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教育費の準備といえば学資保険が有名ですが、教育費の積立は学資保険でないとできないわけではありません。馴染みの深い定期預金や積立預金もあれば、投資信託や個人向け国債という手もあります。
複数の選択肢があるにもかかわらず、学資保険が人気なのは、知名度のおかげなのでしょうか? それとも、金融商品として優れているから選ばれているのでしょうか?
教育費の準備に使えそうな他の金融商品と比較し、学資保険の「金融商品としての価値」を考えたいと思います。
比較の前に、一般的な「良い金融商品」の定義付けをしておきましょう。 金融商品の良しあしは、『安全性』『収益性』『流動性』の3つの要素を備えているかどうかで決まります。平たく言えば、元本割れせず、たくさんのリターンが得られ、いつでも自由に換金できる商品がいいということです。
とはいえ、これらをすべて兼ね備えたものは存在しません。収益性が邪魔をするからです。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」という諺があるように、リターンを求めるなら相応のリスクを取る必要があり、安全性や流動性との共存が難しくなります。
お金を増やすための金融商品ですから、ある程度の収益性がないと困りますが、だからと言って流動性と安全性を軽視するわけにはいきません。それぞれがバランスよく備わっているのが一番でしょう。
学資保険の収益性は、払い込んだ保険料が最終的にいくらプラスされて戻ってくるかの『返戻率』で確認できます。計算式は次のとおりです。
返戻率(%)=(祝い金+満期保険金)÷ 払込保険料総額 × 100
たとえば、祝い金と満期保険金の合計が110万円、払込保険料総額が100万円だった場合、上の計算式で110%になります。マイナス金利の影響を受け、最近の学資保険は100%を超えれば合格…という悩ましい状況が続いていますが、商品・プランによっては110%弱に近づけることも可能です。
ところで、感のいい人はお気づきかもしれませんが、返戻率には利回りという時間の概念が見えてきません。「元金に対して毎年これくらい増えた」といった経過が見えず、ただシンプルに、払い込んだ保険料と保険会社から受け取った保険金との結果になります。
学資保険と他の金融商品とを比較しにくい点はここにあるのですが、今回は、この返戻率を無理やり(?)利回りに直し、銀行預金と比べてみましょう。
学資保険にはさまざまな払込方がありますが、ここでは比較のために、ソニー生命の学資保険「Ⅱ型」の《全期払・満期一括受取》というプランを選びました。
《見積条件》
・子供:0歳、親(契約者):30歳男性
・18歳時に満期学資金200万円
・月払9,080円
毎月9,080円ずつ保険料を納めると18年間で196万1,280円になり、返戻率は[200万円÷196万1,280円 × 100=]で101.9%となります。これは利回りに直すと0.11%です(*)。
《参考》利回りの計算式
利回り= 収益 ÷ 運用期間÷元本 ×100
※上記の場合、38,720円÷18年 ÷ 100万円 × 100
さて、元本保証のある預金の金利は、下記の辺りが相場かと思われます(2018年9月現在)。
普通預金は論外ですので、定期預金と比べるとして、先ほどの学資保険の例で挙げた保険料総額(196万1,280円)を、子供の誕生と同時に定期預金で運用したと想定します。
ほとんどの銀行の定期預金は0.01%ですから(税引き後0.008%)、キャンペーンなど、金利の高い定期預金を探して預ける人もいるでしょう。たとえば執筆時現在なら、あおぞら銀行の「あおぞらポケット定期預金」(半年複利)で0.15%です(税引き後0.119%)。
学資保険 | 定期預金 | キャンペーン金利 | |
---|---|---|---|
18年後の受取額 | 200万円 | 196万4,106円 | 200万3,731円 |
利回り | 0.11(%) | 0.015(%) | 0.23(%) |
返戻率 | 101.97(%) | 100.14(%) | 102.16(%) |
キャンペーン金利で預けたら学資保険よりお得になるシミュレーションになりました。
