保険は「目に見えぬ商品」。CMのイメージに捉われない消費者になるには?

先日、法律の専門家が違法なセールストークを使っていたという悲しいニュースを目にしました。

アディーレ法律事務所に措置命令 過払い金めぐる宣伝

《要約》アディーレ法律事務所が消費者に誤解を与える宣伝を行っていたとして、消費者庁は「景品表示法違反」で措置命令を下した。 当法律事務所は、消費者ローンの過払い金返還請求手続きの宣伝に関して、事実と異なる「期間限定キャンペーン」を長期間提示していたという。(2月16日朝日新聞デジタル)

消費者金融利用者などの過払い金請求(・・の代理業務)は、弁護士や司法書士にとってここ数年の重要なマーケットであるらしく、テレビやラジオでも激しいアピール競争が目立っていました。最近はずいぶん品の無いCMだなと思うものも散見されて、嫌な感じと思っていた矢先のニュースでした。

これに限らず競争の激しい分野の宣伝は、ついつい極端にメリットを強調してしまったり、他社よりとても有利であるかのような表現が使われる可能性があります。保険営業の世界にいる私としては、常々保険のCMを見たり聞いたりするたびに、この言い方は誤解を生むのではないかなあと感じることが少なくありません。

タレントやキャラクターなどが登場するイメージCMは、とりあえず興味を引くとか、好印象を与えて保険会社に親近感を感じてもらうのが主な目的なのでしょう。このようなCMは保険商品の内容説明がないので、その情報的価値の有無はともかくとして罪は無いですね。それよりも、具体的な保険商品自体のメリットを盛大にアピールするタイプの商品紹介CMは、捉えようによっては商品の誤った理解にも結び付く危険があると考えるので、私はいつも強い違和感を感じてしまいます。

そこで、表現豊かな(?)保険のCMに惑わされることのないように、時々見られる宣伝文句に、少々ツッコミを入れてみたいと思います。

※以下の例は、典型的なCM表現の類型を提示しているのであって、決して個別特定のCMを指摘しているものではありません。数値等を含めて筆者の創作です。
目次

「この保険、30歳の女性なら保険料は○○○円とお手頃です」

《ああそう。でもその保険料はいつまでの保険料でしょうか? 40歳とか50歳になっても変わりませんか? ひょっとして、年齢と共に高くなったりするのではないの?》

特に若い女性が販売ターゲットという訳でもない商品なのに、若い女性の保険料を前面に出せば、中高年の人にも保険料が安いように錯覚をさせてしまわないでしょうか? また加入時に安いと感じる保険料がその後、長期継続するにつれて上がってゆく場合もあるのです。

例えば保険期間10年の死亡保障目的の定期保険の試算で、保険金500万円に対する保険料が1,000円だとします。月々1,000円は確かにお手頃なイメージかもしれません。その手ごろな保険料で、死亡した場合には遺族にお葬式代プラスαで500万円のお金が残せるなら、将来家族に迷惑をかけないで済むし、大した負担でもないから良いかもと考える人もいることでしょう。

しかし、30歳女性が10年間で死亡する確率はかなり低いはず。厚労省の統計をもとにした私の試算ではおよそ0.44%です(厚労省HPの統計データから、各年代・性別ごとの1年間の死亡率を元に10年間に換算して試算)。

99.5%の生存者が40歳になってこの定期保険を更新すれば、保険料は1,600円となります。そのまた10年後の保険料は2,300円、次は3,500円と上がってゆきます。更にしつこく見ると70歳では8,900円になり、80歳では、もう入れない、ということになります。

1,000円→1,600円→2,300円→3,500円→8,900円→加入できず!

なのに、CMでは加入時の1,000円だけが提示されているのです。「お手頃」なのは、死亡率がとても低い年齢だからであって、年齢アップで死亡率が高くなるに従って保険料は上がってゆくのですが、このCMの宣伝文句からそのことを想像できるのは、おそらく保険業に携わる人間か、保険にくわしいFPの人だけではないでしょうか。

「リーズナブルな保険料は月々○○○円、しかも一生上がりません!」

《一生上がらない、それは良いですね。あれ、でもそれって「一生払い続けないといけない」ってことかな? それと、リーズナブルって誰の基準なの!?》

「一生上がらない」を強調するのは、おそらく前記のような保険料が上がってゆくタイプの(更新型の)保険に対抗してこっちの方が良いですよねとの主張なのでしょう。確かに上がらないのは良いことですが、生涯支払いが続くことを負担と感じる人もいるはずです。一生涯保障が続く終身型の保険であっても、一定年齢で保険料支払いが終わる短期払いもあるのです。

一般に終身払い保険料の月額は短期払いよりも安く済みますが、しかし、高齢化社会で年金財政の問題が叫ばれ、老後の社会保険料負担などが増えつつあるこの時代に、一定年齢で払い終わるタイプという選択の提示は必須ではないかと私は思います。

