海外旅行保険は必要?トラブルの確率とリスクから考える

保険のいる・いらないは、想定しているトラブルが起こる確率と、起こったときのリスクの高さで決めればいいと思います。海外旅行保険でいえば、事故に遭う人の割合や、病気で病院にかかったときの医療費の相場が決め手になるでしょう。

外務省や損害保険会社が出しているデータから、海外旅行保険の必要性を考えてみます。

目次

海外でトラブルに遭う確率は?

外務省がまとめた『海外邦人援護統計』によれば、2014年の海外渡航者数は1,690万3,388人で、そのうち何らかのトラブルに巻き込まれた人の数は2万724人でした。

2013年・2014年における援護件数・人数

2013年2014年
総件数1万7,796件1万8,123件
総人数1万9,746人2万724人
海外渡航者数1,747万2,748人1,690万3,388人
主な内訳
強盗・窃盗・詐欺5,091件1,796件
遺失・拾得物3,338件3,323件
その他総件数9,367件1万4件
死亡者数601人522人
負傷者数420人396人
※2014年海外邦人援護統計を当サイトにて編集

約1,700万人のうちの2万人ということで、海外旅行中の事故発生率は「極めて低い」と言いたいところですが、この統計はあくまで「日本の在外公館および財団法人交流協会が援護にかかわった数」であり、認知していない事故も多そうです。

そこで、ジェイアイ傷害火災保険が公表している2015年度の『海外旅行保険事故データ』を見ると、事故発生率は3.60%(保険金支払件数/海外旅行保険契約者数)であり、28人に1人が保険金を請求しているとありました。

全体の3~4%ですから、やはり海外旅行中の事故発生率は低いようです。しかし、「28人に1人」というのは、夫婦なら14組に1組が何らかのトラブルに遭った計算になり、高いようにも感じます。

どんなトラブルに遭う?

どんなトラブルに遭っている人が多いのか? ジェイアイ傷害火災保険の「2015年度実績」では、事故件数が最も多い補償項目は「治療・救援費用」で、全体の49.0%を占めています。次いで多いのが「携行品損害」で32.5%、3番目に「旅行事故緊急費用」(13.9%)と続きます。

項目割合
治療・救援者費用49.0%
携行品損害32.5%
旅行事故緊急費用13.9%
個人賠償責任2.6%
旅行中断・キャンセル1.2%
その他0.8%
出典:ジェイアイ傷害火災保険

同じく海外旅行保険を取り扱っているエイチ・エス損害保険の調べでも、1位は「治療・救援者費用」で69.5%、2位は「携行品損害」(22.8%)。AIU保険の調査結果も同様の内容でした。他のリスクは数%の確率でしか起きておらず、どの補償を手厚くすべきかがよく分かるデータだと思います。

興味深いのは地域性の違いジェイアイ傷害火災保険によれば、アジア・オセアニアは「治療・救援費用」が、ヨーロッパ・アフリカは「携行品損害」が、グアム・サイパンは「旅行事故緊急費用」のトラブルが多いという集計が出ています。アジアは地域により衛生環境が良好とはいえないことや、気候の違いなどから体調を崩す方が多いようです。ヨーロッパ・アフリカは、移動や乗り換えが多いためスーツケースの破損が多いようです。

出典:ジェイアイ傷害火災保険

トラブルに遭ったらそんなに大変なの?

では、トラブルに巻き込まれたとして、どれくらいお金がかかるものなのでしょうか? 最も注意すべきは身体にかかわるトラブルということで、エイチ・エス損害保険のデータをもとに「治療費・救援者費用」の請求実績を調べてみました。

