先日、竹田恒泰さんという方の発言が話題になっていました。
「負けたのにヘラヘラと『楽しかった』はあり得ない」 竹田恒泰氏の五輪選手への「注文」が賛否両論
選手の試合前、試合後の言動については、オリンピックの度に話題になっている気がするのですが、今回は
『国費で派遣されてるのに、予選落ちした選手が、「楽しかった・良い思い出になりました」などの発言をするのが許せない』
というような趣旨の発言をした方がいるようです。
この発言の是非はいったん置いといて、一体オリンピックに国費ってどのくらい使われてるのでしょうか。私達が、オリンピック選手のコメントについて口を挟めるほど大きな金額が国から出ているのでしょうか。
国からJOCには毎年25億円くらい補助金が出てる
日本で、オリンピックについて取り仕切っているのは日本の国内委員会であるJOC。このJOCには、毎年、文部科学省から25億円強の補助金が出ています。
スポーツ基本法なる法律がありまして、これには、
我が国のトップレベル競技者の育成・強化を図り、スポーツ振興に寄与することを目的とする公益財団法人日本オリンピック委員会に対し、選手強化事業及び国際交流事業に必要な経費の一部を補助し、もって、我が国の国際競技力の向上に寄与する。
と定められています。その結果、25億円。
ただ、この25億円が、全て今回のソチへの派遣に使われたかっていうと、そういうわけではありません。
そもそもこの文科省の補助金は毎年出ています。ソチ五輪も含めた、JOCの活動全般への補助ということですね。東京五輪に向けた選手の育成であるとか、そういうことも含んでいます。
JOCが受け取った補助金は、その後、各スポーツ団体に分配されるような格好で、それぞれの競技の選手の育成とか、環境整備などに使われるということのようです。
この補助金以外にも、動いている国のお金はあって、「平成26年度オリンピック・パラリンピック関係予算」という資料を見つけたのですが、ここには、
・戦略的スポーツ国際貢献事業 11億4500万円
・2020ターゲットエイジ育成・強化プロジェクト 13億6900万円
・メダル獲得に向けたマルチサポート戦略事業 28億3400万円
……といった金額が並んでいます(あくまで予定額ということのようですが)。上記は一部にすぎず、これらを全部合わせると100億円を超えていますが、これらも、広い意味では「オリンピックのために使われる国費」と言えます。ですが、これは選手個人というよりは、「オリンピックというもの自体」に補助されているようなお金で、選手個人がこの補助金で、どれだけ恩恵を得ているかはわかりません。
もっと直接的に、ソチへの派遣に使われた国費はいくらかはっきりさせたいと思いました。
直接、選手団に補助されているのは約1億
それで、ソチへの選手団派遣にかかった費用なんですが、現在進行形であることもあってか、はっきりした数字は見つかりません。
ただ、そもそも、現地での滞在費、これは開催国が負担するのですからかかりません。ユニフォームや用具なども、ほとんどスポンサーが用意するようです。
そうなると、国費が使われる、つまりJOCが負担する費用というのは渡航費や、渡航前の国内の宿泊費(団結式とかいろいろあるようです)、選手村以外での滞在費や、現地で開かれるパーティーとか、選手村内に設置する代表団オフィスの経費といったものになります。
このへんのことについて、詳しく解説してくれている人がいました。
上記はトリノ五輪のときの話で、このときは9000万円ほどの国費による補助があったとのこと。JOCの収支報告によると、トリノ五輪のために支出された額は約1億3800万円でした。
JOC 平成17年度 予算総括表(トリノ五輪の派遣事業の特別会計が計上されています)
いったいどんなことに費用がかかっているのでしょうか。上記の質問サイトでの回答内容を整理すると、下のようになります。
費用 | 負担者 |
---|---|
選手村の宿泊費・食費 | 開催国 |
選手村~競技会場までの交通費 | 開催国 |
選手村以外での滞在費 500~700万円+食費など数百万円 | JOC |
「ジャパンハウス」(関係者を接待する施設)の運営費数千万円 | JOC |
渡航費 | JOC |
物資や機材の輸送費、 | JOC |
儀礼用ユニフォーム 一人あたり15万円~20万円 | スポンサーまたは自費 |
