ケアプラン自己負担案が再浮上! 有料化におけるメリット・デメリットについて

40歳以上の人が加入する公的介護保険は、要介護度に応じて受けられる介護サービスが決まっています。ですから、要介護や要支援など、自分の要介護度が判定された後は、自分が「どんな介護サービスを受けるか」「どの事業所を選ぶか」などについてケアプランを作成し、それに基づいて介護サービスの利用がスタートします。

いわば、ケアプランというのは、介護(予防)サービスの「利用計画見積書」のようなもの。現在、ケアプランの作成については、「居宅介護支援」として無料で受けられますが、それを有料化しようという議論が高まっています。

ケアプランに自己負担 介護給付抑制へ厚労省検討

介護給付費の膨張を抑えるため、厚生労働省では、介護サービス計画作成の居宅介護支援(ケアマネジメント)の1割を自己負担にする案が浮上している。2018年度の介護報酬改定に合わせて導入を目指す。対象は介護保険利用者のほぼ半数で、300万人を超える見通しとなる。

目次

居宅介護支援(ケアマネジメント)ってなに?

そもそもここに登場する「居宅介護支援(以下、ケアマネジメント)」とはどのようなものなのでしょうか?名前だけでは、ピンとこない人も多いでしょう。
ケアマネジメントは、利用者ができる限り自宅で自立した日常生活を送れるよう、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)が、利用者の心身の状況や置かれている環境に応じたケアプランを作成し、そのプランに基づいて適切なサービスが提供されるよう、事業者や関係機関との連絡・調整を行うものです。

おもな流れは、以下のようになっています。

【居宅介護支援(ケアマネジメント)の流れ】

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出典:厚生労働省「介護事業所検索/公表されている介護サービスについて」より抜粋

ケアマネジャーは‘介護の道先案内人’  

つまり、ケアプランの作成は、ケアマネジメント業務の一部に過ぎません。ケアマネジメントは介護保険の「入り口」であり、利用者が安心して介護サービスを利用できるよう支援し、個々の介護サービスの方向性を示すものです。

ですから、ここに自己負担が導入され、利用抑制がかかることを危惧する意見があるのも頷けます。実はケアプラン自体は、利用者本人(あるいは家族が代行)が作成して、自治体に提出することも可能です(自治体の担当者の知識不足から断られるケースもあるようです)。 利用者が自ら作成したケアプランのことを「自己作成ケアプラン」あるいは「セルフケアプラン」などと言いますが、一般の人は介護の知識に乏しく、手続きも煩雑なため、ケアプランの作成はケアマネが行うケースがほとんどです。

また、利用者や家族の意向、状況に合わせて介護サービス事業者を紹介したり、あわせて医療関係者などと日々煩雑な調整・交渉したりするのもケアマネの役割です。
ケアマネは、いわば介護の道先案内人ともいうべき存在。介護サービスを受けるにあたって、地域のどこでどのようなサービスは受けられるのか熟知した介護の専門家であり、頼もしいパートナーとなります。
そのため、ケアマネジメントに自己負担が導入された場合、ケアマネが使われず、過不足のない適切なサービスの提供・利用が遠のくことも問題視されているわけです。

ケアプラン有料化に対するさまざまな見解

ケアプラン有料化については、2011年度の介護保険法改正時にも、介護保険部会(社会保障審議会)で、見直し案として挙がっていた項目の1つです(居宅介護支援への利用者負担導入(ケアプラン月1,000円、予防プラン月500円の定額徴収など)。  
しかし、有識者委員などから慎重論を唱える意見が相次ぎ、見送られてきたという経緯があります。  

この際の意見としては、前述したようなものも含め、次のような点を指摘する声が挙がっています。

  • ケアマネによるケアプランの作成は介護保険の根幹であり、自己負担の導入は制度の基本を揺るがしかねない。
  • 「費用を負担しているのだから言うとおりのプランを作ってくれ」という話が増えていくのではないか。
  • 低所得者ほど専門職によるケアマネジメントが必要であり、自己負担を導入するとその機会が奪われる。
  • セルフケアプランやサービス事業者によるケアプラン代行業務が多くなり、自立支援の原則とは異なる生活を楽にするサービスの利用に流れ、いたずらに費用が増大してしまう。

その一方で、自己負担を導入した場合の賛成派の意見としては、次のようなものがあります。

  •  応益負担という観点でいうと自己負担の導入はやむを得ない面がある。
  • 利用者がケアプランの内容に対する関心を高め、自立支援型のケアマネジメントが推進される。
  • ケアマネがより慎重に選ばれていき、それぞれが質を競い合うようになりプラスの効果が生まれる。

目先の利益にとらわれず、本当に必要な介護サービスを見極めることが重要

個人的には、いずれの意見もごもっともな印象を受けます。また簡単に結論づけられる問題ではないでしょう。
ただ、現実的に、介護給付費だけでなく、膨張し続ける国民医療費を考慮すると、個々に自己負担を求める方向性は変わらず、たとえ2018年の改正時に見送られたとしても、再び議論に上る可能性は高いといえます。

居宅介護支援(ケアマネジメント)にかかる費用は、1人当たり平均で月1万3,800円。1割の自己負担だと1,300円程度となり、これを「セルフプラン」にすると、年間では15,600円節約できる計算です。 ただし、その場合、ケアプランの作成はもちろん、毎月、各サービス事業者の実績を集計して、最寄りの介護保険課へ提出するなど煩雑な業務が生じます。

自己負担が導入されることが、介護給付費の抑制にきちんとつながるかという問題はさておき、もし、実現された場合、介護費用の節約を考えるのであれば、単に目先の利益にとらわれるのではなく、利用者自身の生活スタイルにあった介護サービスを考えることで、本当に必要な介護サービスに限定でき、それが結果として介護保険の節約につながると思います。

専門家でも難解で複雑な介護保険のしくみですが、利用者自身やそのご家族が、介護保険について正しい知識と情報を持つことは、これから益々重要になってくるでしょう。

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この記事を書いた人

大学卒業後、大手シンクタンク勤務を経て、FP資格を取得。1998年FPとして独立。CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター。消費生活専門相談員資格など。新聞、雑誌、書籍などの執筆、講演のほか、個人向けコンサルティングなどを幅広く行う。「夢をカタチに」がモットー。著書に「50代からのお金の本」(プレジデント社)。

黒田尚子FPオフィス

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