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火事が他人の家に燃え移ったときの損害を補償する「類焼損害補償」は必要か?

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火災保険の補償を眺めていると、「類焼損害補償」という特約がある場合があります。この補償は何のためにあるのでしょうか? 必要性は高いのか、考えてみたいと思います。


類焼損害補償は、他家の火災保険の不足を補う保険

まず、これは自身の家が火元となって火事が起き、それが隣家などに燃え移って損害を与えてしまった場合、それを補償するというものです。自身が受ける損害ではなく、与えてしまった損害の補償ということですね。

ここで、「火事を出してしまっても、重過失がなければ責任は負わないんじゃなかったけ?」と思った方は、正解です。

「失火ノ責任ニ関スル法律」、いわゆる「失火責任法」に定められているとおり、重過失のある場合を除き、火事を出して他家に損害を与えても、賠償責任は負わなくてよいことになっています。それでは、賠償責任ではなくて、慰謝料やお見舞金のようなものかと思えば、それも違います。お見舞い金としては、定額でお見舞金を補償する「失火見舞費用保険金」が存在しています。

類焼損害補償の中身を詳しく見てみますと、損害を受けた他家の、建物・家財について、その再調達価額を基準に一定の上限内で補償するとあります。この内容は、他家にとってみれば火災保険そのもの。そうです、実はこれは、他家が火災保険に入っていなかった場合も、ほぼ同等に補償してあげるための保険なのです。

補償の上限は1億円程度が一般的で、建物・家財の両方が対象になります。火災保険で家財に含まれないようなもの(現金や自動車、明記物件となるような高額な美術品など)、居住用でない物件や事業用の品物は除きます。また、類焼損害ではない、煙による汚損や臭気の付着なども対象外です。

もしも、他家(類焼先)が自身で火災保険に入っていた場合、類焼の損害はその保険で補償されます。それによって損害額が全額補償されると、火元側の類焼損害補償には出番はありません。

このとき、他家(類焼先)の保険金額が十分でなく、補償が不足した場合は、その不足分について火元側の類焼損害補償で補償されます。

例を挙げると以下のようになります。

事例1 事例2 事例3
類焼先の再調達価額 3,000万円 3,000万円 3,000万円
類焼先の火災保険金額 3,000万円 2,000万円 なし(未加入)
補償の不足分 0円 1,000万円 3,000万円
火元の類焼損害補償による補償額 なし 1,000万円 3,000万円

通常、補償額は不足しないように保険に入っているはずですが、長期契約の保険を見直していなかったなどで、補償額が不足してしまうことはあります。そんな場合や、そもそも火災保険に入っていなかった場合、不足する補償が、火元の類焼損害補償で補われるわけです。

類焼の責任は負わなくてよい。重過失の場合は個人賠償責任保険でカバー

一方、失火責任法によって類焼の賠償責任は負わないという点について、「重過失」があった場合はこの限りではありません。

ならば、重過失の結果、類焼損害を与えてしまった場合に備えて、類焼損害補償があるのかというと、実は、これも少し違っています。類焼損害補償は、責任の所在は支払事由に関係しないため、重過失があった場合も補償はされます。ただ、重過失がある場合は、法的な賠償責任を負うのですから、個人賠償責任保険で補償することができるのです。

個人賠償責任保険は、火事以外のさまざまな場面での賠償責任について補償されますから、個人賠償責任保険を付帯していれば、重ねて類焼損害補償をつける意味は薄いと言えます。

類焼損害補償が役立つ場面はきわめて限定される

以上を踏まえて考えてみると、類焼損害補償は、その効果が発揮される場面がきわめて限定的だということがわかるでしょう。

整理すると以下のようになります。

類焼損害が何で補償されるのか
類焼先の火災保険が十分 類焼先の火災保険が不十分
重過失がある 個人賠償責任保険で補償される 個人賠償責任保険で補償される
重過失がない 類焼先の火災保険で補償される 類焼損害補償で補償される

類焼先の火災保険が不十分(または未加入)であり、重過失がない(法的な賠償責任が生じていない)場合に限り、類焼損害補償は意味をなします。

実際、この補償が支払われるケースは非常に少ないという話もあります。

そのような補償を、あえて付帯して保険料を支払う必要があるでしょうか?

セゾン自動車火災保険の公式サイトでは、この補償の説明として、「法律上の賠償責任がないからといって、被害にあわれた方にとっては、当然補償して欲しいと思いますし、火元となった方も今後のことを考えると補償してあげたと思うのは当然です。そこで、そのニーズに応えるべく、この特約をセットしていただきたいと思います」という開発者の声が紹介されています。

失火責任法の内容を踏まえるなら、類焼も含めた火事の被害への備えは、各自が自分で火災保険に入っておく、というのが本来的です。そのうえで、火災保険に入れなかったり、十分な補償を準備できなかった他家のために、もしものときの相互扶助的な精神から、類焼損害補償を用意しておくのはまったくの無意味ではないでしょう。

道義上ないし感情的な問題として、失火見舞費用保険だけでは不安だという場合は、付帯する価値はあるかもしれません。

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