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住宅ローンという長距離レースでは、ゴールまでの間に何が起こるか分かりません。一家の大黒柱である借主が死亡したり、高度障害状態になったりと、不測の事態が起きないとも限らないため、民間銀行のほとんどが、住宅ローン融資の条件として団体信用生命保険(団信)の加入を義務付けています。
住宅ローンでは金利や返済額の話ばかりに目が行ってしまいますが、加入しなければならない保険の知識も知っておきましょう。
団体信用生命保険とは、万が一、返済期間中に住宅ローン契約者本人が死亡もしくは高度障害となった場合に、死亡保険金で住宅ローン残高を一括返済することができる住宅ローン専用の生命保険です。団信に加入していれば、残された家族は住宅ローンの負担から解放され、そのままマイホームに住み続けることができます。銀行としても、貸したお金が戻ってこない損害を免れることができるため、民間住宅ローンでは原則として、団信の加入が住宅ローンの借り入れ条件となっています。
保険料は通常、銀行が負担してくれます。タダと言うと聞こえはいいですが、住宅ローン金利に保険料が含まれているため、別途支払う必要がないというのが実態です。
民間住宅ローンでは、団信の加入はほぼ強制ですが、フラット35では任意加入になっています。団信未加入者でも住宅ローンを組むことができ、いつでも脱退できます(1度やめてしまうと再加入はできません)。フラット35利用者が加入する団信を「機構団信」といい、民間の団信と大きく違う点は、保険料が自己負担であることです。年に1度、0.35%程度の金利負担に相当する金額を支払う必要があり、1度でも保険料の滞納があると自動的に契約が失効、つまり保障が受けられなくなるので注意してください。
保険料の負担が大きいため、フラット35の借り入れ時に団信に加入するか否か悩む人が多いようです。必ずしも加入しないといけないわけではありませんが、加入しない場合は、団信の代わりとなるような生命保険に加入しておくなど、万が一の場合に家族に住宅ローン債務を残さない対策をとっておく必要があります。
たとえ返済能力や担保物件に問題がなくても、団信に加入できなければ、銀行は住宅ローンの融資をしてくれません。では、団信の加入条件とは、どのようなものなのでしょうか?
まず1つに、年齢制限があります。特約の追加によって多少異なりますが、申込年齢70歳未満(保障期間は80歳まで)が条件となっています。次に、健康状態です。【1】直近3ヶ月の病歴、【2】直近3年以内の手術や治療・投薬(2週間以上)、【3】手・足の欠損または機能障害、背骨(脊柱)・視力・聴力・言語・そしゃく機能に障害がある場合に、告知が必要になります。
団信の加入審査は、一般の生命保険に比べると緩めですが、病歴や通院歴を偽って告知義務違反と判断された場合、加入を断られるだけでなく、後に保険金が下りないことがあるため、必ず正確に記載するようにしましょう。
健康状態が理由で団信に加入できない場合、まず考えるのはフラット35ですが、民間銀行で借りたい人は、ワイド団信を利用するという方法があります。ワイド団信とは、加入基準が緩和された団信で、高血圧、糖尿病、肝機能障害、うつ病などの疾患があって通常の団信の加入が難しい場合でも、状態が安定していれば入れてもらえます。すべての銀行が取り扱っているわけではありませんが、最近はワイド団信を選択できる金融機関が増えました。
保険料は団信と同じく銀行負担ですが、ワイド団信の場合、住宅ローン金利に0.2~0.5%上乗せとなります。加入時の上限年齢が 50歳未満と、通常の団信よりも低く設定されていることにも注意してください。
団信の保障内容は死亡保険金ですが、特約を使えば対象を広げることができます。主な特約プランとしては、悪性新生物(がん)・急性心筋梗塞・脳卒中に対応した「三大疾病型」や、三大疾病に加えて、高血圧症・慢性腎不全・糖尿病・肝硬変・慢性膵炎でも保障される「八大疾病型」があり、ほとんどの金融機関が新型団信を提供しています。
住宅ローン金利に0.25%~0.3%程度上乗せした特約料が必要ですが、近年の競争激化に伴い、ネット銀行では金利上乗せなしで疾病保障が受けられる住宅ローン商品がたくさん登場しています。
通常の団信では保障されない健康リスクまで広くカバーされるので、大きな安心感があることは間違いありません。ですが、「病気になったら、住宅ローンの返済が免除される」と安易に考えて、契約するのは間違いです。支払要件をよく見ると、
というように、疾患によっては医師の診断だけでは足りず、所定の状態にならないと保険金が支払われません。また「所定の状態」とは、どのような状態を指すのか、支払要件をしっかり確認してから申し込む必要があります。高い特約料がムダにならないためにも、保障内容を把握し、自分の加入している生命保険を確認しながら、本当に必要な特約かどうかを考えて契約するようにしましょう。
住宅ローンの借り入れでは、団信と同様に、火災保険への加入も義務付けられていいます。なぜ、火災保険が必須なのでしょうか?
火災で家が燃えてしまった場合、マイホームは失いますが、住宅ローンの債務は消えません。つまり、借主は住まいをなくしたうえに、存在しない住居のローンを返済し続けなければならないのです。これは経済的にも精神的にも、かなり厳しい状態です。しかし、火災保険に加入していれば、契約時の物件価値で評価した保険金額を受け取ることができるので、保険金で住宅ローンを返済して、残ったお金を生活資金に充てることが可能です。さらには、住居資金に回して、新しい家を買うことができるかもしれません。
また、火災で返済できなくなると、借主だけでなく銀行も困ります。通常、住宅ローンの返済が滞った場合、銀行は担保となっている土地と建物を処分して資金を回収しますが、建物が火災で焼失してしまうと、建物の価値がゼロとなり、その分の資金回収ができなくなります。銀行が債権を保全する目的として、火災保険の加入が必須とされています。
以前は、火災保険の支払いが発生した場合に、銀行が優先的に保険金請求できるようにするため、火災保険に質権を設定するのが主流でしたが、現在では少なくなりました。
火災保険はその名のとおり、火災を原因とする損害時に補償される保険ですが、落雷・破裂・爆発での損害も補償される仕組みになっています。オプションとして、強風や豪雨などの自然災害、水漏れや盗難などによる損害も補償されます。
火災保険の補償対象は建物と家財に分かれており、「建物のみ」「家財のみ」「両方」を選択することができます。住宅ローンの契約では、建物を対象とした火災保険の加入が必要となりますが、もしもの場合を考えて、家財にも保険を付帯しておくと安心です。
なお、火災保険の保険期間は、以前は30年以上の長期契約が可能でしたが、2015年10月より、最長で10年までとなりました。
住宅ローン利用者の多くが、火災保険のことまで調べる時間がなく、住宅ローンの契約時に銀行が勧める火災保険にそのまま加入するというパターンになりがちです。しかし、必ずしも提案された保険商品の中から選ぶ必要はありません。インターネットで調べると、ネットで簡単に見積もりができるものがたくさんあるので、補償内容や保険料など複数社を比較することをおすすめします。
補償内容を充実させるか、最低限の内容で済ませるかで、支払う保険料が数十万円と変わります。地震保険を付けるかどうかも合わせて、自分の家に適したプランを選ぶようにしましょう。