「上がらない」のがメリットだとしても「支払いが終わらない」のはデメリットかも知れません。このCMの言い方ではメリットだけが強調されていると思うのです。

「万一の時、お葬式代をカバーする保険があります」

《へえ葬式代を出してくれるの? 幾らでも? まさかねえ・・・では幾ら?》

遺族が受け取る保険金を葬儀費用に充てるかどうかはそうなってみないと分からないのですが、このCM提供者は「死亡保険金」というよりも「お葬式代」と言った方が柔らかな、或いは身近なイメージを与えるという効果を期待しているのでしょう。

これを見たり聞いたりした人は、私が死んだあと子どもたちに葬式代の心配を掛けなくて済むなら、保険に入っておこうかしら、という気持ちになるかもしれません。しかし当然ながら、お葬式代を保険会社が出してくれるという訳ではなく、契約時に決めた金額の保険金が支払われるだけですので、そのお金で葬儀代を十分カバーできるかどうかは分かりません

死亡時の保険金は10万円で、実際の葬儀費用は200万円かもしれません。生命保険は契約する保険金に応じて保険料が変わるのですから当たり前のことなのですが、何となく「加入すれば葬式費用の心配が無くなる」というような錯覚を覚える人もいるのでは?と思いますが、どうでしょう。

「加入は80歳までOK。保険料は年齢に関係なく○○○円とシンプルです」

《保険料が年齢に関係ないって言うけど、保障内容はどうなの? 同じなの?》

生命保険では、年齢が上がっても保険料が高くならないのは事故死亡の特約くらいであって、通常は死亡率の上昇に従って保険料が上がります。つまり年齢が高いほど保険料は高くなります。ですからこのCM表現のように保険料が同額なのであれば、保障される額(保険金額)がは異なるはずなのです。

実際に詳しい資料を見てみれば、そのことが明確に記されているのですが、しかし、とりあえずこのCMを見た段階では「高齢者でも安く入れるみたい」という印象が残るでしょう。 おそらくそれが狙いなのでしょうが、誤解を生みやすいと思います。

「当社の自動車保険なら△△サービスもなんと無料でついてます!」

《そのサービス、いまどきついていない保険なんてあるんかい!》

いかにも、当社商品独自のサービス、というイメージですが、そのサービスなら最近は殆どの保険会社でついている、ということがよくあります。他社からの乗り換え時に割引等級が引き継げることなども基本的に全社共通です。

「当社の保険なら、○○です」という言い方で「なら」を強調するのはどうかと思ってしまうのです。言ったもの勝ちなのかな?

CMの効果は印象付け……だからこそ危険と言えないでしょうか

テレビ・ラジオのCMで興味を持った人は保険会社などに資料請求をし、その資料をじっくり検討したうえで契約申し込みをする。そしてその資料には客観的な判断材料や重要な情報が書いてあるので、決して消費者を意図した方向に誘導することにはならないという説明を提供者はするのでしょう。

しかしテレビ・ラジオのCMから受ける印象・インパクトは強烈であり、そこで得た感覚(例えば保険料はリーズナブルというイメージ)を持ったままで検討に入るかもしれません。また、あとで送られて来た資料を手にとって、様々な説明が書き込まれた書類の小さな文字を全て読み込み、その内容を充分に理解できるのかどうか……、そう簡単ではないと私は思います。私たち保険営業の人間が面前で、書類やパンフレットを用いて丁寧に説明をしたお客様でも、数年後にはその内容を覚えていないケースさえあるのが実態です。

テレビ・ラジオCMの共通した特徴は「とても短かい時間に情報を詰め込んでいる」こと、そして必然的に「他にも色々な選択肢があるという事実が表現されていない」ことです。メリットと同時にデメリットも理解するべき商品である保険に関しては、やはり選択肢の提示は必須であると思います。

保険ソクラテスや保険ジャーナルで情報入手をしている皆様は、CMの印象だけに惑わされるようなことは無いと確信していますが、保険という商品は目に見えず、試してみることが出来ず、効果を予測するのも困難という、一般消費者にとっては分かり難い商品です。

テレビ・ラジオのCMは保険商品には適さないのではなかろうかと思いながら、一人ツッコミを入れる私なのです。

参考

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この記事を書いた人

博多生まれの東京育ち。国立市在住30年。老舗機械商社営業マンから突然!脱サラ。当時外資系だった生命保険会社の営業マンとなり、独立自営へのステップとして成果報酬の保険営業を9年間経験。その後ファイナンシャルプランナー(FP)として独立し、現在は保険相談を中心に独立系FP事務所&総合保険代理店を経営している。
本当に必要で本当に役に立つ保障システムの構築と、資産の安定化の実現をサポート。誠実と向上心をモットーに顧客の利益最大化を目指す。

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