競技用ユニフォーム 競技によるがアルペン競技などで一人あたり10万円~15万円 | スポンサーまたは自費 |
このうちJOCが負担すべき金額について、国費から補助が9000万円あったということですね。9000万円、ちょっと多めに見て1億です。1億は大金ですが、都知事選の費用に50億ものお金が動いてることを考えると、言うほど莫大な金額ではないんじゃないかな?と個人的には思いました。
内訳的には交通費の負担がもっとも大きいとも述べられています。東京→モスクワ→ソチの往復でエコノミーでも1人20万円前後のようですから、選手団全体でみますと、交通費だけで5000万円ほどかかってしまう計算です(20万円×選手団の人数:248人=4960万円)。およそ1億の補助金は半分が交通費だけで消えちゃうんですね。
(※交通費はスポンサーの航空会社が便宜をはかるため、通常よりは安くなっているという説もありました。)
すこし話がズレるのですが、調べてみてもぶ太が「えっ?」と思ったのは、金額よりも、248人の日本選手団のうち、実際に競技に出場する選手は113人だけだってことです。
あとの135人はJOCの役員の人です。なんと選手より多い。
この、「選手団に占める役員の数」は年々増えているらしく、冬季大会に限るとトリノ以降、出場選手より役員が多くなる逆転状態が続いているのだとか。
(グラフはこちらの記事を参考に作成しました)
このように、実際には、補助金の全てが、選手個人に使われているわけではないようです。もちろん役員の方も、それはそれで現地でお仕事などあると思うので、「これは無駄な費用」ということを言いたいわけではありません。
ところで、役員ってなんなの?と思うわけですが、JOCのサイトなどを見てみても、いまいちはっきりとはわかりませんでした。ただ、コーチやトレーナーなど、競技に欠かせないスタッフを役員という形で連れて行っているのだということもあるようなので、全てJOCの重鎮の方というわけではないようです。それならば納得できますが。。
やる夫で学ぶ北京五輪 選手団派遣費用の総額は2億2000万円(1人アタリ40万)、渡航費だけで1億2000万円(1人アタリ往復21万)
まとめ
というわけで、調べてみてわかったのは、
・国は年間約25億、JOCに補助金を出している。
・オリンピック関係の出費を含めるともっとあるよう、約100億。
・ただし、1回の選手団派遣に直接使うお金は約1億円
・1億の国費が出されている選手団は半分以上が出場選手ではない。
ということでした。
オリンピックには多額の、国のお金が使われていることは間違いないです。
ですが、そのうちどれくらいが、本当に出場選手のために使われているのかを考えると……「国費が使われていること」をたてにとって、選手の人にプレッシャーをかけすぎるのもどうかな?と思うわけです。
直接は関係ない話なのですが、ソチにも出場するフィギュアスケートの高橋選手・町田選手が練習していた大阪のスケートリンクが、財政難に陥っていたところ、1億円を個人で寄付した人がいたそうです。匿名での寄付で、「私が誰かは詮索しないでほしい」というメッセージがあったとか。
オリンピックに選手を出すのにお金がかかるのなら、お金は出せる人が出せばいいでしょう。それが国費でも、もぶ太はべつにいいと思っています。ただ、お金を出したからといってなんでも言っていいわけじゃないのではないでしょうか。「金を出してやったんだから」と言って、逐一、口出しするよりは、大阪のスケートリンクに寄付した人のように、ただお金だけ出して、自分が出したともアピールしない人のほうがカッコイイように思えます。
それに1億円の国費と言っても、そのくらいなら、それこそ1人で寄付した人だっているくらいの額。1人で1億はなかなかの富豪ですが、そこまでいかなくても、オリンピックのためと考えれば1億くらいの寄付は集まる可能性だってあります。
それなら、選手のほうだって「国費で出してやってるからっていろいろ言われるくらいなら、国費なんかいらん!!」と言い出す人がいてもいいくらいです。
もちろん、費用の出所がどうであれ国の代表として出場しているのですから、あまりに無礼・不作法なふるまいをして、国際社会にみっともなく見えるのはよくないと個人的には思います。でも、「国費で出してやってんだから」という言い方も、あまりに過ぎればそれもまたみっともないな~と思うのでした。