口コミサイトや掲示板を運営する際に、最低限知っておきたい法律知識

サイト運営をやっていると、コンテンツを充実させるために、第三者の口コミを集めたり、掲示板でユーザーに交流してもらうことでコンテンツを増やしたいと思う人もいると思います。また、コメント欄に意見を書いてもらうこともあるでしょう。

このコメントですが、普通の書き込みなら全く問題ないのですが、他人の権利を侵害する可能性のあるものだと、投稿者だけではなく、下手をしたらサイト管理者にも責任が及ぶ場合があります。

そこで、今回、口コミサイトや掲示板を運営する際に、最低限知っておきたい法律知識をQ&A形式でまとめました。(私は弁護士ではありませんが、調べた内容を知り合いの弁護士に一通りチェックしてもらってはおります。修正点等ありましたらご指摘いただけるとうれしいです)

目次

口コミ・コメント投稿者が他者の権利を侵害した際に問われる罪は?

口コミやコメントが投稿され、それが問題のある内容だっだ場合、投稿者は、「名誉毀損」「侮辱罪」「業務妨害」「プライバシー権の侵害」等の罪に問われる可能性があります。

また、サイト管理者は上記の書き込みを削除できることが技術的に可能だったにも関わらず、削除しなかったということで管理の責任を問われる可能性があります。

名誉毀損罪とは?

法が定めるところの「名誉毀損」は、不特定多数が閲覧できるような状態で、他人の社会的評価を低下させる事実を公開することにより成立します。

名誉毀損は、書き込み内容が虚偽である場合に成立するのではないかと考えられがちですが、真実であっても他人の社会的評価を低下させる内容であれば原則として名誉毀損罪が成立するという点に注意が必要です。

刑事的には、3年以下の懲役、もしくは50万以下の罰金、民事的には慰謝料請求の対象となります。

名誉毀損罪(刑法230条)

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

ただし特例として、書き込み内容が真実であり、公共の利益のためと判断された場合罪になりません(※民事も同様)

(刑法230条-2項)

(1)公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図ることになったと認める場合に、事実の真否を判断し、真実であるとの証明があったときはこれを罰しない。

ざっくり言えば、その書き込みがみんなのためになっていれば問題ないということですが、その「みんな」が指す範囲は、実は、国家または社会全体に対するものである必要はなく、ある小範囲の社会に関するものでもよいとされています。

また、その事実を公表することが公共の利益上必要な限度を超えないことを要するとされています。

例えば、飲食店において

・無許可でやっている
・食品衛生法に違反している
・産地を偽装して料理を出している
・賞味期限が切れている食材を使っている

などという違法もしくはルール違反の行為を指摘することは公共の利害に関するものといえると思います。

その店の店員の態度が悪い、店のサービスが悪いということも、その口コミを見る人にとっては有益で悪い店には行かないということで役に立っているので公共の利害に関するものと言えるかも知れません。

「一般的に飲食店は公衆を相手に商売しているので、料理やサービスに関するレビューは利害公共性があると考えられる」として、公共の利害関係に関する事実にあたるとする意見もありますが(店が投稿者を名誉毀損で訴えた事例があまりないせいか)判例として確立しているわけではありません(もちろん、個人的な嫌がらせや復讐心から書いたものである場合や、店の評価とは関係ない経営者の個人的なことを書いた場合は公共の利益には該当しません)

また、まずいとか味が落ちたというような評価は主観的な側面もありますので、公共の利害関係に関する事実にあたるか非常に微妙なケースであると思います。もっとも仮に公共の利害関係に関する事実にあたるとしても、真実性の証明ができるかという問題が残ります。

上記のような点から、サイト管理者は理由、具体性、根拠もなく特定の店舗や企業・個人を誹謗中傷しているコメントは承認しない形にするのが無難でしょう。

侮辱罪とは?

名誉毀損罪と良く似た罪に「侮辱罪」というものがあります。この侮辱罪は、(他人の能力、徳性、身分、身体の状況などについて)その人の名誉感情を害するに足りる軽蔑の表示をすることにより成立します。

事実を摘示した場合には名誉毀損になり、事実を摘示しないで名誉感情を害するに足りる軽蔑の表示をすれば侮辱罪が成立すると解されています(なお、事実の摘示の有無にかかわらず名誉感情を害するに足りる軽蔑の表示をすれば侮辱罪が成立するという説もあります)。一般的には、名誉毀損との違いは、事実を摘示しているかいないかで区別されます。

掲示板や口コミで言えば、特に理由もなく「コイツはアホ!この企業は糞!」などと罵倒しているようなものが侮辱罪です。このようなコメントも、名誉毀損の時と同様、理由・具体性がない場合は承認しない方が無難でしょう。

業務妨害罪とは?

