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老後資金の積み立てに個人年金保険は向いている?

現在30代の男ですが、老後の貯蓄として個人年金保険を検討しています。
個人年金保険は老後の積み立て手段としておすすめでしょうか?

また、民間の個人年金保険以外で、老後の積み立て手段として適しているものがあれば教えてください。(35歳 男性)

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終身年金型の個人年金保険は老後資金の1つとして有力な選択肢

CFPR、1級ファイナンシャル・プランニング技能士 価値生活研究室 代表 井上信一

結論から言えば、個人年金保険は老後資金準備に適した商品だと思われます。
ですが、オンリーワンの手段ではなく、あくまでもワンオブゼムだと考えます。

―――どんな資金計画についてもいえることですが、“商品ありき”で考えると本質を見失います
そうではなく、“必要な背景”から入っていくと、大切な点をシンプルに整理することができるものです。そこで、まず個人年金保険の商品性は置いておき、“老後のお金”から考えてみましょう。

一般的な“老後資金の考え方”とは?

仮に、老後生活費として月25万円必要で、公的年金を月15万円受け取れるとします。
すると月10万円足りないことになります。1年間の不足額は120万円、老後を65歳から90歳までの25年間とすると、ざっと3,000万円の準備が必要と計算できます。

他に、介護費や住宅の補修費、旅行や予備費などを見積もり、「さあ、どうしようか?」と、展開していくのが、“よくある”老後資金計画のセオリーです。

ですが、このプロセスはある程度の目安にはなりますが、実はいろいろな意味でのナンセンスな要素をはらんでいるのです。

老後ってそもそも"いつからいつまで"?

定期的な給与収入がなくなってからを老後と捉えるなら、その時期は自分自身で決めることも可能です。例えば、会社員の方が退職後に起業して生涯現役を目指すなら、老後という期間が始まるのはずっと先のことでしょう。

ですが、心身の都合で働きたくても働けなくなる時期がいつ訪れるのかは予想できません。

ましてや、老後がいつまで続くのかを考えるのは、ある意味、哲学の世界の話です。
先ほどの計算ですと、天寿が5年早くやってくるとお金は600万円浮きますが、逆に、5年長く、結果として95歳まで長生きすると、600万円も予定より不足してしまいます。

当たり前のことですが、老後期間とは天寿を全うするまでなのですから、終わってみなければわからないのです。

老後に"本当はいくら必要"?

一般的に、高齢になるにつれ生活空間が次第に狭まっていくと、使うお金の額も年々減っていくものです。

逆に、医療や介護の出費が嵩み、もっとお金が必要になるかもしれません。
将来の物価の変動によってはお金の価値がガラリと変わっているかもしれません。
公的年金制度の改定により年金収入が増減することも十分にあり得るでしょう。
そういった内的・外的変化が、これから先に刻々とやってくるはずです。

実際はその時々で変化を受け入れながら暮らしていくしかないのですが、今の時点で、はるか先までを見越して資金を備えるのは中々難しいと言わざるを得ません。

老後に"まとまったお金"は必要?

場合によっては、まとまったお金が必要な時もあるかもしれませんが、老後に必要なお金の大半は、公的年金だけでは足りない日常的な生活を補うためのものになるはずです。
ですから、いつまでに必要というわけではありません。
逆に、ある程度の預金を準備できたとしても、それを取り崩しながら生活していくということは、常に“枯らす”不安との葛藤になります。

「これだけあれば充分だ」という尺度はないのです。

現在、高額な金融資産保有者の大半は高齢者ですが、その方々が財産をガッチリ握って中々お金を使えないのも、こういった心情からくるのでしょう。
ですが、お金はあの世には持っていけません。
結果的にたくさんのお金を残してしまうかもしれないのに、日々、不安に駆られるのは割に合わないものです。

不透明要素を挙げることで老後資金の準備に必要な条件がわかってくる

さて、ここまでの話をまとめてみましょう。
冒頭で、「よくある老後資金の考え方」が実はナンセンスと書きましたのは、様々な不透明要素を、都合のよい仮定で覆っているため、それだけを盲信できないからです。
老後のお金とは、必要な金額も、必要な期間も予測できません。ですから、いくらあれば充分といえるものでないのです。

ならば、まるで現役の時の給与のような収入を、途中で絶やす不安なく一生涯に渡って、管理の煩わしさを伴うことなく定期的に、できれば物価等の変化に連動して得られる形で準備しておくことが、理想的な手段であるとご理解いただけるでしょう。

このように考えていくと、生き続ける限り生涯年金を貰える公的年金制度は、中々“いい線”をいっていることがわかります。
老後資金の柱が公的年金であることは、まず揺るぎません。
ですが、今後の人口構造の予想を鑑みると、暫くの間は年金受給額のさらなる減額は必至です。

したがって、これを補う術として「個人年金保険」が候補にあがるわけです。
何故なら、公的年金のように生涯に渡る収入(終身年金)を実現できるのは、世の中に無数に存在する金融商品の中で唯一、個人年金保険だけだからです。

