トンチン保険は超高齢社会にどれくらい役立つか?

「人生100年時代」が現実のものとなりつつあります。長生きするのはいいのですが、老後資金が用意できるか心配です。そんな長寿時代の資金準備ニーズに応えて、長生きするほどおトクなトンチン保険が4つ登場しました。どれくらい役に立つのでしょうか?

「トンチン年金」長寿の味方

《要約》平均寿命を超えて長生きしても困ることがないよう商品設計された「トンチン年金」と呼ばれる商品が生命保険会社から相次ぎ売り出されている。死亡したり、解約したりした人への払戻金を少額に抑え、その分を長生きした人の年金に回す仕組みだ。公的年金の上乗せとして加入を検討する人が増えているという。

目次

やはり、公的年金のトンチン性はすごい!

トンチン保険(トンチン年金ともいう)は、17世紀のイタリア人の銀行家ロレンツォ・トンティが考案した制度で、長生きするほどおトクな保険です。「トンチン」名称も、考案者の名前が由来です。

ここ2年弱で、この仕組みを取り入れたトンチン保険が4つ登場しました。日本生命「クランエイジ」、第一生命「ながいき物語」、かんぽ生命「長寿のしあわせ」、太陽生命「100歳時代年金」です。

それを受けて、ファイナンシャルプランナーと生命保険業界の人との意見交換会の席上、どこのトンチン保険が一番いいかの話題になり、「それは、何といっても公的年金でしょう」というのが共通認識でした。

そこで、日本の年金制度はどれくらいトンチン性(長生きのおトク度)が高いのか、「ねんきんネット」を使って、自分の場合で調べてみました。昭和29年生まれの私は、すでに国民年金保険料の払込は終了し、納付した保険料総額は約459万円です(3年ほど会社員だった期間の厚生年金保険料含む)。65歳から受け取れる年金月額は約7万2,000円とのこと。年金額がこのまま変わらないとした場合の回復年齢(年金受取累計額が払込保険料総額以上になる年齢=モトが取れる年齢)を計算してみると、何と70歳。5年でモトが取れてしまいます。念のため、100歳まで生きたとしたときの返戻率も計算してみたところ、約6.6倍でした。何というトンチン性の高さでしょう! これが、自分で払った保険料が戻ってくるのなら「超ラッキー!」ですが、現役時代の人たちが納付している保険料だと思うと複雑な心境になります。人生100年時代には、とても成立しない制度だとつくづく思いました。

それはさておき、どんなにトンチン性が高くても、公的年金だけで老後の生活費を賄うのはまずムリです。何らかの方法で上乗せする必要があります。いわゆる自分年金作りです。その方法の1つとして、トンチン保険が浮上してきたのです。

4商品の特徴は?

4商品共通の特徴は、保険料払込期間中の死亡保障は行わず、解約返戻金も従来の年金保険の70%程度に抑えることで、年金額を大きく(トンチン性を高く)していることです。そのため、保険料払込期間中のどの時点で死亡しても元本割れしますし、かなり長生きしないと元本の回収すらできません。まさに「長生き」をかけたサバイバル保険です。他に、契約できるのは50歳からという特徴も。

個別の特徴を見ていくと--。日本生命の「グランエイジ」は、契約時に5年保証期間付終身年金か10年確定年金を選べます。長生きに備えるなら前者を選ぶべきでしょう。

太陽生命の「100歳時代年金」は、トンチン保険部分は「グランエイジ」と同じですが、契約時の選択肢は5年保証期間付終身年金しかありません。この保険の最大の特徴は、終身生活介護年金保険をセットできること。高齢になるほど要介護のリスクは高くなるため、生活費+介護費用もカバーできます。介護年金保険部分は告知が必要です。

かんぽ生命の「長寿のしあわせ」は、保証期間は20年(75歳・80歳年金開始は15年)で年金支払い期間は最長30年(75歳・80歳年金開始は20年)の有期年金です。保障期間は4商品のなかでは最も長いですが、終身年金ではない点が不可解です。災害特約と、傷害医療特約か総合医療特約のいずれか一方をつけられますが、総合医療特約をつける場合は告知が必要です。

