厚生労働省『患者調査の概況』によれば、平成29(2017)年の平均在院日数は、病院全体で30.6日、一般診療所では12.9日と、年々、短縮傾向にあります。政府による医療費抑制政策のもと、「早く退院させたほうが儲かる」という仕組みが出来上がり、病院側も経営を成り立たせるためベッドコントロールに神経を尖らせています。
そんな背景から、医療保険のトレンドは1入院60日までの短期型が主体になっていますが、だからと言って長期入院するリスクに備えなくてもいいのでしょうか? というのも、精神疾患系や神経系疾患は完治が難しいことから、入院が長引く可能性が高いからです。
病名 | 平均在院日数(全世代) |
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統合失調症、統合失調症型障害及び 妄想性障害 | 531.8日 |
血管性及び詳細不明の認知症 | 349.2日 |
アルツハイマー病 | 252.1日 |
脳血管疾患 | 78.2日 |
短期型の医療保険では対応できないこと
長期保障型の医療保険の要否は一旦置いておき、長期入院に対応できる医療保険、具体的には1入院730日型や1,095日型の保険でないと回避できないリスクについて考えてみましょう。シンプルですが、次の2つだと思います。
1.継続的にかかる医療費を支払えない
1年を越えるような長期の入院をした場合、重くのしかかるのが医療費の支払いです。たとえ「通算支払い日数1,000日」等と謳っている医療保険でも、「1入院60日」なら1回の傷病につき60日までしか保障してくれません。365日入院したとして、残りの305日の入院費はいくらに膨らむのでしょうか。
もちろん、高額療養費制度を使えば、一般的な収入の人なら1ヵ月9万円程度、4ヶ月目からは一律4万4,400円の支払いで済みますが、毎月約4万円が痛い出費であることは明白です。扶養家族がいるならなおさらでしょう。
2.収入減の補填に使えない
長期入院で最も怖いのは、働けなくなることで収入が減る、またはストップすることです。会社員であれば、傷病手当金といって、休職4日目から最大1年半まで手取り額のおよそ7割を受け取れる制度がありますが、それだけでは苦しいでしょうし、先述した表を見直すと180日以上入院する確率もあります。また、そもそも自営業者には傷病手当金という制度そのものがありません。
高額療養費制度で医療費の負担が減るとはいえ、医療保険が切れる61日目以降のマイナス分を補填できないのは厳しいです。
大負けしたくないなら長期入院に備えておくべき
保険はしばしばギャンブルに例えられますが、長期入院は大きな出費が伴う、まさに「大負け」の状態です。高額療養費制度や傷病手当金なども利用できるものの、やはり相応の痛手を負います。病状によっては、身体的・精神的な余裕のなさから特別療養室(差額ベッド)に入室しないとも限らず、その場合1日平均5~6,000円かかってしまいます。
以上から、貯蓄が少ない、公的制度だけでは不安だという人は、長期入院に対応できる医療保険を選んでいいでしょう。数は少ないですが、1年以上の入院に対応できる商品もあるにはあります。
確率論で考えると不要と切り捨てても……
長期の入院患者がいるのは確かな現実ですが、とはいえ、9割の患者は60日以内の入院で退院しています。生活保険文化センター『生活保障に関する調査(平成25年度)』内の『過去5年間に入院した人の直近の入院時の入院日数(平成25年度)』によれば、61日以上入院した人はわずか4.4%しかいませんでした。保険は、自分では対処できない経済的リスクに備えて加入するものですが、だからと言って確率の低いリスクまでカバーしていたらキリがありません。
今後ますます通院や在宅医療が加速していくなかで、割高な長期型の医療保険にどのくらい出番があるのか? 具体的な数値からその確率を追っていくと、不要だと割りきって格安の医療保険をお守り代わりに加入しておくのも悪くない気がします。