生命保険の保険金を受け取ったとき、このお金には税金がかかります。どんな税金がどれくらいかかるかは場合によって異なります。収入保障保険は、年金形式で受け取ることになるので、税金のかかり方も少し特殊です。
収入保障保険の税金に関する情報を整理しました。
保険にかかる税金は、誰が受け取るかによって変わる
収入保障保険にかぎらず、保険金にかかる税金は、
- 保険料負担者(保険料を支払う人)
- 保険金受取人(保険金を受け取る人)
が誰なのか、被保険者(保険の対象になる人)との関係によって変わってきます。夫婦と子どもの家族で、夫婦の夫が被保険者である死亡保険(夫が亡くなると保険金が下りる)で考えると、次のようになります。
被保険者 | 保険料負担者 | 保険金受取人 | かかる税金 |
---|---|---|---|
夫 | 夫 | 妻 | 相続税 |
夫 | 妻 | 妻 | 所得税 |
夫 | 妻 | 子 | 贈与税 |
一般に、相続税は非課税枠が大きいので、パターンとしては「夫が支払い、妻が受け取る」形にしておくのが無難だとされます。
さて、この保険金と税金の関係ですが、収入保障保険の場合は少し複雑になってきます。
収入保障保険の保険金も、基本的には先に述べたとおりの形で課税されます。ですから、夫が亡くなると妻が保険金を受け取る契約を、夫が保険料を支払っている場合は、相続税ということになるのですが……実は収入保障保険では、相続税に加えて所得税も課税されるのです。
具体的には、保険金を受け取ることになった初年に、相続税が課税され、翌年以降、年金形式で受け取る保険金について所得税が課税されることになります。
もし、一時金形式で保険金を初年に全額まとめて受け取ることにした場合は相続税のみの課税となります。
相続税と所得税の両方がかかると聞くと、なんだか損をしているような気になりますが、かつて、これが二重課税にあたるのではという議論があり、現在は、課税の仕方が変更されているため、必ずしも損とは言えません。
収入保障保険にかかる相続税の計算の仕方
収入保障保険にかかる税金の計算の仕方を、実例で詳しく見ていきましょう。まずは相続税からです。
Aさん(30歳男性)が、次のような収入保障保険に入っているとします。
月額保険料:4,920円
保険金:15万円/月
保険期間:60歳まで
保険料はAさん自身が支払い、受取人は奥さんのBさんです。このAさんが40歳のときに亡くなり、保険金を受け取ることになりました。
保険期間は残り20年間です。この初年に、相続税が課税されるのですが、相続税の課税対象になるのは「一時金形式で受取った場合の保険金額」になります。Bさんは今後、毎月15万円ずつを20年間受け取るので、総額では3,600万円を受け取る見込みですが、これは年金形式の場合。
収入保障保険は一時金形式で受け取る場合、年金形式の受取総額より、受け取れる額は少なくなります。この例では仮に8割の2,880万円だとしましょう。これが課税対象額です。
保険金の受け取り方 | 受取総額 | |
---|---|---|
一時金形式 | 2,880万円 | ←この額に 贈与税が課税 |
年金形式 | 3,600万円 |
具体的に税額がいくらになるかは、受取人の所得などによっても変わってきます。その計算の前に、所得税について見ていきたいと思います。
収入保障保険にかかる所得税の計算の仕方
保険金の受け取りがはじまる1年目に相続税の課税があり、次年以降、毎月15万円ずつ、年間では180万円ずつ受け取る年金に対して所得税が課税されます。ただし、このとき、180万円全額に課税されるわけではありません。なぜならすでに相続税が課税されているため、全額に課税すると二重課税になってしまうからです。そのため、所得税が課税されるのは「相続税の課税対象にならなかったぶん」だけです。
これがいくらになるかというと、相続税の課税対象になったのは一時金形式で受取った場合の2,880万でしたので、年金形式で受け取る場合の総額3,600万円から、2,880万円を差し引いた720万円となります。
保険金の受け取り方 | 受取総額 | |
---|---|---|
一時金形式 | 2,880万円 | ←この額に贈与税が課税 |
年金形式 | 3,600万円 | |
年金-一時金の差額 | 720万円 | ←この額に所得税が課税 |
次のように考えることもできます。年間で受け取る保険金は180万円ですが、この180万円にはすでに相続税が課税された額を含んでいます。そのぶんは除いて、残った額にだけ所得税が課税されるということです。そしてその所得税対象額が20年間では総額720万円になるということです。
では具体的にいくらが課税対象なのかというと、ここが少し複雑です。20年間では総額720万円になるのですが、単純に720万円を20年間で均等に割るのではありません。保険金のうち、課税部分と非課税部分の割合が年々増えていく形で変わることになっているからです。この割合は保険の利率によって異なります。
以下は一例ですが、このようなイメージになります。
年次 | 受け取る保険金(年金) | 所得税の課税対象額 |
---|---|---|
1年目 | 180万円 | 0円 |
2年目 | 180万円 | 3.8万円 |
3年目 | 180万円 | 7.6万円 |
4年目 | 180万円 | 11.4万円 |
5年目 | 180万円 | 15.2万円 |
…… | …… | …… |
20年目 | 180万円 | 76万円 |
