地震保険が必要なのはどんな世帯? マイホーム、賃貸、ローン残高などから考える

東日本大震災を機に、地震保険への注目が一気に高まりました。地震大国である日本に生活拠点を置く限り、地震に対する備えはあるに越したことはないでしょう。

しかし、2012年末の損害保険料率算出機構によれば、地震保険の世帯加入率は約3割弱で、実に7割強の人が「保険での対策」を特にしていないことがわかります。もちろん、マイホームか賃貸かで事情は異なるでしょうし、保険ではなく、地震共済で備えている人もいるでしょう。保険料がネックで入れない世帯も多いかもしれません。

実際のところ、地震保険の必要性はどの程度あるのでしょうか。災害に遭ったときの経済的ダメージを具体的に想定し、考えてみたいと思います。

目次

地震保険の基礎知識をおさらい

地震保険の必要性を考える前に、地震保険の仕組みについて簡単におさらいしておきます。重要なのは次の2点です。

1.地震保険は火災保険のセット商品である

地震保険は単体で入ることができず、必ず損保会社が販売する火災保険とセットで加入しなければなりません。理由は販売コストの削減です。

地震保険は政府が後ろ盾となって運営する公共性の高い商品であり、販売しても保険会社の売上はほとんどありません。各社とも法律によって定められた保険料だけを請求でき、わずかな必要経費を除いては、すべて万一のための『責任準備金』として積み立てる義務があります。

このような背景から、地震保険の内容や保険料はどの保険会社でも同じで、ビジネス上の利益を生みにくいため、販売するのに余計なコストをかけるわけにはいかないという事情があります。そこで、一般的な普及率が高く、補償の対象範囲(建物・家財)が重なる火災保険とセットで販売しているというわけです。

火災保険の付帯保険という性質上、加入の仕方も建物と家財に分けて入る必要があり、その場合の保険金額は火災保険の30%~50%。2,000万円の契約なら最大で1,000万円が地震保険の補償額になります。ただし建物は5,000万円まで、家財は1,000万円までという上限が設けられています。

地震保険の制限

対象補償金額補償対象外
居住用建物火災保険金額の30%~50%、かつ5,000万円まで住居として利用できないもの(工場・事務所専用の建物等)
生活用家財火災保険金額の30%~50%、かつ1,000万円まで1個または1組の価額が30万円を超える貴金属、骨董品、通貨、有価証券、預貯金証書、切手、印紙、自動車等

2.支払いレベルは3段階

地震被害を受けたら誰でも保険金を受け取れるわけではありません。損害に応じて、「全損」「半損」「一部損」の3つに区分されています。 詳細は下の図にまとめましたが、簡単に、全損なら100%、半損なら50%、一部損なら5%補償されると覚えておいてください。一部損と半損の差が激しいですが、基本的に大損害を受けた人を救うのが目的なため仕方ありません。

保険金の上限損害区分詳細条件
火災保険金額の 30~50%
建物5,000万円、
家財1,000万円
全損(100%)【建物】
・建築時価の50%以上の損害
・建物の延床面積の70%以上の損害
【家財】
家財時価の80%以上の損害
半損(50%)【建物】
・建築時価の20%以上50%未満の損害
・建物の延床面積の20%以上70%未満の損害
【家財】
家財時価の30%以上80%未満の損害
一部損(5%)【建物】
・建築時価の3%以上20%未満の損害
・床上浸水または地盤面から45㎝を超える浸水で、
建物が全損・半損・一部損に至らない場合の損害
【家財】
家財時価の10%以上30%未満の損害

※支払い条件については、こんな時は支払われる?地震保険のもらえる・もらえないでも解説していますので参考にしてください。

2017年1月より半損区分が改定

地震保険の改定により、2017年1月から半損区分が「大半損」と「少半損」の2つ分かれることが決定しました。これにより、区分間の格差縮小や、損害実態に見合った保険金の支払いが可能になると言われています。

損害区分詳細条件
大半損(60%)【建物】
・建築時価の40%以上50%未満の損害
・建物の延床面積の50%以上70%未満の損害
【家財】
家財時価の60%以上80%未満の損害
小半損(30%)【建物】
・建築時価の20%以上40%未満の損害
・建物の延床面積の20%以上50%未満の損害
【家財】
家財時価の30%以上60%未満の損害