もっとも、実際の定期預金に「18年満期」という商品はありません。満期がきたら、また同じような金利の定期預金を探して預ける、という体での比較です。
(*)保険の満期金は「一時所得」です。元金より増えた金額が50万円(その年のほかの一時所得と合わせて)以上あれば課税されます。
(満期時受取額―正味払込保険料―50万円)×2分の1 上記計算式の金額をその年の収入に上乗せして税額の計算をします。
個別具体的な計算は税務署か税理士にお問い合わせください。
定期預金と比べるのが一般的かもしれませんが、学資保険の加入を考える人はコツコツ積み立てて資産形成をしたいのではないかと思うと、産まれてすぐにまとまったお金を預ける定期預金との比較は少し違和感を覚えます。
そこで、積立定期預金との比較も行ってみました。積立で資産を形成していくという点では、「積立定期」が学資保険と似ています。前述の学資保険例と同じように、毎月9,080円を18年間積み立てていくことにしましょう。
比較対象として、2018年9月のソニー銀行の積立定期0.05%(税引き前)を選びました。比較しやすくするために、積立定期預金の細かいルールとは少し違えています。1年複利で20.315%の源泉分離課税をするとして計算しました(よくわからなければスルーしていただいて大丈夫です)。
とにかく、毎月9,080円×12か月で、1年あたり10万8,960円ずつ積み上がっていく計算になります。
経過年数 | 積立額 | 積立額+利息(課税後) |
---|---|---|
1 | 108,960 | 108,979 |
2 | 217,920 | 218,001 |
3 | 326,820 | 327,066 |
4 | 435,840 | 436,176 |
5 | 544,800 | 545,328 |
6 | 653,760 | 654,524 |
7 | 762,720 | 763,763 |
8 | 871,680 | 873,046 |
9 | 980,640 | 982,373 |
10 | 1,089,600 | 1,091,743 |
11 | 1,198,560 | 1,201,157 |
12 | 1,307,520 | 1,310,614 |
13 | 1,416,480 | 1,420,116 |
14 | 1,525,440 | 1,529,660 |
15 | 1,634,400 | 1,639,248 |
16 | 1,743,360 | 1,748,880 |
17 | 1,852,320 | 1,858,556 |
18 | 1,961,280 | 1,968,276 |
18年間、積立定期を続けても6,996円しか増えませんでした。
これを返戻率になおすと[196万8,276円÷196万1,820円 × 100]で100.35%、利回りにすると、[6,996円÷18年÷1,961,280円 × 100]で0.020%です。
学資保険 | 積立定期 | |
---|---|---|
18年後の受取額 | 200万円 | 196万8,276円 |
利回り | 0.11(%) | 0.02(%) |
返戻率 | 101.97(%) | 100.35(%) |
他の貯蓄性の金融商品ともざっと比較してみましょう。
学資保険と同じくマイナス金利の影響を受けていますが、保険商品では低解約返戻金型終身保険も人気です。払込満了と解約が15~20年の商品であれば、返戻率が100.5%~103.7%、利回りで0,039%~0.185%くらいでしょうか。保険会社やプランによってもばらつきがありますが、解約せずに寝かしておける(=その間、返戻率が上がる)ことを評価するなら、学資保険のやや上をいきます。
変動10年の個人向け国債では0.07%(第102回・表面利回り)、これを満期後も同条件で購入し、18年間後に換金すると、返戻率が100.9%、利回りが0.05%です。
投資信託は商品により、利回りは1%~8%とばらつきがあります。純粋にリターンの振幅が大きものの、元本割れするリスクも抱えています。
商品 | 返戻率・(金利)・の相場 |
---|---|
低解約返戻金型終身保険 | 同等:約100~103%・(0,039%~0.185%) |
個人向け国債(変動10年) | やや低い:約100%(0.07%) |
投資信託 | 高い:(1~8%) |
