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住宅ローンの借り入れは、金利タイプを選ぶことから始まります。金利タイプには、途中で金利の見直しを行うものと、借入当初から完済までずっと変わらないものがあり、大きく分けると「変動金利型」「全期間固定金利型」「当初固定金利型」の3つに分けられます。
金利タイプの選択は、住宅ローンを選ぶうえでとても重要であり、また難しいポイントです。それぞれの特徴を理解して、金利タイプの正しい選び方を押さえておきましょう。
金利タイプ | 変動金利型 | 全期間固定金利型 | 当初固定金利型 |
---|---|---|---|
特徴 | 政策金利によって金利が動くタイプ | 借入時から完済まで金利が一定のタイプ | 当初の約定期間のみ金利が固定されるタイプ |
金利が下がると | 返済額が減る 🙂 | 返済額は変わらない 😥 | 約定期間内も返済額は変わらない 😥 期間終了後は返済額が減る 🙂 |
金利が上がると | 返済額が増える 😥 | 返済額は変わらない 🙂 | 約定期間内も返済額は変わらない 🙂 期間終了後は返済額が増える 😥 |
変動金利型とは、適用金利が政策金利に左右されて変動する金利タイプです。変動金利型を選ぶ最大のメリットは、低い金利で住宅ローンが借りられることです。特に、マイナス金利政策が発表された後は、0.5%を割り込む史上最低水準の変動金利型の住宅ローン商品も登場したことで、利用者の割合が増加しています。借入時よりさらに金利が下がれば、当初の予定返済額よりも押さえられるので、低金利期、金利下降期は変動金利型が最も有利と言えます。
しかし、逆に金利が上がると返済額が増加します。特に注意したいのが、金利が高騰した場合です。利息支払額が大幅に増えることで、最悪の場合、毎月発生する利息が月々の返済額を上回る、「未払い利息」が発生するケースも考えられます。「低金利の恩恵が受けられる一方で、金利上昇リスクを伴う」ことが、変動金利型の大きな特徴です。
通常、金利の見直しは半年ごとに行われますが、そこで金利が上がったとしても、返済額がいきなりアップすることはありません。変動金利では金利が変動しても5年間は返済額を変えないという「5年ルール」が適用されるため、半年ごとに適用金利が上がっても、毎月支払う返済額は5年間据え置きです。
また、5年ごとに返済額が変更される際に、どんなに金利が上がったとしても、返済額の上がり幅は上限125%までという「125%ルール」が適用されます。たとえば、毎月の返済額が10万円だった場合、5年間で金利が大幅に上昇しても、次の見直し後の返済額は12万5千円が上限となります。
急激な金利上昇で返済額が大幅に増えると、生活が破綻する人が大勢出ることが予測されるため、住宅ローン利用者に配慮しての措置ということですね。もちろん、金利上昇分の利息が免除されるわけではなく、あくまで将来の返済に先送りする仕組みです。
半年ごとの金利見直しで適用金利が上がっているのに、どうして返済額は5年間同じなのか不思議に思いませんか? これは、増えた利息分は5年間払わなくていいのではなくて、返済額に占める元金と利息の割合を調整することで、返済額を均等にしているからです。
原則として、利息は元本に優先して返済しなければなりません。返済額を10万円にキープしながら、増えた利息分を返済していくために、本来なら元本分としてその月に支払うはずだったお金を、利息増額分の支払いに回して、返済額の内訳を調整しているのです。
月々の元本返済が減るということは、同じ金額を返済しているのに、なかなか借金がなくならない状態になります。しかし、本当に恐ろしいのはこれからで、もしも元本が減らない状態のまま、さらに金利が上昇し続けた場合、月々に発生する利息額がどんどん増えて、「借金がなくならない」から「借金が増え続ける」という最悪な事態が起こり得ます。
利息が膨らんで返済額を上回ってしまうと、毎月支払いきれない利息が発生します。これを「未払い利息」と呼びますが、未払い利息が発生すると元本が減らないどころか、返済しているのに利息だけが積み上がっていく悪循環に陥ります。つまり、毎月返済しているにもかかわらず、借入残高が雪だるま式に膨らんでいき、返済不能が現実のものとなってしまいます。もし、元本と利息が支払い切れないまま完済予定時期を迎えた場合は、元本と利息分を含めた残高全額を最終日に一括返済するのが原則となっており、老後の生活に大きな影響を及ぼすことになります。