都市事故状況(要約)保険金額
中国盲腸で手術、7日間入院。日本から家族が救援者として駆けつけた。
治療費用・救援者費用のほか、帰国費用が発生。
約200万円
韓国脳内出血で集中治療室へ搬送、3週間の入院。日本から親族が救援者として駆けつけた。
容態が安定後、医師・看護師の付き添いのもとビジネスクラス・ストレッチャーにて帰国。その後日本にて入院。
現地での治療費用・入院費用・帰国費用・帰国後の治療費用・救援者費用が発生。
約655万円
台湾サーフィン中、他人のサーフボードが頭にぶつかり負傷。
治療費用・帰国後の治療費用が発生。
約2万円
ベトナム階段を踏み外し落下、手首を骨折し現地で手術。
治療費用・入院費用・帰国費用等が発生。
約128万円
フィリピンシュノーケリング中に毒をもったサンゴに接触し、炎症。現地の病院で簡易的な応急処置を受けた。帰国後に入院。約11万5,000円
トルコカッパドキアの岩場で足を滑らせ転倒し、負傷。約5万円
タイ強盗に襲われ、負傷。約123万5,000円
シンガポール・マレーシア足首の捻挫で現地病院で受診。約21万5,000円
シンガポール気胸( 肺に穴が開き、肺から空気が漏れてしまう病気)と診断され入院。日本から親族が駆けつけた。1ヵ月の療養後に帰国。
治療費用・入院費用・帰国費用・救援者費用が発生。
約280万円
カンボジアシェムリアップ観光中に遺跡から落下。脊髄損傷の疑いでバンコクの病院へ搬送された。
治療費用・搬送費用が発生。
約1,075万円
インドネシアバナナボートに乗船中に事故。肘から肩にかけて骨折・入院。約125万円
インド細菌性赤痢と脱水症状で3日間入院。約10万円

全55件の保険金額
平均値:約109万6,400円
中央値:約11万5,000円

都市事故状況(要約)保険金額
ハワイウォータースライダーで負傷し、現地で受診。約30万円
グアムソファから派手に落ち、骨折。
現地での治療費用・帰国後の治療費用が発生。
約20万円
サイパン虫に刺されて足が腫れ受診。約8万円

全25件の保険金額
平均値:約82万3,200万円
中央値:約18万円

都市事故状況(要約)保険金額
オーストラリア腕を骨折し受診。帰国後180日間通院した。約20万円
ニュージーランド発熱、咳、鼻水の症状で現地の外来に受診。約5万円

全9件の保険金額
平均値:約8万7,000円
中央値:約5万円

都市事故状況(要約)保険金額
アメリカ脊椎管狭窄症により歩行困難となり入院、帰国した。
治療費用・装具等・帰国費用が発生。
約2,100万円
カナダ膀胱炎のため受診。約10万円

全8件の保険金額
平均値:739万8,000円
中央値:35万円

都市事故状況(要約)保険金額
ジャマイカホテルにて転倒。顎を骨折、歯も損傷を受け入院。
治療費用、帰国費用が発生。
約150万円
メキシコ腰痛、吐き気、下痢で現地ホテルにて往診。約10万5,000円
ボリビア高山病のため、現地の病院で受診。
病院までの交通費・治療費用が発生
約15万円
ペルーナスカを観光中に、転んで顔をぶつけて怪我。約6000円
ブラジルアレルギー性じんましんで現地の外来を受診。
帰国後も治療が継続した。
約3万円
キューバ現地で食中毒になり、救急車で搬送、受診。約2万4,000円