さらに、課税対象額からは支払った保険料の一部を必要経費として引くことができます。
今回の例では、加入後10年間、保険料が支払われています。その総額は4,920円×12
か月×10年間=59万400円。この額が、保険金総額3,600万円を得るための必要経費と考えられます。
所得税の課税対象になるのは保険金総額3,600万円ではなく、相続税の課税対象ぶんをのぞいた720万円でしたね。そこで、保険金総額に占める所得税の課税対象ぶんの割合をもとめます(720万円÷3,600万円=0.2)。支払った保険料の総額もすべてが必要経費になるのではなく、この割合ぶんだけとなります(59万400円×0.2=11万8,080円)。
この金額を、さらに、その年ごとの所得税の課税対象額が、所得税の課税対象の総額に占める割合ぶんに応じて差し引きます。たとえば5年目ですと、所得税の課税対象は15.2万円で、これが所得税の課税対象総額720万円に対して占める割合をもとめ(15.2万円÷720万円=0.02)、このぶんだけがこの年の必要経費です。
ややこしいので、まとめます。
A:一時金形式の場合の保険金総額=相続税課税対象 | 3,600万円 |
B:年金形式の場合の保険金総額 | 2,880万円 |
C:A-B=所得税課税対象(総額) | 720万円 |
D:支払った保険料総額(必要経費) | 59万400円 |
E:C÷A(Cにかかる必要経費の割合) | 0.2 |
F:D×E(Cにかかる必要経費) | 11万8,080円 |
G:5年目の所得税課税額 | 15.2万円 |
H:G÷C(Fが所得税対象総額に占める割合) | 0.02 |
I:F×H(5年目の必要経費) | 2,361円 |
結果、この例で5年目の所得税課税対象は15.2万円-2,361円=14万9,639円となります。
他の年次も計算してみましょう。
年次 | 所得税の課税対象額 | この年の必要経費額 | 最終的な課税対象額 |
---|---|---|---|
1年目 | 0円 | - | 0円 |
2年目 | 3.8万円 | 380円 | 3万7,620円 |
3年目 | 7.6万円 | 760円 | 7万5,240円 |
4年目 | 11.4万円 | 2,280円 | 11万1,720円 |
5年目 | 15.2万円 | 2,361円 | 14万9,639円 |
…… | …… | …… | …… |
20年目 | 76万円 | 8万3,600円 | 67万6,400円 |
収入保障保険の課税額は心配するほど高額でない場合が多い
実際、どのくらいの税額が課税されるのでしょうか? 実際に計算してみましょう。
相続税を計算してみる
まず、相続税ですが、基礎控除があり、
3,000万円+600万円×法定相続人の数
までは課税されません。今回の例で、法定相続人が妻子だけとすると、
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
となります。この控除額は平成27年から縮小されたもので、それ以前は、上記の例では7,000万円もの控除額がありました。残念ながらかなり控除額が少なくなってしまったのですが、それでも、このケースでは収入保障保険の相続税課税対象額3,600万円を控除額が上回っています。つまりこの例では相続税は課税されません。
もちろん、ほかに相続した資産があればそれと合わせてと課税となるため、持家などがあって相続すると、控除額を上回ってしまう場合もあるでしょう。そのため、以前は「収入保障保険について相続税の心配をする必要はほとんどない」と言われていたのが、今はそんなに安心してはいられなくなりました。
とはいえ、億単位の資産があるというのでなければ、税額もある程度限られてきます。仮に、3,000円万円の不動産があったとしましょう。保険金と合わせて6,600万円の相続があります。控除額は4,200万円ですから、2,400万円が課税対象です。
この場合、法定相続人は2人(妻と子)で、それぞれが法定相続分(2分の1ずつ)を相続するとしますと、各自1,200万円が相続額です。1,200万円に対する相続税は130万円となり(相続税の税率)、親子で260万円が支払うべき相続税となります。決して安い金額ではありませんが、相続額が1億を超えたあたりから、税率は30%を超え、最大55%にまで達しますから、それに比べれば……という感じではあります。
(ちなみに、上記の例で、子が未成年だった場合は、子のぶんの相続税の軽減措置もあります。)
所得税を計算してみる
次に所得税です。所得税については、他の所得と合わせての課税となります。
今回の例で、受取人である妻が、夫の死後も仕事をせず、保険金や遺族年金だけで生活しているとしましょう。遺族年金は非課税なので、この人は収入保障保険の年金だけが所得となります。
年金180万円のうち、所得税の課税対象になるのは先に計算したとおりで、いちばん高くなる20年目でも67万6,400円でした。
所得税の基礎控除が38万円あり、この例では寡婦控除27万円の条件にもあてはまりますので、合計65万円の控除があり、課税額は2万6,400円です。
税率は5%(所得税の税率)ですから、所得税は1,320円です。
課税対象額がいちばん高くなる年でも、この金額ですから、所得税についても、あまり心配するほどのことではないとわかるのではないでしょうか?(ほかに所得があれば所得税自体はもっと課税されることはあります。ここではあくまでも収入保障保険にかかる税金という観点で検証しました)