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繰上返済とは、まとまったお金ができたときに、住宅ローンの残債を早めに返済することです。毎月の返済やボーナス返済には利息分が含まれますが、繰上返済は全額が元金の返済に充てられ、元金が減少した分の利息支払いが軽減します。
繰上返済には、借入金額の全て、または一部を返済する方法があります。全額を繰上返済することは、住宅ローンの完済を意味します。一部繰上返済をする場合は、繰上返済の効果として「期間短縮型」と「返済額軽減型」のどちらかを選択します。
期間短縮型を選ぶと、毎月の返済額は変わりませんが、返済期間が短縮されて、短縮した期間に相当する利息分、総返済額が減少します。「定年退職後に住宅ローンの返済が続くのは不安」など、計画的に繰上返済を行って、早期完済を目指したい人に向いています。返済額軽減型よりも利息軽減効果が高いことから、期間短縮型を利用する人が多いですが、毎月の返済額が変わらないため繰上返済の効果を実感しづらい面があります。
返済額軽減型は、残りの返済期間を変えずに、毎月の返済額を減らす方法です。繰上返済の効果が直接、毎月の返済負担の軽減として現れるので、家計のキャッシュフローを調節したい人に向いています。将来、収入減が予想される場合や、子どもの教育費で経済的な負担が重い時期に、住宅ローンの返済額を減らすことで、家計を安定させる効果が期待できます。金利の上昇で返済額が増えた場合の対策としても有効です。
原則としていつでも可能ですが、繰上返済をする時期が早ければ早いほど、高い利息軽減効果が望めます。初期は借入残高が多く、返済額に占める利息の割合が大きいからです。
次の表は、100万円の繰上返済を1回行った場合の総返済額を表したものですが、時期が早いほど、総返済額が減少します。また、期間短縮型と返済額軽減型によっても、利息軽減効果に違いがあることが分かります。
《条件》
100万円の繰上返済を1回行った場合の総返済額
(借入金額3,000万円、適用金利:3%、返済期間:30年、元利均等返済の場合)
繰上返済の時期 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
---|---|---|
繰上返済なし | 4,553万3,160円 | |
1年後 | 4,423万1,912円 | 4,503万4,672円 |
3年後 | 4,435万9,866円 | 4,507万2,892円 |
5年後 | 4,448万4,438円 | 4,511万560円 |
10年後 | 4,475万917円 | 4,520万2,120円 |
15年後 | 4,499万7,133円 | 4,529万80円 |
借入金額に充当された分だけ、利息支払いが軽減される繰上返済は、リスクを伴わない「最強の資産運用」と言われています。借金が減ることで、精神的なプレッシャーが軽減されるといったメリットもあります。早い時期に頑張って繰上返済するのは、賢い返済方法だと言えますが、デメリットがあることも知っておく必要があります。
繰上返済をすると当然、手持ち資金が減ります。余裕資金の活用として繰上返済をするのなら問題ありませんが、生活資金を繰上返済に回してしまい、その後、病気やケガ、子どもの教育費など予想外の出費でお金が必要になったときに、使える資金が手元にないのでは困ります。繰上返済として支払ったお金は、もはや自分のお金ではないため返金されません。繰上返済直後に、急な出費が発生してしまい、住宅ローンよりも金利が高い消費者金融などで借金することだけは避けたいものです。
住宅ローンの利息軽減を優先するあまり過剰な繰上返済をしてしまい、家計が圧迫されて日々の生活が苦しいという黒字倒産のような状況になることがないよう、預貯金と返済額のバランスを考えて繰上返済の計画を立てるべきです。
民間の金融機関で住宅ローンの借り入れをする際、団体信用生命保険(団信)への加入が必須条件です。団信とは、住宅ローン契約者が死亡または高度障害になった場合に、死亡保険金で住宅ローンを清算する制度で、一家の大黒柱を失った家族は住宅ローン残高の支払いが免除されます。
繰上返済で期間を短縮すると、完済が早まった分、団信の保証が受けられる期間も短くなります。繰上返済で完済した直後に借主が死亡した場合、もしも繰上返済をせずに普通に返済していたなら、家族は団信の保証が受けられ、繰上返済に回した貯金を生活費として使えたかもしれません。
借り換えをする場合、現在の住宅ローンの期間内で、返済期間を設定するのが条件です。将来、収入が減って家計が苦しくなり、毎月の返済負担を減らすために借り換えをしたいと思ったときに、返済期間が短くなっていると、年収に対する返済額の割合(返済負担率)が高くなり、審査で不利になることがあります。繰上返済で返済期間を短縮すると、再延長ができないことに気を付けてください。
住宅ローン控除とは、住宅を購入する際に住宅ローンを利用した場合に、10年間、借入残高に応じた金額が消費税(住民税)から還付される制度です。返済期間が10年以上の住宅ローンであることが条件なため、期間短縮型を選択して返済期間が10年を切った場合は、住宅ローン控除が受けられなくなります。