全16件の保険金額
平均値:約13万5,000円
中央値:2万500円

都市事故状況(要約)保険金額
イギリスホテルの2段ベッドから転落し、腕を骨折。ストレッチャーにて看護師2名の付き添いのもと帰国。
日本にて手術・入院。
移送費用、帰国後の治療費用が発生。限度額。
約1,000万円
イタリア急性心筋梗塞により、救急車で病院へ搬送。同行していた家族が付き添い1週間の入院。
医師の指示のもと、ビジネスクラスで帰国。
治療費用・入院費用・帰国費用・帰国後の治療費用・救援者費用が発生。
約700万円
ドイツ突然の意識不明で入院。けいれん発作と診断されたため帰国。
治療費用・帰国費用が発生。
約420万円
フランス転倒で手首を骨折、現地の外来を受診。帰国後も通院した。
治療費用・帰国費用が発生。
約65万円
ギリシャ転倒しそうになり膝をひねる。痛みがあったため現地の外来にて受診。約29万5,000円
ロシア歩行困難の原因が半月板断裂と診断され入院。
治療費用・入院費用・帰国費用が発生。
約100万円
スペイン発熱で現地の外来を受診。約10万円
オーストラリア嘔吐、下痢で現地の外来を受診。約10万円
スイス足首の捻挫で受診。約11万円
オランダ車にはねられて病院へ搬送。日本から親族が救援者として現地へ駆けつけた。
手術後、1ヵ月間集中治療室に入院。容態回復後、医師と看護師付き添いのもと日本へ帰国。継続して入院。
現地での治療費用・入院費用・帰国費用・帰国後の治療費用・救援者費用が発生。
約2,000万円

全29件の保険金額
平均値:約177万1,000円
中央値:約9万3,500円

都市事故状況(要約)保険金額
ケニアホテルで転倒、頭部打撲と切傷を負う。医療設備の問題からナイロビへ搬送され入院。
搬送費用のほか通訳雇入費用も発生
約50万円
エジプト帰国後、エコノミークラス症候群と診断された約3万円
マダガスカルアメーバ赤痢と診断され、滞在中に複数回受診。日本に帰国後も治療を継続。約5万7,000円
その他アフリカ発熱で現地の外来を受診。感染性の胃腸炎と診断された約1万5,000円

全6件の保険金額
平均値:約11万3,000円
中央値:約4万3,500円
 

エイチ・エス損害保険・2016年9月時点より要約して引用

日本でも同じように、結局はどんな怪我、病気をするかによって負担が違いますね。海外だからといって無条件にウン百万というわけではないようです。しかし健康保険による割引が使えないぶん、症状によっては数千万円クラスの治療費がかかることは、よく頭に入れておきたい点。医療費そのものはもちろん、移送費に勘定される救護ヘリやチャーター機などは極めて高額になる傾向があります。

同じ要領で携行品損害の保険金額について調べてみたところ、こちらは3~4万、多くて10万円~数十万円程度であり、保険がないとどうにもならないリスクとは言えないでしょう。旅行事故緊急費用も同様です。

300万円を超える請求の5割は高齢者?

ジェイアイ傷害火災保険の調べでは、300万円を超える高額医療費用事故の56%がシニア層(65歳以上)だそうです。体力や抵抗力、回復力が衰えるためでしょう。軽い転倒などでも骨折につながったり、治療が長期化したりするケースがあるようです。

このデータは契約の際の年齢制限に反映されていて、インターネットからの申込では「70歳未満まで」と区切られていることが多いのをご存知でしょうか。病院にかかりやすい、もともと持病を持っているなどのせいで海外旅行保険への加入が難しいシニア世代ですが、高齢の方にこそ海外旅行保険は必要です。インターネットからは無理でも、店頭からでなら加入できる保険もあるので、諦めずに探してみてください。ただし、リスクの高い(保険金を支払う可能性が高い)契約者として、通常よりもグレードの低いプランにしか入れないこともあります。

全体を通して

  • 海外旅行中にトラブルに遭う可能性は低いが、「28人に1人」は油断できる数字ではない。
  • トラブルのほとんどは、身体にかかわる事故か、スマートフォンやカメラなど身の回り品の盗難・破損。かなり差があって、航空機の遅延・欠航、手荷物の不着など。
  • 海外で治療を受けても少額で済む場合もあるが、300万円以上かかる場合もある。
  • 300万円越えの高額医療事故に遭いやすいのはシニア層(65歳以上)

海外旅行中に大怪我や大病にかかる可能性は低いでしょう。しかし、都市の医療事情によってはちょっとした受診でも多額の治療費を請求される恐れがあり、日本との違いがありすぎます。冒頭で述べた、トラブルに対するリスクの高さに対する答えは、「高い」ではないでしょうか。

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