長期金利の低下や2017年4月の標準利率改定の影響で、いわゆる”貯蓄型”と呼ばれる保険は大きなダメージを受けました。学資保険はその代表ともいえる商品です。それまでのような貯蓄性を維持するのが難しくなった結果、円建てではなく、米ドル建ての商品を勧める保険会社が増えています。
将来必ず必要になる教育資金を、外貨で組み立てられている保険に託してもいいのでしょうか? また、米ドル建てての保険は学資保険の代替商品となりうるのでしょうか。考えてみましょう。
学資保険の代わりに米ドル建て保険が売られ出した理由
学資保険は保険会社にとっては利益がほとんどない商品として知られています。それは代理店にとっても同じで、学資保険を売ることで得られる手数料は安く、積極的に販売するインセンティブのない商品です。2017年4月の標準利率引き下げ後も商品を残した保険会社があるのは、学資保険が「ドアノック商品」として、新規顧客の開拓には欠かせない商品でもあるからです。
要するに、学資保険をきっかけに保険の見直しを提案する、あるいは学資保険の代わりに別の商品を販売する、といった販売方法がとられてきたわけです。以前、「学資保険の相談をしたら低解約返戻金型終身保険を勧められた」という声をよく耳にしましたが、その背景にはこういう事情があったのです。
しかし、低解約返戻金型終身保険も標準利率の引き下げによって値上げや販売停止に追い込まれ、もはや学資保険代わりの商品ではなくなりました。
そこで出てきたのが、外貨建(米ドル建て)保険を学資保険の代替商品として活用するという動きです。例として、次のような米ドル建て保険が学資保険代わりに販売されています。
■ソニー生命「米ドル建て養老保険(学資プラン)」
養老保険とは、万一のときの保障と将来のための貯蓄を同時に備えましょうという保険で、これは、その満期保険金や解約返戻金を教育資金に充てるというプラン。米ドル建てですが、保険料の支払いや保険金・解約返戻金の受け取りは円建ててでも可能です(特約の付加が必要)。
保険期間は15~20年満期まで、1年単位で選べます。満期まで払い込む方法のほか、5年、10年の短期払もできます。米ドルでの前期全納も可。満期保険金は一時金で受け取れるほか、特約を付ければ年金受け取りも可能です。
※商品についての詳細は、ソニー生命の「学資保険」を徹底分析をご覧ください。
■メットライフ生命「USドル建終身保険ドルスマート」
最低3%の積立利率が保証された利率変動型終身保険です。市中金利が上がってくれば、ドルベースで最低保証額を上回ることも期待できます。執筆時現在、米ドル建て保険のなかで積立利率変動型はこの商品のみ。
また、「ドルスマート」は低解約返戻金型終身保険でもあり、10年払いなど短期で保険料を支払うと、据置(すえおき)期間が長くなり、受け取れる保険金が上がります。教育資金として使わなかった場合でも、契約を継続することで解約返戻金が増え続けます。
この他にも、外貨建て保険を学資保険代わりに販売する傾向は広がりつつあります。また、保険会社によっては変額保険を学資保険の代替商品として販売しているところもあります。たとえば、アクサ生命では「変額保険ユニット・リンク(有期型)」を学資保険の代替商品として販売しています。この商品は、ハイリターンを追求する目的で運用される「特別勘定」のもと、その運用実績に応じた満期保険金を受け取れます。
いずれにしろ、超低金利の日本よりも金利の高い通貨で運用するため、円建てより有利な運用が可能とされていますが、価格変動リスクのある商品で教育資金を準備する ということは頭に入れておきたいものです。
米ドル建て保険を学資保険代わりに利用するメリット・デメリット
国内の保険より高い運用実績を期待できる
米ドル建てて保険を学資保険の代わりに利用した場合のメリットとしては、現状の円建ての学資保険よりも有利に運用できることが挙げられます。
為替の動きによっては価格変動が起こるため、投資型の商品と考えて利用すべきですが、月払いで米ドル建て保険に入ることで、外貨投資をする時期を分散することができます。いわゆる「ドルコスト平均法」という手法で、リスクの軽減が可能です。あるいは、塩漬けとなった米ドルを多く持っている人は、それを一時払保険料に充てることもできるでしょう。
米ドルでの受け取りが可能なことから、将来、子供を留学させたいと考えている場合にも有効です。
米ドル建て保険のデメリットは?
為替変動リスクを覚悟しなければならない
まず、為替手数料がかかるのがデメリットです。円→米ドル、米ドル→円と往復で1円前後かかり、それだけ実質的に利益が減ります(手数料は保険会社で異なります)。
また、為替変動で損失が発生する可能性があることも、米ドル建て保険共通のデメリットでしょう。受取時の為替レートが円安になればいいですが、円高になれば払い込んだ保険料が目減りするリスクがあります。もっとも、円高を見越して外貨口座を作っておき、外貨のまま受け取ってタイミングを図る……などでリスクの軽減はできます。
結局のところどうなのか?
外貨建て保険にはリスクがあり、教育資金を「貯蓄」ではなく「投資」で準備する商品と理解して始めることが大事です。「学資プラン」などのように名前が付けられると、なんとなく安心して利用してしまいがちですが、為替リスクと付き合っていく覚悟が求められます。
留学などが視野に入っていて、あえて米ドル資産を増やそうとしているのであれば問題はありませんが、そうでない場合、投資商品は1/3程度までに抑えるのはいかがでしょうか。教育資金の積立が月3万円できるなら、2万円は財形貯蓄や自動積立定期、学資保険、個人向け国債等で確実に貯め、価格変動のある投資型の積立は1万円までに抑えてバランスを取るといいでしょう。
教育資金準備に使える投資型商品の例としては、2018年1月に始まる「積立NISA」や米ドル建て養老保険、米ドル建て終身保険、変額保険(有期型)などが挙げられます。米ドル建て養老保険を勧められた際には、“投資型は1/3程度まで”というルールに当てはまるかどうかで検討してみるといいと思います。特に、教育資金を300万円貯める目標なのに、300万円すべてを米ドル建て保険で貯める、というような事態は避けたいもの。くれぐれもリスク過多にならないように注意しましょう。