火災保険は生命保険と違い、契約している補償額がそのまま下りるわけではありません。あくまで発生した 損害額(実損額)しか受け取れない点に注意してください。
たとえば、 A社1,000万円、B社800万円、C社500万円の契約だとして、損害額が 1,000万円だった場合は、3社を合わせて1,000万円しか受け取れません。これが生命保険なら、原則、計2,300万円の保険金が下ります。
この基礎を押さえたとおろで、では実際の損害額はどのような決まりや基準で決められるのか? その仕組を見ていきましょう。
保険金が全額支払われるのは「全損」の場合だけ
保険会社は、火災などの被害程度を段階的に区分し、それに応じて支払う保険金額を決めます。全焼なら上限額まで支払われますし、半焼程度、一部の焼失であれば、それに応じた割合が支払われます。
全損をみなされる基準は、おおむね、以下の場合です。
- 焼失・流失・損壊した部分が、延べ床面積の 80%以上である場合
- 損害額が再取得するための費用の 80%以上である場合
前者は物理的な被害にもとづく基準で、完全に焼け落ちてしまえば、当然、これにあたります。「柱一本でも焼け残ったら全焼とはみなされない」といった話を耳にしたことがありますが、柱一本しか残っていないなら80%以上の焼失にあたりますから、もちろん全損扱いです。一般的に、「使い物にならなくなった」状態まで損壊すれば全損だと考えて差し支えないでしょう。
後者は、経済的な被害にもとづく基準で、経済的全損と呼ばれるものです。たとえば、火事の影響自体は半焼程度ではあるけれど、同等の建物を再築または新規で購入する費用(=「再調達価額」といいます)が、損害額の8割を越えている場合、全損として扱われます。
超過保険とは?
冒頭で述べたように、全損だと認められると保険金額は全額(=契約した補償額の上限まで)支払われます。ただし、建物の再調達価額以上に支払われることはありません。元々の建物の価値以上の金額は受け取れないということです。
本来は、契約時点で適切な補償額が設定されているはずですが、なにかの手違いで万一、再調達価額を上回る保険金が設定されていても、適用されないのです。この状態を「超過保険」といいいます。
支払ってきた保険料の一部がムダになってしまうのと同じことですから、保険料が返金されることもあります(※逆に適切な補償額よりも低く設定されている状態を「一部保険」といいます)。
適切な補償額の決め方については以下の記事を参考にしてください。
全損になると火災保険の契約はどうなる?
全損となって契約した保険金額を全額受け取ると、火災保険の契約は終了します。以後については新たに保険に入り直す必要があります。
全損でなく、受け取った保険金が一部だった場合は、契約はそのまま続行です。もちろん、 2,000万円の保険契約で 1,000万円が支払われたとしても、それ以後にまた損害があれば、 1,000万円以上の補償を受けることも可能です。全損でないかぎり、実際の受け取り金額は契約に影響ないということです。
支払われる保険金額についての注意点
そのほか、受け取れる保険金額の決定について、注意したい点があります。
1.全損時の保険金額も保険証券通りではない場合がある
長期にわたる契約の場合、建築費の変動などで、再調達価額が契約時とは異なっていたという場合があります。全損時には、保険金額が全額支払われると言いましたが、この場合の保険金額は保険証券に書かれている金額ではなく、それを上限とした、今現在の評価額(実損額)になることに注意してください。
2.補償内容によって一定額以内の損害は保険金が支払われない
契約によって、免責金額が設定されていることがあります。自動車保険などでもありますが、損害が一定以上にならないと保険金が支払われないというものです。これは補償内容によって決められており、たとえば、「風災・雹災・雪災」の補償は 20万円が免責、となっていれば、 20万円までの損害には保険金が支払われません。
3.付随する費用については損害額に含まない
経済的な損害額は、さまざまな費用を含んでいますが、火災保険の補償はあくまでも建物や家財そのものの損害を補償します。そこで、修理業者に見積もりなどを依頼して損害額を計算したつもりでいても、保険会社の算定では、「片付け費用」ぶんなどは損害額に含まれないことがあります。実際には、片付け費用などは発生することがほとんどのため、火災保険では特約で、費用の補償をする費用保険が別に用意されています。