掲載:
「住宅ローン金利」と一言で言っても、店頭金利、基準金利、表示金利、適用金利、実行金利、優遇金利、キャンペーン金利など、さまざまな呼び方があります。住宅ローン金利は分かりにくい仕組みになっていて、それぞれの違いを理解しておかないと、間違った金利比較をしてしまうかもしれません。とくに優遇金利は、これから住宅ローンを選ぶ人にとって、ぜひとも知ってもらいたい知識です。
銀行のWEBサイトやチラシを見ると、下の【金利表示例】のような表示を目にします。
【金利表示例】
数字がいくつかあると、どれを見たらいいのか迷いますよね。そこで、それぞれの金利の意味と、金利表示の注意点、金利の引き下げについて解説します。
【金利表示例】を見て、最初に目に飛び込んでくるのは、「0.70%」という金利です。これは、適用金利や表示金利と呼ばれるもので、金利を最大限に割引した場合に適用される最も低い金利を示したものです。住宅ローン商品の最新金利情報を知るにはこの適用金利をチェックしますが、注意したいことが3つあります。
まず1つ目は、銀行のサイトやチラシの金利表示は、よりお得感を出すために、最も条件の良い借入当初の金利を大きく掲載しています。「0.70%~1.50%」というように、最大最少金利を表示する銀行もありますが、金利条件の詳細をよく見なければ、最も条件が悪い場合の金利や、表示通りの金利がいつまで続くのか?といった情報までは分からないことが多いです。
2つ目ですが、住宅ローン申込者すべてが、表示通りの適用金利で借りられるわけではありません。実際に使われる金利は、審査の評価や、後で説明する「優遇金利」の引き下げ幅によって個々で違ってきます。
3つ目は、実際に使われる金利は、融資実行時の金利です。数社を金利比較して最も条件の良い住宅ローンを見付けたとしても、月をまたいで実際に借り入れが開始した段階では、「他社の金利の方が安い」ということもあります。
住宅ローン商品の金利を比較するには、まず適用金利に着目しますが、適用金利は絶対的なものではないという前提で見ていくことが大切です。ちなみに、数字の前に「年」とついていますが、住宅ローンで使われる金利は年利率で表示されます。
【金利表示例】を見ると、適用金利の下に「店頭金利2.62%」とあります。店頭金利とは、各金融機関が設定している住宅ローンの基準となる金利で、基準金利と呼ばれることも多いです。それぞれの金融機関が独自に決めた金利水準を公開しており、各社で金利設定は異なります。一般的に、変動金利型は日銀が公表する短期プライムレート(優良企業向けの期間1年未満の貸出金利)に1%程度を上乗せすることが多く、長期固定型は長期金利や新発10年国債利回りを指標にして、利益、コスト、リスクを考慮したうえで金利が決められます。
今ではキャンペーン金利や金利の割り引きが当たり前になり、店頭金利で借りることはほとんどありません。先ほど説明した適用金利が「販売価格」なら、店頭金利は「定価」のイメージで、スーパーや量販店で定価のまま商品が並ぶことがないように、住宅ローンも店頭金利から割引された適用金利を適用するのが慣例化しています。
ですが、適用されない金利だからと言って、店頭金利はチェックしなくてもいいわけではありません。条件や金利タイプによっては、有利な割引やキャンペーンがいつまでも受けられるとは限らないし、もし仮にローンの返済が滞ると優遇が中止されることもあり、店頭金利が適用となります。店頭金利も確認して、できれば店頭金利でも返済額を試算してみることをおすすめします。
金融機関のほとんどが、店頭金利から一定幅の金利を引き下げて、住宅ローンを提供していると述べました。優遇金利、キャンペーン金利、金利の引き下げなど、さまざまな呼ばれ方がされますが、つまりは金利のディスカウントを行っています。
「優遇金利」という言葉は、引き下げられる率を表すのか、引き下げ後の金利を表すのか、曖昧な使われ方がされていますが、「引き下げ率」「引き下げ幅」と考えていいと思います。実際、多くの金融機関もそのような解釈で説明しています。【金利表示例】を式と図で表すと、このようになります。