最近はネットバンクを中心に手数料無料が増えましたが、繰上返済には、基本的に手数料が必要です。金融機関によっては、「繰上返済解約金」「繰上返済違約金」と呼ぶこともあります。手数料の相場は、1回につき~5万円で、消費税もかかります。変動金利型よりも固定金利型の方が、ネット手続きよりも窓口での手続きの方が手数料は高めです。ちなみに、フラット35は繰上返済を何回行っても無料です。
こまめに繰上返済をしていきたいものですが、手数料が高めの金融機関の場合は、ある程度まとまった金額を1度に繰上返済する方が効率的といえます。
一部繰上返済は、インターネットからの申し込みで、24時間受付可能としている金融機関が多く、繰上返済予定日の1ヶ月前から予約ができます。1ヶ月間で利用できる回数や、1回の繰上返済額がいくら以上と決まっている金融機関があるので確認しましょう。フラット35で繰上返済するには、ネット手続は10万円以上、窓口で手続きは100万円以上と返済額に制限があります。
基本的に返済を遅滞している場合は、繰上返済はできません。住所変更や相続など、金融機関に届出を必要とする事項の手続きが完了していない場合も同じです。
ボーナス返済とは毎月の返済に加えて、ボーナス月に一定額を増額して返済するもので、住宅ローン借入時に借入金額の何%をボーナス払いにするか決定します。たとえば、3,000万円を借り入れて、そのうち40%をボーナスで返済するのであれば、月々の返済分としての元本は1,800万円、ボーナス返済分としての元本は1,200万円となります。
一部繰上返済をする場合、月々の返済分に充てるか、ボーナス返済分充てるか、両方に分配するかを決める必要があります。月々の返済とボーナス返済をバランスよく返済していきたいなら、繰上返済の金額を均等に充当しますが、今後、ボーナスが減額する可能性があるなどボーナス返済を先に終了させたい場合は、ボーナス返済への充当を優先させます。
妻に退職金が入り、そのお金で夫名義の住宅ローンの繰上返済をすると、妻から夫へ贈与があったとみなされ、贈与税の対象となります。 婚姻関係が20年以上の夫婦間で、居住用の不動産を取得するための金銭を移転した場合、課税額から2,000万円が控除される優遇措置が講じられていますが、繰上返済は対象外です。年間で110万円より少ない額なら非課税ですが、110万円を超えて繰上返済した場合は贈与税がかかってしまうので、妻の退職金を生活費に回して、夫の収入を繰上返済に回すといった節税対策が必要です。
全額繰上返済は定期預金や生命保険の満期返戻金、退職金などのまとまった収入が入ったときに、元金の返済額に経過利息を含めた金額を返済して、住宅ローンを完済するものです。住宅ローン借り換え時に、新たな借り換え先が見つかれば、全額繰上返済の手続きが必要になります。
全額繰上返済の申し込みは一部繰上返済とは異なり、インターネット手続を受け付けていないことが多いです。借入残高のほかに繰上返済日当日までの未払利息、全額繰上返済手数料、戻し保証料額(保証料を一括で支払った場合に返還されるお金)が計算され、繰上返済日の前営業日までに指定の金額を返済用預金口座に入金します。
定年時に退職金で全部繰上返済をする人も多いですが、返済期間が残りわずかという時期に全部繰上返済を行っても利息軽減効果が小さく、大したメリットが得られないことがあります。効果が全くないわけではないですが、繰上返済手数料がかかることなどを考えると、無理して退職金を全額繰上返済に回すよりも、もしもの病気や予定外の出費に備えて手持ち資金を残しながら返済を続けるほうが、安心して老後の生活が送れるかもしれません。
また、住宅ローンを完済すると同時に、団信の保証が消滅します。無理して退職金を繰上返済に回した直後に借主が死亡した場合、残された家族が使える資金は、繰上返済をしなかったときに比べると少なくなります。退職金で全部繰上返済して、すっきりしたい気持ちも分かりますが、年齢が上がれば上がるほど病気にかかるリスクが高くなることを考えると、高齢で住宅ローンが残っていることが不利だとは限りません。借金がなくなると精神的不安から解放されますが、手放す保証があることも忘れてはいけません。
住宅ローンを借りる際、購入物件に抵当権を設定します。返済が困難になった場合、不動産を競売にかけて金融機関が優先的に資金を回収するための担保で、全部繰上返済をして住宅ローンを完済したら、抵当権の抹消登記を行います。完済したら自動的に抵当権が消滅するのではなく、管轄の法務局で所定の手続を行わなければなりません。借入時の抵当権設定登記は金融機関が申請しますが、抹消登記は基本的に借主が申請することになります。登記をすることによって利益を受けるのが、借主だからです。
住宅ローンが完済すると、抵当権抹消のための申請書類が金融機関から届きます。自宅の不動産を管轄している法務局に行き手続きを行えば、1週間ほどで登記が完了します。登録免許税として、不動産1件当たり1,000円が必要です。抵当権抹消記の申請はいつでもできますが、金融機関から交付される申請書類のなかには有効期限付きのものがあるため、早めに手続きすることをおすすめします。
繰上返済の活用は、返済負担をいかに軽くするかを左右する、金利の次に重要なポイントです。しっかり押さえて、賢い返済計画を立てましょう。