変動金利型の最悪のシナリオがこの未払い利息ですが、住宅ローン利用者の多くが変動金利型を選択している現状において、未払い利息が出てしまうような金利政策を日銀が行うとは考えにくく、過度に変動金利を危険視する必要はないでしょう。
住宅ローン商品のなかには、通常の変動金利型のほかに、上限金利特約付変動金利型というものがあります。「キャップ付き変動金利型」とも呼ばれており、基本的には変動金利ですが、特約期間中はあらかじめ設定した上限金利を超えないというものです。低金利のメリットを受けられる一方で金利上昇リスクが限定されるため、とても魅力的な金利タイプのように思いますが、通常の変動金利型よりも金利設定が高いうえ、扱っている金融機関が少ないことから、利用者はそれほど多くはありません。
全期間固定金利型は、借入当初から返済終了まで金利が固定される金利タイプです。市場金利や景気の影響で返済額が変わることはなく、ローンを借りるときに総返済額が確定するため、長期のライフプランが立てやすいのが特徴です。代表的な商品に、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)と民間の金融機関が共同で手がけている「フラット35が」があります。
金利上昇リスクに晒されないことが魅力である反面、他の金利タイプよりも金利水準は高めです。変動金利や当初固定金利型の2~3倍の金利が相場で、リスクのない安全な返済のための保険料のようなものだと言えます。
全期間固定金利型のメリットが最も生かされるのは、低金利時に借り入れて、その後金利が上昇した場合です。金利がどれだけ上がっても、変動金利のように返済額の増額を心配する必要がなく、全期間にわたって借入時の低い金利が適用されます。
しかし、高金利時に借りて、その後金利が下がった場合は、金利が固定であることが逆に裏目に出てしまいます。世間では低金利の住宅ローン商品が次々に登場するのを横目に、自分だけは完済まで高い金利を払い続けなければならず、同条件で変動金利型を選択した人に比べて、返済負担額は大きくなります。
変動金利と違って、途中で金利タイプを変更することは基本的にできないので、全期間固定金利型を選ぶ人は、自分の返済プランと今後の景気の動向を見据えて、「高い金利を支払って、保険を掛ける必要性があるか?」を検討することが重要です。
当初固定金利型は、「2年固定」や「3年固定」と呼ばれるもので、借入当初から一定期間、金利が固定される特約が付いた住宅ローンです。金融機関によっては「固定金利期間選択型」「固定金利特約型」などとも呼ばれることがあります。名前に「固定」とつきますが、特約期間が終了すると基本的には変動金利に移行するため、実態は特約が付いた変動金利と言えます。金利を固定できる期間は、1年、2年、3年、5年、10年、15年、20年などさまざまで、金融機関によって異なります。特約期間が短いほど金利が低く、長いほど金利が高くなり、10年を超えるものになると、全期間固定金利型との金利差はほとんどありません。
特約期間が終了すると自動的に変動金利型に移行しますが、手続きを行えば金利タイプが再選択できます。再設定後はこれまでの金利が継続するのではなく、その時点の金利が適用されて、月々の返済額が新たに再計算されます。借入時よりも金利が下がっている場合は問題ないのですが、金利が上昇していると返済額が増額します。変動金利のような「125%ルール」が適用されないので上がり幅に上限がなく、毎月の返済額が急激に上がる可能性があります。また、10年未満の当初固定金利型の多くは、店頭金利から金利が割引される優遇金利が適用されますが、約定期間終了と同時に優遇金利の下げ幅が縮小されることがほとんどです。当初固定金利型から変動金利型へ切り替わる場合、はじめから変動金利型を選択している人よりも適用金利が高くなるケースが多いです。
低金利で借りられる変動金利型のメリットと、特約期間中は金利が上昇しても返済額が一定という固定金利型のメリット、その両方が受けられるのが魅力ですが、当初固定金利型を選ぶ場合は、特約期間が終了する頃の家計や市場経済がどんな状況になっているか、イメージを働かせて計画しなければ、当初の負担は軽くても後期の返済が予想以上にしんどくなります。特約期間中は金利タイプの変更ができないので、特に固定期間を長めに設定する場合は、特約内容をしっかり確認し、リスク対策をより慎重に行っておく必要があります。