地震保険は必要? 2,000万円・4人家族のマイホームが全壊したら…

基本知識を抑えたところで、4人家族・時価2,000万円の住宅(一戸建て)が地震で崩壊した際のダメージを一例に、地震保険の必要性について考えてみましょう。

実は、地震保険に入っていなくても、国が運営している『被災者生活再建支援制度』から支援金を受け取ることができます。地震などで自宅が居住不可能な程のダメージを受けたときにもらえるお金で、当面の生活費として最大で300万円が支給されます。損害分をカバーするには不足すぎる金額ですが、再建ではなく生活支援を目的とした制度なので仕方ありません(詳細は地震で被害を受けたら申請しておきたい公的支援制度一覧をご覧ください)。これで経済的ダメージは1,700万円になります。

地震保険に加入していれば、『火災保険の契約金30%~50%=地震保険の保険金』になるので、600万円~1,000万円を受け取ることができますね。 公的費用と足すと経済的ダメージは700万円。実に1,000万円もの差が生じます。

・地震保険未加入(被災者生活再建支援制度のみ)

2,000万円-300万円=1,700万円のダメージ

・地震保険加入者

2,000万円-300万円-1,000万円=700万円のダメージ

ローン残高が多い人は必要性高し

以上から明らかなように、地震対策に無防備な場合、最大で1,700万円の経済的ダメージを負うことになります。新築など、ローンの返済が何十年も残っている人は、新しい住まいの家賃を払いながらローンも返済していく二重の出費に苦しむことになります。地震保険に入っていても例のように全額補償されるとは限りませんが、それでもかなりの助けになるのは間違いないでしょう。

持ち家のローン残高が多い人、貯蓄が心もとない人、親族の家など転居先の確保が難しい人には、地震保険の必要性は高いといえます。

同条件で分譲マンションに住んでいる場合

分譲マンションを購入している場合、一戸建てとは多少事情が変わってきます。

マンションでの地震保険は、ロビーやエントランスなどの「共有部分」と、自分が住んでいるスペースを指す「専有部分」とに分かれています。共有部分は管理組合で加入しているのが通常ですので(もちろん例外もあります)、各世帯で加入を考えるなら専有部分に入るかどうかの選択になります。

この場合の必要性ですが、筆者は「入っておいた方が無難」と考えます。なぜなら、共有部分に損害があり、専有部分にはなくとも、主要構造部である共有部分が全体の3%以上の損害を受けると、それに応じて保険金が支払われる仕組みになっているからです。

逆に、共有部分は無事だったけれども、専有部分に損害が生じた場合、その査定は専有部分ごとに個別で査定されます。加入していなければもちろん0円ですね。つまり、専有部分の地震保険を付帯することで、共有部分・専有部分どちらに損害が生じても保険金を受け取れる可能性が拡がるということです。

地震災害で怖いのは家を失うこと、または住めなくなる状態が長く続くことです。居住不可能な状態に陥ったとき、専有部分に加入していなければ、再び住める状態になるまでの間は公的援助と貯蓄のみで凌ぐことになります。個々の事情だけでは事が進まない共同住宅なだけに、万一に対する経済的備えは一戸建て以上に大切かもしれません。

以上から、支払いの基準や仕組みが少し異なるとはいえ、分譲マンションでも一戸建てでも基本的には同じ。ローン残債がない人や、貯蓄が十分な人など以外は、建物・家財の両方に入っておいた方がいいでしょう。

賃貸住まいに家財保険は必要か?

賃貸物件の場合、契約時に火災保険も一緒に契約するパターンが一般的です。問題はそこに地震保険を付帯するかどうかですが、賃貸ですから建物の権利は所有していないので、補償対象は家財になります。

このケースでも、結局は「貯蓄がどれくらいあるか」「転居先は容易に確保できるか」などが焦点になります。建物ほどの大ダメージは負わないものの、家財のすべてを失うとなればそれなりの負担は背負うことになります。

貯金ですぐにでも新生活を再開できる人には不要でしょうが、そうでない場合は万一に備えて付帯しておいた方がいいでしょう。ただし、基礎知識の表でもふれたとおり、1個または1組30万円を超える贅沢品や、現金、有価証券の類は保証対象外のため、本当に失っては困るものはしかるべき場所に預けるなどしてください。

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