認知症の運転者が事故したとき、自動車保険は出るのか?

認知症の高齢ドライバーによる事故のニュースを耳にすることが多くなりました。 警察庁の『高齢運転者に係る交通事故の現状と対策』によれば、平成 27年に 75歳以上の高齢運転者が起こした死亡事故は全国で 458件あります。そのうち、運転者に認知症の恐れがあるとされたのが 31件( 7.2%)、認知機能低下の恐れがあるとされたのが 181件( 42.2%)でした。

認知症を疑われるドライバーが起こす事故は年々増加していることから、そうしたケースでも保険は出るのか、調べてみました。

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自賠責保険は認知症に関係なく出る

自賠責保険は被害者を保護するための保険ですから、認知症の人が運転していた場合でも保険は出ます。ただし、被害者が死亡した場合は最高 3,000万円、ケガの場合は最高 120万円、後遺障害の場合には最高 4,000万円と、万が一の備えとして十分とはいえません。また、相手の車に対する補償がないので、任意保険に入っておいた方が安心です。

任意の自動車保険は認知症による事故でも出る?

認知症の運転手が事故を起こしたとき、任意保険からは相手のケガや死亡を補償する対人賠償、相手の車などモノを補償する対物賠償は保険が出ます。しかし、運転者や同乗者を補償する人身傷害や自分の車を補償する車両保険は出る場合と出ない場合があります。

人身傷害が出ない場合とは?

人身傷害が出るかどうかは、保険会社によって対応が違います。約款に「保険金を支払わない場合」として「被保険者の脳疾患、疾病または心神喪失によって生じた損害」と明記されている場合には、事故を起こした運転手が認知症と認められれば、人身傷害は出ません。一例として、東京海上日動、セゾン自動車火災、イーデザイン損保、損保ジャパン日本興亜、アクサダイレクトにはこの記載があります。

これに対し、ソニー損保や三井ダイレクト損保の約款には上記のような文言はありません。では、人身傷害が必ず出るのかというと、「故意もしくは重大な過失があった場合」は保険金を支払わないという記載が見られるので、補償されるとまでは解釈できません。認知症と診断されていて症状も重く、車を運転したら事故を起こす危険性が高いのにもかかわらず運転していたなら、それは「重大な過失」とみなされても仕方ないからです。

以上から、人身傷害が出るかどうかは認知症の症状や保険会社の対応によって異なるということになります。

車両保険もケース・バイ・ケース

車両保険も基本的に人身傷害と同じく、個別事例によると考えれます。人身傷害のように、保険金を支払わない場合として「被保険者の脳疾患、疾病または心神喪失によって生じた損害」と約款に書いている保険会社は見当たりませんでしたが、「故意もしくは重大な過失があった場合」に保険金を支払わないというのは各社の約款に書かれているため、保険が出るかでないかは、保険会社によって、また認知症の症状によって対応が異なると予想できます。

個人賠償責任保険も使えるが……

車を運転中だけでなく、認知症の人が徘徊していた場合などに事故を巻き起こし、高額な損害賠償を請求される事例があります。事故を起こした本人が重度の認知症で責任能力がない場合、賠償責任は家族などの監督義務者が負うことになるのですが、そうしたケースで使える可能性があるのが個人賠償責任保険です。自動車保険や火災保険、傷害保険の特約として用意されています。

「可能性がある」と言ったのは、各社・商品によって補償範囲が異なるからです。たとえば、監督義務者とする人を「同居の親族」「別居の未婚の子」に限定している商品もあれば、最近はより範囲を拡げて、「別居の親族」や「別居の既婚の子」とまでしている商品も出てきました。

なお、誤って線路に立ち入るなどして電車を止めてしまい、運行遅延の原因を作ったとして請求される損害賠償については、「人的・物的な損害を伴わないため保険が出ない」のが通常でしたが、昨今の認知症患者による悲惨な事故を受け、支払いに応じる(商品改定を行う)保険会社が出てきました。全体から見ればまだ少数ですが、今後もより使い勝手のいい保険の登場に期待したいところです。

全体を通して

以上を簡単にまとめると、

  • 認知症のドライバーが起こした事故でも自賠責保険から補償が受けられる
  • 任意保険の対人補償・対物補償から補償が受けられる
  • 人身傷害、車両保険は保険会社によって、また認知症の症状によって対応が違う
  • 個人賠償責任保険も使える

大前提として、そもそも認知症の疑いがある状態で運転する・させるのは絶対に止めてほしい行為です。車がなければ買い物にも病院にも行けないという地域もあるとは思いますが、事故を起こしてから後悔しても間に合いません。高齢になったら自ら運転を控え、免許返上を決断する勇気を持ちたいものです。

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