続いて、業務妨害罪は、虚偽の情報(デマ情報)を流した際に適用されます。

刑事的には、3年以下の懲役、もしくは50万以下の罰金、民事的には損害賠償請求の対象となります。

(信用毀損及び業務妨害)

第二百三十三条  虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(威力業務妨害)
第二百三十四条  威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

プライバシーの侵害とは?

その他、個人を特定できる「住所、メールアドレス、電話番号」などを具体的に書き込むと、プライバシーの侵害にあたり不法行為責任を負うことになる可能性があります。(詳細は後述)

プライバシー侵害に刑事的な罪は原則的にありませんが、医師、弁護士、公証人等が業務上取り扱った他人の秘密を漏洩した場合には刑法の秘密漏洩罪に問われます。そのほか、国家公務員や地方公務員には、国家公務員法、地方公務員法により職務上知ることのできた秘密を漏らした場合に罰則が規定されています。

実際にはどれくらいの損害賠償請求金額になる?相場は?

名誉毀損は、実際に形のない損害に(無形のもの)対して請求するものですから、慰謝料という形での請求になります。金額は、10万~100万円程度のものが多いですが、近年高額化しているケースもあり、500万円を超える判例なども出てきています。

概要原告の請求金額実際に認められた慰謝料判決
平成24年(ネ)第771号 損害賠償請求控訴事件控訴人が,被控訴人に対し,控訴人を誹謗中傷する内容の記事(本件記事)をブログに掲載したと主張して,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案541万8000円100万円名古屋高等裁判所平成24年12月21日 判決全文
平成24年(ワ)第11119号 信用毀損行為差止等請求事件弁護士である原告が,行政書士である被告において,虚偽の記事を自己のブログに掲載して原告の営業上の利益を侵害しているとして,不正競争防止法2条1項14号,3条に基づき,記事の掲載と削除、名誉毀損の慰謝料を請求した事案744万円50万円東京地方裁判所平成24年12月06日 判決全文
平成23(ワ)4576 損害賠償請求事件被告Aが電子掲示板への投稿により,原告の信用及び名誉を毀損し,プライバシーを侵害したとして,原告が,被告Aに対し,不法行為に基づく損害賠償及び慰謝料を求めた事案1,000万円+弁護士費用100万円100万円大阪地方裁判所平成24年07月17日 判決全文
平成22(ワ)9588 損害賠償請求事件原告が,枚方市長であった期間内の平成19年7月6日に被告が発行したA新聞朝刊に掲載された記事により名誉を毀損されたことを理由に,不法行為に基づく損害賠償請求をした事案1000万円600万円大阪地方裁判所平成24年06月15日 判決全文

また、名誉毀損に加えて、虚偽の事実を記載したことにより、店舗・サービス提供者に実際の経済的損失が発生した場合、業務妨害の賠償責任が加わり金額はさらに上がります。

ただし、この場合、被害者は該当する口コミによってどれくらいの損害が発生したのか(損害額)と、書きこんだ内容と損害の因果関係を証明する必要があります。現実的には、それらの証明が難しいことが多く、実際には書き込みの削除(場合によっては、それに加えてわずかな和解金)で和解していることが多いようです。

もし、訴えられた場合、書き込んだ本人と、サイト管理者どちらの責任となるのか?

インターネット上の書き込みによって、何らかの権利が侵害されたと被害者が訴えた場合、口コミを書き込んだ者は当然対象となりますが、その他、サイト管理者、プロバイダもその書き込みを削除することが可能だったのにしなかったということで、不法行為となり共同で訴えられる可能性があります。

サイト管理者は、サイトに権利侵害だと思われる書き込みがあった場合、プロバイダ制限責任法に基づいて対応することが望ましいでしょう。

プロバイダ制限責任法とは、掲示板等の投稿で権利の侵害があった場合において、サイト管理者、プロバイダが負う損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利について定めたもので、サイト管理者は必ず頭の中に入れておかなければいけない法律です。