個人年金保険を、“商品ありき”で考えていくと、確定年金タイプが良いのか、終身年金タイプが良いのか、一長一短なので悩ましい問題です。

しかし、支払った保険料より貰った年金が少なく、結果的に元本割れしたのか否かなど、人生終わってしまえばどうでも良い話です。
終身年金という機能が、他の金融商品には存在しないのですから、それを活用しない手はないと考えます。

個人年金保険のデメリット

個人年金保険にも大きな欠点があります。
それは、「保険会社の破たん」「インフレに弱い」という2点です。
このデメリットについても考えておく必要があるでしょう。

公的年金制度そのものが破たんする可能性は、その仕組み上、まず考えられません。
ですが、保険会社が破たんした例はこれまでにもいくつかあります。

万一、個人年金保険を契約した保険会社が破たんしても、契約内容が全く紙くずになるわけではありませんが、契約時の年金が大きく減らされる可能性はあります。

残念ながら、破たんしない保険会社を予め完全にチェックすることはできないので、この点が民間の多くの金融商品を選ぶ際に共通する最大の注意点となります。

また、一般的な生命保険契約は、契約時に保険金額が確約される仕組みとなっています。
個人年金保険も同様で、年金の額は契約時の条件で決まります。
よって、将来的に物価が高騰してしまうと、もらえる年金の実質的な金銭的価値が低くなります。インフレに弱いのは生命保険全般に特有の弱点といえるでしょう。
この弱点を少しでも緩和したいなら、選ぶべきは保険料の安い「無配当」タイプでなく、将来に配当金を貰える可能性のある「有配当」タイプ等を選んでおくことが無難だと思われます。

さて、個人年金保険がオンリーワンの選択肢と言い切れないのは、これらの理由があるためです。
ですから、準備手段としては何か1つに絞るのではなく、複数用意しておくことが望ましいといえます。

ほかにはどんな選択肢があるのか?

物価との連動を、ある程度期待できる資産としては、株式や不動産などの投資資産や外貨資産が考えられます。
実は個人年金保険にも、変額年金や外貨建て年金のタイプはありますが、どちらかというと太鼓判を押せるものではありません。

理由として、これらの多くの商品は、運用(積立)期間が終わるとその後の年金は、一般的な定額タイプに切り替わるためです。
そうであれば、積立期間中のコストを抑えるためにも、変額年金や外貨建て年金を運用する資産と同じ資産で、直接自分で運用するのが効率的といえます。

その一例として、外貨建ての債券に毎年投資する方法が挙げられます。ただし、投資性商品にはリスクがありますので、毎年の投資金額は抑え、その代り毎年行うのです。

例えば40歳の方なら60歳まで20年間ありますから、20年後に満期(償還)がくる債券を選びます。その翌年以降も同じように投資していけば、60歳の時に投資した分は80歳に、61歳時の分は81歳に満期を迎えるなど、ある程度、自分で年金のような仕組みをつくることも可能です。

この場合、債券であれば利付債ではなく、利息の付かない代わりに割安な価格で購入できる割引債というタイプを選んでおくのがベターです。代表的な割引債としては、米ドル通貨建てのアメリカ国債(通称、ゼロクーポン債)というものが広く普及していますので、ご興味があれば、ネットで検索してみてください。

 

最後に、個人年金保険を論じるときに必ず出てくるのが、「今は金利が低いから魅力がない」という言葉でしょう。確かに一理ありますが、逆に、「では、今は何をしたらよい?」と考えてみてください。

妙のあるタイミングを図るべき手段は他にもありますが、長い期間をかけられれば、少ない負担でコツコツと準備することができます。
また、要件を満たす契約形態の場合、保険料の一部は「個人年金保険料控除」として、税金を浮かす効果もあります。このメリットを毎年享受できる点も見逃せません。

ベストチョイスは中々ないものです。
何か1つの手段にお金を集中させて積立を行うのでなく、各々の長所を補完しあえるよう、組み合わせて行うのがベターな行動と考えられるのではないでしょうか。

CFPR、1級ファイナンシャル・プランニング技能士 価値生活研究室 代表 井上信一

1967年神奈川県生まれ。1991年に明治学院大学経済学部を卒業後、化粧品、医薬部外品の製造販売を行う株式会社ノエビアに入社。沖縄支店、九州支店の営業・販売企画等に8年強携わる。在籍時にFPの勉強を開始し、1999年にCFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。その後、FP教育を専門とする「東京ファイナンシャルプランナーズ」、人事ソリューション企業「株式会社アドバンテッジリスクマネジメント」のFP部門で、10年以上にわたり、個別相談を年間約100件、セミナー・研修講師を年間約500時間行う。2010年に独立開業。現在、個人向けFP相談をはじめ、法人・個人向けのセミナー・研修講師等を務める傍ら、労組・福祉会が発行する福利厚生冊子、各種コラム等の執筆・監修も行っている。

<著書>
保険設計ベスト事例集

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