マイナス金利対策になる? 日生が長生きするほど得をする「トンチン保険」を発売!

2月にマイナス金利が導入されて以来、一時払終身保険をはじめ貯蓄型保険の販売取りやめなどが相次ぎました。そんななか、日本生命が超低金利と長寿化に対応した新タイプの終身年金保険を発売し話題になっています。亡くなった人の持ち分が生き残った人に移るタイプで、「トンチン保険」とも言われています。

目次

日生が“新型”の終身年金保険を発売

2020年には、日本人の平均寿命が、男性80.9歳、女性87.6歳になると推計されています。平均寿命はさらに延びると見られ、「人生90年時代」どころか「人生100年時代」を意識していく必要がありそうです。 本来、さまざまなリスクに備えるための手段の1つが保険であるにも関わらず、保険料値上げなどにより、長生きリスクに備えるための貯蓄型保険には特別よい商品がありませんでした。そんなとき、日本生命が“新型”の終身年金を発売し話題になりました。

日生、長寿で得する保険 超低金利に対応

《要約》日本生命保険は超低金利と長寿化に対応した新タイプの終身年金保険を4月に発売。日銀のマイナス金利政策を受けて貯蓄型保険の販売取りやめなどが相次ぐが、新商品の投入は初めてだ。新商品は死亡保険金を保険料の7割にとどめる代わり年金を多く出す。長生きするほど得をする保険で、米国などで普及している。

加入できるのは50~87歳。50歳男性が払い込み期間10年で月9万5949円の保険料を払うと60歳から年44万円の年金を受け取れる。86歳で元が取れ99歳まで生きると保険料の1.5倍の年金が得られる。公的年金だけでは不安を感じる人々の間で私的年金への関心は高まっており今後、同様の保険が普及する可能性がある。

発売された“新型”の終身年金保険は、「長寿生存保険(低解約払戻金型)“GranAge”」。日銀によるマイナス金利の導入後に、10年物国債の利率がマイナスになったことにより、貯蓄型保険が一部は売り止め、一部は保険料が上がるなど、保険業界全体に影響が現れました。そんななか、日生はいわゆる「トンチン保険」を販売したのです。

入ったからには生き残れ!トンチン保険とは?

「長寿生存保険(低解約払戻金型)“GranAge”(グランドエイジ)」という名称にもあるように、グランドエイジの分類としては「生存保険」です。「生存保険」は「トンチン保険」とも呼ばれていますが、被保険者が亡くなったときに保険金が支払われる「死亡保険」とは異なり、契約時に定めた年齢を超えて生存している場合に保険金が受け取れます。しかも、生き残れば生き残るほどもらえる年金額が増えていきます。17世紀のイタリア人銀行家ロレンツォ・トンチが考案したもので、「トンチン保険」という呼称は、その名から取られています。長生きした場合の生活費の保障(=生存リスク)を重視する保険で、基本は終身年金で、解約返戻金・死亡返戻金を抑えることで、年金額を確保するという仕組みです。

日本でも、メットライフ生命(アリコジャパン時代)が1993年に発売し、商品改定を行いつつ販売を続けてきた隠れ人気商品で、窓販商品ではトンチン型の年金保険も取り扱ってきた経緯があります。その後、数年前に販売をやめて以来、国内での「トンチン保険」の取扱はありませんでした。

「グランエイジ」の特徴

「グランエイジ」の特徴を整理しておきましょう。この商品は、死亡保障をなくし、また解約返戻金(解約払戻金)を低く抑え、老後の生活費となる年金原資を重点的に準備する保険です。死亡保障がないため、年金開始日前に被保険者が亡くなると、解約払戻金と同額の死亡払戻金しか支払われません。また、解約払戻金は本来の70%と低く設定されており、途中解約をすると払込保険料を下回ります。

保険料払込満了まで生存していれば、年金が支払われます。年金の種類は、契約時に次の2つから選択します。

  • 5年保証期間付終身年金
  • 10年確定年金

5年保証期間付終身年金の場合、終身にわたって年金を受取れますが、年金開始日から早めに亡くなると、払込保険料よりも受取額の合計の方が少ない場合もあります。

年金開始時には、年金の種類や受取方法を変更することもできます。前出の2つの他、一括受取に変更することもできます。例えば、当初は5年保証期間付終身年金で契約したものの、受取開始時点で10年確定年金に変更して、その年金原資分を一括で受取るといったことが可能です。つまり、年金の受取り方は次の3つです。

  • 5年保証期間付終身年金
  • 10年確定年金
  • 一括受取

なお、あらかじめ指定代理請求人を指定しておけば、被保険者本人が手続きできない状態でも年金の請求等を行うことができます。この保険に加入できるのは、年齢50~87歳(保険料払込期間により異なります)。持病や治療中の病気などの有無に関わりなく、無告知で加入できます。

長生きをしてたくさん年金をもらえば得をする反面、長生きをして損になる保険ということもできます。そこがトンチン保険ならではの特徴です。

「グランエイジ」保険料と返戻率

実際の保険料を見てみましょう。50歳で、5年保証期間付終身年金に年金額60万円、払込満了70歳で加入した場合、受取は下表のようになります。

<契約例>
契約時の年金タイプ:5年保証期間付終身年金、年金額:60万円
契約時年齢:50歳、払込満了:70歳
月払保険料:男性4万7,916円、女性5万8,680円
払込総額:男性1,150万7,040円、女性1,408万3,200円