全文:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

長文でななおかつわかりにくい表現があるので、この文章で言いたい部分を要約すると、

1.サイト管理者、プロバイダは、書き込みによって他人の権利が侵害された場合、書き込みによって権利が侵害されていることを知っていたか、または権利が侵害されていることを知ることができたとき、その書き込みを削除すること(送信防止措置をとること)が技術的に可能であるときには賠償の責任を負う可能性がありますが、権利侵害を知らなかったかまたは知ることができなかったとき、もしくは知っていたか知ることができたがその書き込みを削除すること(送信防止措置をとること)が技術的に可能でなかった場合には責任を負いません。

2.サイト管理者、プロバイダは、書き込みを削除した(送信防止措置をとった)場合において、他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったときには、必要な限度において書き込みを削除しても、書き込みを削除された者に対して責任を負いません。

3.サイト管理者、プロバイダは、書き込みを削除した(送信防止措置をとった)場合において、権利を侵害されたと主張する者から、権利を侵害したとする情報、侵害されたとする権利、権利が侵害されたとする理由を示して書き込みの削除を求められた場合、書き込みをした者に対して権利侵害があるので書き込みを削除することに同意するかどうかを照会し、書き込みをした者が照会を受けた日から7日以内に同意しないとの申出がなかったときにも、必要な限度において書き込みを削除しても、書き込みを削除された者に対して責任を負いません。

つまり、

→サイト管理者、プロバイダは、権利侵害がなされているという考えられる相当な理由があるときには、権利を侵害されたと主張される者から削除の要求がなくても、また書き込みをした者からの削除についての同意を得なくても、書き込みを削除できる(削除しても責任を負わない)

→権利侵害がなされているという考えられる相当な理由がないときには、権利を侵害されたと主張される者から削除の要求があり、かつ書き込みをした者からの削除についての同意を得た場合に書き込みを削除できる(削除しても責任を負わない)ということになります。

投稿者から「口コミの削除には同意しない」という申し出があった時は?

削除して欲しくないという申出があった場合にも、サイト管理者、プロバイダは、権利侵害がなされているという考えられる相当な理由があるときには、(権利を侵害されたと主張される者から削除の要求がなくても、また書き込みをした者からの削除についての同意を得なくても)書き込みを削除しても責任を負わないと規定されています(3条2項一号)。

問題はその書き込みが権利を侵害しているか微妙で、書き込みをした者が削除に同意してくれないケースですが、サイトの実務上の運用としては、「口コミ(コメント)削除ガイドライン」や「利用規約」などで「こういうコメントは削除します」というページを事前に作成し、その規約・ガイドラインに同意した方のみに投稿してもらうというフローをとっておくのが無難かと思います。

発信者情報の開示とは?

書き込みにより権利を侵害された者は、権利が侵害されたことが明らかであり、かつ権利を侵害した者に対する損害賠償請求権行使のため必要がある場合には、サイト管理者、プロバイダに対して、発信者の情報の開示を求めることができます。

サイト管理者、プロバイダは、発信者の情報の開示を求められた場合には、発信者と連絡を取ることができない場合などを除いて、発信者の意見をまず聴かなければなりません。

サイト管理者、プロバイダは、開示請求を拒否しても、故意又は重大な過失がある場合でなければ、開示請求者に対して損害賠償の責任を負いません。この故意又は重大な過失がある場合とは、開示請求が要件を満たしていること(4条1項により権利侵害を受けたとする者が発信者情報の開示を請求することができる場合であること)を知っているにもかかわらず開示請求を拒否したり、知り得たのにもかかわらず重大な過失により拒否した場合と解されています

ログインをしないと投稿された口コミの内容が見られない仕様だったら、名誉毀損・業務妨害などで損害賠償請求をされるリスクはなくなる?

業務妨害罪の刑事、名誉毀損の刑事・民事が成立する要件としては、「不特定」または「多数」の人が認識しうる状態であることが求められます。同様に、業務妨害罪の民事においても業務が妨害される程度の人数の人に認識されることが必要であると考えられます。

今回のケース、会員登録をしてログインをしないと口コミの内容が見られない仕様だと、確かに閲覧できる人は少なくなる可能性はありますが不特定の人が入ってくるものに変わりはなく、それなりの人数の人が入ってくることが予想されますので、「不特定」または「多数」の人が認識しうる状態であることになります。よって、ログインしないと口コミ・掲示板が閲覧できないサイトだからといって罪に問われないということはありません。

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また、「不特定」または「多数」の人が認識しうる状態であれば、実際に「不特定」または「多数」の人が認識したか否かは要件とされませんので、実際の閲覧数に関わらず名誉毀損・業務妨害罪が適用される可能性があります。

なお、閲覧制限をかけて仲間内だけで限定して公開できる状態なら問題にはなりません。

プライバシーはどの部分まで書かれると侵害した事になるのか?