変動金利と固定金利、どちらか選ぶとなると迷いが生じるものですが、複数の金利タイプを組み合わせる「金利ミックス型ローン」というものがあります。たとえば、借入金額3,000万円で住宅ローンを組む場合、1,500万円は全期間金利固定型、1,500万円は変動金利型に分けて借り入れるもので、現在は多くの金融機関で金利ミックス型ローンを取り扱っています。
金利ミックス型ローンのメリットは、金利上昇リスクが分散できることですが、特徴の異なる金利タイプを同時に借りるので、「金利が上っても、下がっても、住宅ローン利用者は素直に喜べない?!」といったもどかしさがあります。金利が上がると変動金利型の借り入れ分の返済額が増えるため、当然、金利は上昇して欲しくありません。金利が下がれば変動金利型での借り入れ分、返済額が減るので嬉しいですが、金利が下がることによる負担軽減のメリットは、変動金利型の借り入れに限定されます。結果的には、高い金利を払って全期間金利固定型を設定する必要はなかったということになり、「変動金利だけにしておけば良かった」と残念に思うものです。
借入後の金利動向 | 金利ミックス型ローン | 利用者の心境 | ||
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変動金利分(金利が低い) | 全期間固定金利分(金利が高い) | |||
金利が下がると | 返済額が減る 🙂 | 返済額が減らない 😥 | 変動金利だけにしたら良かった | どちらに転んでも、納得のいく結果にはならない?! 🙄 🙄 |
金利が上がると | 返済額が増える 😥 | 返済額が増えない 🙂 | 固定金利だけにしたら良かった |
金利予想に自信がないという理由で選ぶ人もいますが、金利ミックス型ローンで重要なのは、金利予想よりも、リスクヘッジに対する考え方です。将来どう動くか分からない金利によって家計が損失を被る場合に、どの程度なら損失を受け入れられるか?リスク許容度に応じて、将来のリスクをコントロールするための手段と考えるべきです。単に金利予想に自信がない、損をしたくないという人は、リスクゼロの全期間固定金利型を選ぶべきであり、その方が将来の金利上昇に対する精神的不安からも解放されます。
契約時の注意点としては、金利ミックス型ローンは2つの住宅ローン契約を結ぶため、融資手続きや抵当権の設定を2つ行う必要があります。手数料が2倍かかることを考えると、十分なメリットが得られないこともあります。1つの物件に対して夫婦や親子、それぞれ別名義で住宅ローン契約を結ぶ「ペアローン」を予定している人は、リスク管理の1つとして金利ミックス型ローンを検討してみてもいいかもしれません。
金利タイプの選択は、総返済額や家計に大きな影響を与える要素です。それぞれのメリットとデメリット、借り入れに有利なタイミング、どんな人に向いているのかを確認して、自分に合ったタイプを選びましょう。
金利タイプ | 変動金利型 | 全期間固定金利型 | 当初固定金利型 |
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メリット | ・低金利で借りられる ・金利が下がれば返済額が減少 ・いつでも金利タイプの変更が可能 |
・金利が上がっても返済額が一定 ・借入時に総返済額が決定 →長期生活設計が立てやすい |
・変動金利並みの低金利で借りられる ・特約期間は返済額が変わらない |
デメリット | ・金利が上がると返済額が増える ・返済額が確定していない →ライフプランが立てにくい |
・借入金利が高い ・金利が下がっても返済額は減らない ・金利タイプの変更ができない |
・特約期間終了後、返済額が大幅に増える可能性がある (期間終了後の増額要因) 1. 金利の上昇 2.優遇金利の引き下げ幅縮小 |
有利なタイミング | 金利が下降傾向 (デフレ、不景気が継続) | 金利が上昇傾向 (景気回復の兆し) | 借入直後に金利上昇 (期間終了時の金利を見据えておく必要あり) |
向いている人 | ・返済額の増額に対応できる人 ・繰上返済や借り換えができる人 ・金利動向をチェックできる人 |
・安定した長期計画を立てたい人 ・返済期間が長い人 ・金利変動がストレスになる人 |
・返済額の増額に対応できる人 ・一定期間、金利を固定したい人 ・低金利の特約期間中に元本を減らせる人 |