受取方法性別受取額返戻率
一括受取男性1,220万円106.0%
女性1,479万円105.0%
10年確定年金男性1,271万円115.0%
女性1,540万円109.4%
5年保証期間付終身年金5年保証男性300万円26.1%
女性300万円21.3%
10年受取男性600万円52.1%
女性600万円42.6%
20年受取男性1,200万円104.3%
女性1,200万円85.2%
30年受取男性1,800万円156.4%
女性1,800万円127.8%

70歳時点で一括で受け取ると、男性約106%、女性約105%のリターンになります。10年確定年金の場合は、途中で亡くなっても遺族が確実に受け取れる分として、合計で男性で約110.5%、女性で約109.4%の返戻率になっています。

一方、5年保証期間付終身年金の場合は、上記の例でみると男性で19年強、つまり90歳近く生きないと払込保険料を超えず、女性では23年半、つまり93.5歳以上生きなければ「元すら取れない」ことになります。年齢・払込期間別の5年保証期間付終身年金の試算をしたものが下記ですが、本当に長生きをしないと元が取れないのがわかります。

<保険料例>
年金額60万円、月払口座振替、5年保証期間付終身年金

性別契約年齢年金開始保険料
→払込総額
5年保証
300万円
10年受取
600万円
20年受取
1,200万円
30年受取
1,800万円
返戻率
男性50歳60歳13万662円
→1,567万9,440円
19.1%38.3%76.5%114.8%
70歳4万7,946円
→1,150万7,040円
26.1% 52.1% 104.3% 156.4%
80歳2万1,054円
→757万9,440円
39.6% 79.2% 158.3% 237.5%
60歳70歳9万4,674円
→1,136万880円
26.4% 52.8% 105.6% 158.4%
80歳3万768円
→738万4,320円
40.6% 81.3% 162.5% 243.8%
70歳80歳6万360円
→724万3,200円
41.4% 82.8% 165.7% 248.5%
80歳85歳9万3,312円
→1,119万7,440円
26.8% 53.6% 107.2% 160.8%
女性50歳60歳15万3,414円
→1,840万9,680円
16.3% 32.6% 65.2% 97.8%
70歳5万8,680円
→1,408万3,200円
21.3% 42.6% 85.2% 127.8%
80歳2万6,982円
→971万3,520円
30.9% 61.8% 123.5% 185.3%
60歳70歳11万6,400円
→1,396万8,000円
21.5% 43.0% 85.9% 128.9%
80歳3万9,570円
→949万6,800円
31.6% 63.2% 126.4% 189.5%
70歳80歳7万7,322円
→927万8,640円
32.3% 64.7% 129.3% 194.0%
80歳85歳116万946万
→1,403万3,520円
21.4% 42.8% 85.5% 128.3%

この商品のコンセプトは、「人生100年時代の長生きリスクに備える」ことで、真骨頂は5年保証期間付終身年金だと思われます。

しかし、まず第一段階の保険料払込期間を何とか生き延びて、年金が受取れる年齢になったときに、確実に受取れる一括払いや10年確定年金の方を選択する人が多いのでは?と個人的に思います。もう少し前倒しで、例えば85歳くらいでトントンになるのであれば、5年保証期間付終身年金を選択する人が出るかもしれませんが、90歳や93.5歳でトントンというのは、やや分が悪い印象を与えているのではないかと思われます。

いずれにしても、満了時点で年金の受取り方を選択できるので、その時に改めて選択すればいいでしょう。

メリットは「長生きモチベーション」

「グランエイジ」は、長生きをする人が得をする反面、ひっくり返せば早く亡くなると損をする商品です。仮に、私がこの保険に入ったなら、意地でも長生きをしようと思うでしょう。少なくとも、満了までは意地でも死なないように努力するはず(?)です。保険をきっかけに健康貯金をする。実はこの「モチベーション」は大きなメリットでもあると思います。

マイナス金利の利率がさらに大きくなっていくようであれば、老後資金の運用商品としてこのタイプの終身年金は1つの候補になるでしょう。ただし、唯一の老後資金用の商品として選択するには難しいかもしれません。複数の方法で備える中の1つ、という位置づけで利用するのはよいでしょう。やはり適しているのは、家系的に長生きで自分も健康に自信があるという人といえます。

注意点としては、固定金利型でもあるため、金利が上がってきたときには不利になりかねませんので、中長期の金利の動きも考慮に入れて選択すべきでしょう。長期間付き合う商品であるため検討が必要です。

参考

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この記事を書いた人

経済誌・経営誌などのライターを経て、1994年より独立系ファイナンシャル・プランナー。FPラウンジ 代表。個人相談やセミナー講師の他、書籍・雑誌の記事や記事監修などを行っている。95年、保険商品の全社比較を企画・実行して話題に。「保険と人生のほどよい距離感」をモットーに保険相談に臨んでいる。ライフワークとして大人や子どもの金銭教育にも携わっている。座右の銘は「今日も未来もハッピーに」。

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