学資保険は収益性と流動性が共存できない典型的な商品といえます。祝金の据え置きなどには対応できるものの、基本的には満期時にしかお金を受け取れません。低解約返戻金型終身保険も似たところがありますが、先ほどふれたとおり、そのとき必要なければ継続して積み立てることができます。その後はいつでも自由に引き出せることから、学資保険よりは流動性が高いといえます。
他の金融商品についてもまとめてみました。
商品 | 流動性 |
---|---|
普通預金 | 高い:デメリットなく自由に引き出せる |
定期預金 | やや低い:中途解約すると収益性は落ちるが元本保証はある |
低解約返戻金型終身保険 | 低い:中途解約すると大きく元本割れする |
個人向け国債(変動10年) | やや低い:発行から1年は換金できない |
投資信託 | ―:商品により異なる |
当然というべきか、最も流動性が高いのは普通預金。収益性が低い代わりに流動性はピカイチです。
定期預金は、満期まで解約しないことが前提なので、その意味では学資保険や終身保険と同じですが、中途解約しても特別なペナルティは発生しないため、学資保険より高いといえます。
変動10年の個人向け国債は、発行から1年間経過しないと換金できません(固定5年型は2年間)。そのため流動性は「やや低い」としましたが、学資保険は短期払込でも最短で5年がやっとなので、学資保険より遥かに高いです。
投資信託は商品によりさまざまです。即日換金できるものもあれば、受け取りまで一定期間かかるものもあります。一般的に、収益性の低いものは流動性が高い傾向があります。また、現金化の手続きとは別に、キャッシュにしたいタイミングで希望通りの運用成果になっているのか、気持ちよく現金化できるのか、という不安もあります。
預けたお金が目減りしたり、予想外の出来事で損したりする可能性はどうでしょうか。
まず、学資保険は、医療保障や育英年金がセットになった「保障型」を選ばなければ元本割れすることは基本的にありません。固定金利なので、市場が傾いても契約時に決めたリターンが保障されます。
注意したいのは中途解約で、契約継続期間によっては積立金が7割ほどしか戻ってきません。突然の減給やリストラなど、契約を続行しがたいトラブルが起こったとき、学資保険は対応できません。
保険会社が倒産する可能性も考慮する必要があります。破綻したからといって積立金がパアになるわけではありませんが、減額になる可能性は大いにあります。これらのリスクは低解約返戻金型終身保険にも当てはまります。
商品 | リスク |
---|---|
学資保険 | ・保険会社の倒産による積立金の減額 ・中途解約によるペナルティ |
低解約返戻金型終身保険 | |
普通預金 | 銀行の倒産 |
定期預金 | |
国債(変動10年) | ・金利の変動 ・中途解約によるペナルティ(直近2回の金利) ・日本の財政破綻 |
投資信託 | 運用の失敗による元本割れ |
銀行も保険会社と同様、破綻する可能性がありますが、1,000万円以下なら『預金保険制度』に基づいてきちんと保護される仕組みになっています。
変動10年の個人向け国債は、元本保証こそされているものの、中途解約に対するペナルティは直近2回分の金利と決められており、市場次第では痛いペナルティを支払うことになります。
投資信託は、リスクをとってリターンを求めるものですから、相場の暴落等により元本割れする危険性は大いにあります。リーマンショックのような事件が、わが子の進学のタイミングで起こらない保証はどこにもありません。ということで、今回のラインナップのなかでは最も安全性が低いです。
学資保険の金融商品としての点数を付けてみました。収益性は銀行預金よりは有利ですが、やはり流動性の低さが目立ちます。
しかし一方で、これが「強み」であると意見する専門家もいます。そのときの懐具合で自由に引き出したりできず、子どもの将来のために半強制的に貯蓄できるところにメリットがあるという見方です。「まだあるから大丈夫!使っちゃおう」といったタイプの人には効果的ですね。
また、保険ですので、金融商品にはない「保障」という強みもあります。契約者(親)が死亡するなど万一のことがあっても、予定通りの満期金を受け取れる点です。
このように考えると、学資保険は金融商品としては特に優秀ではありませんが、「教育資金のための金融商品」としてはマッチしているのかもしれません。