例えば、掲示板に「○○生命の東京支社にいる山田は、社内で不倫している」という情報が寄せられた場合、その書き込みは山田さんのプライバシーを侵害していると判断され、サイト管理者は削除する必要があるでしょうか?

判例においては、プライバシー権とは「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」(東京地裁1964年9月28日判決)と定義されており、プライバシー侵害の成立要件として,「人がみだりに公開されることを欲せず,それが公開されると精神的苦痛を与える性質の私生活上の事実が記述されている場合は・・・プライバシを侵害するものと解すべき」(最高裁2002年9月24日判決)とされています。

今回の場合、不倫は、社会的に不道徳なこととされ、民法上の夫婦間の貞操義務に違反し、場合によっては社内規定に違反するものであるので、単純にプライバシーだけでなく、人の社会的評価を貶める事実であるといえます。

不倫しているということが事実でなければ、プライバシーの侵害にあたらず、名誉毀損が成立するのではないかと考えられます。事実であれば、掲示板への書き込みが公共の利害に関する事実であり、もっぱら公益を図るためになされたものでない限り、プライバシーの侵害と名誉毀損が成立するものと考えられます。

プライバシー侵害の慰謝料ってどのくらいが相場?

プライバシー侵害の慰謝料ですが、現状では一人当たりの損害賠償金額は500円~多くても数万円程度の金額にとどまっていることが多いようで、名誉毀損などの慰謝料と比較したら低額です。

たとえば、住民基本台帳のデータが流出した宇治市住民基本台帳データ漏洩事件(大阪高裁平成13年12月 25日判決)において認められた慰謝料は、1件あたり1万5000円でした。

一般的に、特に信用情報、医療、介護、投薬歴、教育などのセンシティブな情報にまつわる紛争ほど、高額の賠償が命じられる可能性があるといわれています。

情報内容がセンシティブになるほど慰謝料額も上がるという事例として、エステティックのホームページ上でアンケートにより集められた個人の氏名、住所、電話番号のほか、『関心を持っているコースについての情報』が流出したエステティックホームページ個人情報流出事件(東京高裁平成19年8月28日判決)では、3万円の慰謝料が認められているケースがあります。

信用情報の流出は一般的に多数人の情報(プライバシー)が流出することが多いので、一件一件は低額でも、賠償の対象が多数になるために結果的に賠償額は高額になります。

信用情報流出で高額な賠償となった事例は以下のとおりであります。

団体・企業概要漏洩人数一人あたりの賠償額判決
1998年早稲田大学講演会参加希望者の名簿を警視庁に提出約1000人5000円(損害賠償)東京高裁平成16年3月23日
1999年宇治市住民基本台帳データが流出約22万人1万5000円(損害賠償)最高裁平成14年7月11日判決
2002年TSB顧客情報流出事件約5万人3万5000円(損害賠償)東京地裁平成19年2月8日判決
2003年ローソンカード会員の個人情報が流出約56万人500円の商品券(補償金)
2003年ファミリーマートメールマガジン購読者の個人情報が流出約18万人1000円のクオカード(補償金)
2004年ソフトバンクBBYahoo!BBの顧客情報が流出約660万人500円の商品券(補償金)
2004年ソフトバンクBBYahoo!BBの顧客情報が流出約660万人6000円(損害賠償)大阪地裁平成18年5月19日
2004年サントリー健康食品のモニターに応募した顧客情報が流出約7万5000人500円の郵便為替(補償金)

まとめ

以上、口コミサイトや掲示板を運営する際、事前に知っておいた方が良い最低限の法律知識をまとめました。口コミサイトや掲示板などの書き込みに対して、どのラインで「有益な情報」か「単なる私怨による誹謗抽象か」を線びくかは非常に難しいのが現状というところでしょうか。

サイト管理者としては、事前に投稿のガイドラインと最低限の法律知識を身につけておくことが重要かと思います。

 

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この記事を書いた人

ソクラテス編集部です。

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