自賠責保険とは?補償内容や自動車保険との違いを解説

自動車の保険には、大きく分けて「自賠責保険」「自動車保険(任意保険)」の2つがあります。

自賠責保険は、自動車の持ち主・運転者が自動車の運行によって他人を死傷させ、法律上の損害賠償責任を負った場合に補償される保険です。

自賠法(自動車損害賠償保障法)という法律に基づき、すべての自動車に加入が義務づけられています。平たく言えば、自賠責保険に加入していない自動車を使用することはできません。自賠責保険に加入していることを示す「自賠責保険証明書」は必ず自動車に搭載しておかなければならず、保険標章(ステッカー)や検査標章を表示することなども義務づけられています。これらに違反すると罰則を受ける対象になります。

以上のことから、自賠責保険は強制保険とも呼ばれています。

目次

自賠責保険と自動車保険とでは存在意義が異なる

自賠責保険はどうして強制加入なのでしょうか? それは、自賠責保険の存在意義が「被害者の保護を図ること」にあるためです。加害者に支払能力がなかった場合、被害者は最悪、泣き寝入りするしかありません。そんな事態を避けるために、基本的な対人補償は必ず受けられるというセーフティーネットとして用意されているのです。その意味では、公的な要素が強い保険ですね。

これに対して、自動車保険は任意加入で、個人の要望に応じて必要な補償や組み合わせて加入する保険です。保険会社によって商品内容や取扱方法が異なり、自賠責保険よりも幅広い補償を得ることができます。大まかに分けると次の3つがあります。

  1. 賠償責任保険
  2. 傷害保険
  3. 車両保険

つまり、自動車保険は「自動車事故のさまざまなリスクに対して任意で備える保険」です。このことから、自動車保険を任意保険と呼ぶこともあります。

自賠責保険は加害者でも被害者でも請求が可能

自賠責保険の保険金請求方法には、加害者請求被害者請求の2つの方法があります。

加害者請求とは、交通事故を起こした加害者が、被害者に対して支払った治療費や慰謝料を、自身の加入している自賠責の保険会社に請求することを言います。自分が与えた損害を自分でつぐなうのは自然な理屈ですから、通常は加害者請求が行われます。

しかし、加害者側から誠意が見られない場合や、なんらかの理由で十分な賠償を受けられない場合などは、被害者側から直接、相手の保険会社に請求することもできます。これを被害者請求といい、自賠法の第16条に記載があることから、16条請求とも呼ばれています。前述したように、自賠責保険は「被害者の保護」を目的に作られているため、こうした方法も認められているのです。

当座の治療費を賄うため、加害者の加入している保険会社に対して「仮渡金」の請求をすることも可能です。「加害者から損害賠償金の支払いが行われる前に治療を受けた(けれど手持ちのお金が足りない)」といった場合などに使えるでしょう。これは被害者にのみ認められた行為です。

死亡事故の場合仮払金の額は290万円
傷害事故の場合傷害の程度に応じて40万円、20万円、5万円

なお、保険会社に保険金または損害賠償額を請求できる期限は表のとおり決められており、時効もあります。

加害者請求損害賠償金を支払ったとき(分割ばらいの時は個々に支払った時)から3年
被害者請求損害および加害者を知ったとき(事故発生の時)から3年
仮渡金の請求事故発生の時から3年
政府の保障事業への請求事故発生の時から3年

ちなみに、ひき逃げや無保険事故など、自賠責保険ではカバーできないケースについては、国土交通省が救済してくれる政府保障事業というものがあります。自賠責と同じく「被害者保護」の観点から設けられている制度で、法定限度額の範囲内ではありますが、被った損害をてん補してくれます(政府保障事業については別の記事で詳しく解説します)。

自賠責保険の保険金額はどのくらい?

保険金額は、被害者1名あたりのものであり、1事故あたりの限度額はありません。また、保険期間中に何回事故を起こしても保険金額は減額されません。

傷害による損害120万円
後遺障害による損害(1)神経系統・精神・胸腹部臓器にいちじるしい障害を残し、常時介護が必要な場合は4,000万円、随時介護が必要な場合は3,000万円
(2)上記(1)以外の後遺障害について、後遺障害の程度に応じた等級によって75万円~3,000万円
死亡による損害3,000万円

自賠責保険の保険料一覧

自賠責保険の保険料は、自動車の「用途車種」「保険期間」そして「地域」によって決められています。用途車種とは、「自家用か事業用か」、車種とは「普通乗用車か小型車か」などですね。地域は、「本土」「本土離島」「沖縄(本島)」「沖縄離島」の4種類に分かれています。

