助系の補償に特化した保険なので、当然、保険金はおりません。
なお、個人賠償責任保険は、火災保険や自動車保険の特約でも付帯することができるため、既にこれらの保険に加入している人は、既存の保険に追加する形でも構いません。
(3)病気や体調不良がもとで救援した捜索・救助費用
モンベル山岳保険・JMA山岳保険……(×)
JRO・レスキュー費用保険……(◯)
JRO、レスキュー費用保険では補償されます。熱中症や低体温症、高山病、心臓疾患等々、山に付きものの突発的な傷病は補償対象内です。ただし、持病の悪化が原因で行動不能になったときは少し微妙。場合によっては補償が減額されることもあります。
一方、モンベル山岳保険・JMA山岳保険は、ベースが傷害保険なので、病気や体調不良がもとで起こる山岳事故はすべて補償対象外です。たとえば、熱中症がもとで意識を失って足を滑らし、骨折したとしても、補償されるとは限りません。
このあたりは明確に違うため、きちんと把握しておきましょう。
(4)道迷いがもとで救援した捜索・救助費用
モンベル山岳保険・JMA山岳保険……(△)
JRO・レスキュー費用保険……(◯)
山岳事故の原因の約1/3は「道迷い」ですから、当然、補償対象内ではありますが、セットプラン系の場合、何が原因で道に迷ったかは問われるでしょう。前述の例と同じように、病気がもとで意識がもうろうとした結果、道に迷った場合は補償対象外になる可能性があります。
(5)単なる疲労がもとで救援した捜索・救助費用
モンベル山岳保険・JMA山岳保険・JRO……(×)
レスキュー費用保険……(△)
くたびれたなどの理由で動けなくなり、ヘリコプターで迎えにきてもらったなど、常識的な範囲で「単なる疲労」と判断できる場合、補償対象から外れます。唯一、レスキュー費用保険だけが疲労をOKとしていますが、単なる疲労で警察が遭難と認めるかは疑わしいことから、△としておきました。
(6)噴火や地震がもとで救援した捜索・救助費用
モンベル山岳保険・JMA山岳保険……(×)
JRO・レスキュー費用保険……(◯)
一般的に傷害保険では、噴火や地震などの特殊事例では免責としており、補償されないと考えるのが妥当です。ただ、今回の御嶽山噴火事故を受けて生保各社が全額保障を発表したように、被害の規模に応じて特例が適用される可能性はあります。
JRO・レスキュー費用保険は、「自然災害における免責は設けていない」とのことでした。
(7)海外での山岳事故
モンベル山岳保険・JMA山岳保険……(×)
JRO・レスキュー費用保険……(×)
山岳保険は国内での山岳事故にのみ対応しています。
さいごに
遭難捜索費においては、複合的な傷害保険より特化系の保険の方が柔軟なイメージを持ちました。万一の経済的リスクに備えるための保険ですから、具体的な補償内容や給付条件はきちんとチェックしておきましょう。
なお、山岳保険以前に、登山の際には必ず登山計画書(入山届)を警察・家族に届けるようにしましょう。氏名・連絡先・登山の行程などを事前に知らせておくことで、救助されやすくなります。