(店頭金利 2.62%) - (優遇金利 1.92%) = (適用金利 0.70%)
先ほど、店頭金利もチェックしようと言いましたが、適用金利が同じでも、店頭金利まで同じとは限りません。
店頭金利が違えば、借入当初は同じ金利が適用されても、その後引き下げ幅の変更などで、5年後、10年後の金利が変わってきます。仮に、優遇金利が中止になった場合、A社は2.50%の金利が適用されますが、B社なら2.00%の金利で済みます。もともと金利が低い商品なのか?キャンペーンだから安いのか?そこも見ながら、金利比較をしましょう。
金融機関がこのような金利の引き下げをする目的は、住宅ローン申込者獲得のためです。新規申込者や他行からの借り換え利用者を呼び込むために、金融機関同士の金利引き下げ競争は年々激化しています。2015年までは、優遇金利の相場は1.3%~1.9%といったところでしたが、日銀のマイナス金利政策発表後は、2.5%を超えた引き下げをする住宅ローン商品が続々登場しています。史上最低水準の金利に、さらに大幅な金利引き下げが受けられるので、住宅ローン利用者にとっては嬉しい限りですが、優遇金利には気を付けたいポイントがいくつかあります。
優遇金利には、2つのタイプがあります。1つは、引き下げ幅の大きい優遇金利が一定期間のみ適用される、当初期間優遇タイプです。“5年目までは金利が1.9%優遇されるが、6年目以降は1.2%になる”などというもので、借入初期の金利が低いうちに、繰上返済を積極的にしていく予定の人に向いています。
もう1つは、借入全期間に渡って優遇金利が適用される、全期間一律優遇タイプです。完済までコンスタントに返済していきたい人や、返済期間が長い人はこちらがおすすめです。以前は、全期間適用される代わりに引き下げ幅が小さいといったデメリットがありましたが、金利競争の激化に伴い、引き下げ幅の大きい優遇金利が全期間一律で受けられる住宅ローン商品が増えています。
2年固定、5年固定などの当初固定金利型には、特約期間内の金利引き下げ幅が大きい魅力的な商品がたくさんありますが、注意したいことがあります。目先の金利の低さに飛びついて、期間終了後の金利を把握しないままローンを組むと、返済当初は負担が軽くても、引き下げ幅の縮小で予想以上に返済額が増えて、生活が苦しくなることが考えられます。銀行によっては、「期間終了後の金利引き下げ幅は〇%となる」と明記しているところもありますが、「期間終了後は、店頭金利より所定の金利幅を引き下げる」と記載されているだけで、実際にどれほど引き下げ幅が減るのか分かりにくいこともあり、事前に確認しておく必要があります。
一定の条件をクリアしなければ、優遇金利が受けられない場合があります。銀行によって異なりますが、次のような条件を指定されることがあります。
引き下げ幅の決定方法は金融機関によって異なり、非公開とされていますが、審査で返済能力が高いと判断された場合に、条件の良い優遇を受けられる傾向にあります。貸し倒れリスクが少ない利用者は、銀行にとっては優良顧客なので、手厚い優遇をしようというわけです。人的審査のポイントとしては、大手優良企業に勤務している、正社員で収入が安定している、頭金の割合が大きい、という場合に返済能力が高いとみなされやすく、また公務員は離職率が低く、倒産の心配がないので、安定継続した収入が見込まれ、評価が高くなることが多いです。
人的審査だけでなく物的審査の評価も、引き下げ幅に影響します。たとえば、省エネルギー性、耐震性に優れたエコ住宅の場合は、担保物件価値が高いと判断されて優遇が受けやすくなります。フラット35では、優良住宅を取得する場合に、一定期間金利が優遇される「フラット35S」というプランがあります。長期優良住宅の認定を受けた住宅であれば当初10年間、一定の基準を満たす住宅の場合は当初5年間、通常のフラット35の金利から0.3%の金利引き下げが受けられます。
以上のとおり、住宅ローンの金利は、表示されている適用金利だけでは判断できないことがたくさんあります。より有利な住宅ローンを選ぶためにも、金利の表示方法や優遇金利の仕組みを把握しておくことが大切です。