ここでは参考までに、2017(平成29)年度の保険料を一部抜粋して掲載します。詳細は各保険会社や国土交通省のHPをご覧ください。

本土

37か月契約36か月契約25か月契約24か月契約13か月契約12か月契約
自家用車自動車
3万6,780円3万5,950円2万6,680円2万5,830円1万6,380円1万5,520円
小型貨物自動車 – 営業用
4万4,760円4万3,220円2万5,870円2万4,290円
小型貨物自動車 – 自家用
3万,460円2万9,470円1万8,360円1万7,350円
軽自動車(検査対象車)
3万5,610円3万4,820円2万5,880円2万5,070円1万5,960円1万5,130円
小型二輪自動車
1万4,950円1万4,690円1万1,780円1万1,520円8,560円8,290円
原動機付自転車
1万2,340円9,950円7,500円

本土離島

37か月契約36か月契約25か月契約24か月契約13か月契約12か月契約
自家用車自動車
1万730円1万580円8,910円8,750円7,050円6,890円
小型貨物自動車 – 営業用
1万1,950円1万1,680円8,640円8,370円
小型貨物自動車 – 自家用
1万1,950円1万1,680円8,640円8,370円
軽自動車(検査対象車)
9,490円9,370円8,060円7,940円6,660円6,480円
小型二輪自動車
8,060円7,980円7,080円7,000円6,090円6,010円
原動機付自転車
5,410円5,280円5,150円

沖縄(本島)

37か月契約36か月契約25か月契約24か月契約13か月契約12か月契約
自家用車自動車
1万6,510円1万6,210円1万2,850円1万2,540円9,120円8,810円
小型貨物自動車 – 営業用
1万4,670円1万4,920円10,070円9,690円
小型貨物自動車 – 自家用
1万4,670円1万4,920円1万70円9,690円
軽自動車(検査対象車)
1万6,510円1万6,210円1万2,850円1万2,540円9,120円8,810円
小型二輪自動車
5,470円5,460円1万1,780円1万1,520円8,560円5,150円
原動機付自転車
5,410円5,280円5,150円

沖縄離島

37か月契約36か月契約25か月契約24か月契約13か月契約12か月契約
自家用車自動車
1万730円1万580円8,910円8,750円7,050円6,890円
小型貨物自動車 – 営業用
1万1,920円1万1,650円8,630円8,350円
小型貨物自動車 – 自家用
1万1,920円1万1,650円8,630円8,350円
軽自動車(検査対象車)
6,610円6,570円6,100円6,060円5,570円5,530円
小型二輪自動車
5,470円5,460円5,320円5,310円5,160円5,150円
原動機付自転車
5,410円5,280円5,150円

どんな損害に支払われる? 損害の範囲

自賠責保険は他人を死傷させたときに支払われるものですが、具体的にはどのような損害を負わせたときに利用できるのか、その種類を表にまとめました。

傷害による損害治療関係費・文書料・休業損害・慰謝料
後遺障害による損害逸失利益・慰謝料
死亡による損害葬儀費・逸失利益・慰謝料
死亡に至るまでの傷害による損害、後遺障害が確定するまでの傷害による損害・傷害による損害と同様の内容が支払われます

被保険者に重大な過失がある場合は、損害額が減額します。

傷害による損害・死亡に至るまでの傷害による損害の場合損害額または保険金額のいずれか低い額から20%の減額
死亡による損害・後遺障害による損害の場合損害額または保険金額のいずれか低い額から20%、30%、50%の減額
被害者の受けた傷と死亡などの因果関係の有無の判断が難しい場合損害額または保険金額のいずれか低い額から50%の減額

自賠責保険の注意点

自賠責保険はあくまでも「基本的な」対人賠償の確保を目的に加入するものです。当然、被害者に支払う賠償金は自賠責保険だけでは足りないケースも出てくるでしょう。また対物賠償に関しては補償対象外となるため、相手の車や自分の車、壊してしまった壁などの補償には保険金が支払われません。

そうした事態に備えるために、任意加入の自動車保険で準備をしておく必要があります。

全体を通して

交通事故は想定外の損害を負ったり与えたりするものであり、自賠責保険はその損害をカバーする基本の保険です。いざという事態になって慌てて調べるのではなく、基本的な機能や役割については頭に入れておいたほうがいいでしょう。

また、交通事故によるリスクは損害賠償責任だけではありません。想定されるリスクをしっかりと把握し、万全な準備を心がけたいですね。

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