第一生命の「ながいき物語」は、契約時に10年保証期間付終身年金または確定年金(5・10・15年)を選べます。長生きに備えるなら前者でしょう。

4商品のトンチン性を比べてみると…

では、4商品のトンチン性はどうなのでしょうか? 各社の公開資料や個別に問い合わせて計算してみました(下表参照)。各々、商品性が異なるので、まったく同じ条件にはできませんでした。

日本生命「グランエイジ
●5年保証期間付終身年金……年金額 60万円
 保証期間内(5年)に確実に受け取れる金額 300万円

月払い保険料
(50歳契約・70歳払込満了&年金開始)
男性5万790円
女性6万2,526円
保険料総額
(払込期間20年)
男性1,218万9,600円
女性1,500万6,240円
回復年齢男性90歳
女性95歳
100歳時の返戻率男性147.7%
女性120.0%

※回復年齢=年金受取累計額が払込保険料総額以上となる年齢

太陽生命「100歳時代年金
●5年保証期間付終身年金……年金額 60万円 
 保証期間内(5年)に確実に受け取れる金額 300万円

月払い保険料
(50歳契約・70歳払込満了&年金開始)
男性4万5,309円
女性6万1,047円
保険料総額
(払込期間20年)
男性1,087万4,160円
女性1,465万1,280円
回復年齢男性88歳
女性94歳
100歳時の返戻率男性165.5%
女性122.9%

かんぽ生命「長寿のしあわせ」
●5年保証期間付終身年金……年金額 60万円 
 保証期間内(20年)に確実に受け取れる金額 1,200万円

月払い保険料
(50歳契約・70歳払込満了&年金開始)
男性5万6,100円
女性6万2,040円
保険料総額
(払込期間20年)
男性1,346万4,000円
女性1,488万9,600円
回復年齢男性92歳
女性94歳
100歳時の返戻率男性133.7%
女性120.9%

第一生命「ながいき物語」
●10年保証期間付終身年金……年金額 男性50.19万円・女性40.4万円
 保証期間内(10年)に確実に受け取れる金額 男性501.9万円 女性404万円

月払い保険料
(55歳契約・70歳払込満了&年金開始)
男女とも5万4,000円
保険料総額
(払込期間20年)
男女とも972万円
回復年齢男性89歳
女性94歳
100歳時の返戻率女性128.9%

「グランエイジ」と「100歳時代年金」の商品性は同じですが、保険料他が異なるのは、太陽生命の方が予定利率がやや高いからです。「長寿のしあわせ」は保証期間が長いので保険料が高くなり、とはいえ有期年金なので終身年金より保険料が安い…で相殺したのか、「グランエイジ」・「100歳時代年金」と比べて、極端な差にはなっていません。「ながいき物語」は支払う保険料で年金額が決まる保険料建てで、他の3商品とはかなり条件が異なりますが、一例として見てください。

トンチン性は、保険料をまとめ払いする、払込期間を短くする、年金開始年齢を遅くするなどで高められます。あらゆるケースでシミュレーションしたわけではありませんが、100歳時点の返戻率は2倍にはならないような気がします。

最初に公的年金のトンチン性の高さを見てしまったので、どの商品もインパクトはいまいちです。しかし、民間の会社が国と同じことをできるはずもなく、こんなものでしょうと思うしかありません。

さて、トンチン保険は、死ぬまで年金がもらえる(かんぽ生命は除く)ので、超高齢社会の老後資金作りの一助になりそうです。ただ、保険料は高い、80歳後半から90歳半ばまで生きないとモトは取れない、低金利を長期間にわたって固定することになる、インフレになったら年金の価値が下がる、他の金融商品より有利なわけではないことを理解したうえで利用を。

そして、契約したら、公的年金同様、早死にしたら「払った保険料は生き残った人にくれてやる」つもりでいましょう。持病があるなどで長生きできなさそうと思う人は、利用しない方が賢明です。

参考

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この記事を書いた人

1994年、ファイナンシャルプランナー資格取得。その後、独立系FPとして、長年にわたって携わってきた一般誌やムック、単行本などの編集・ライターの経験を活かし、マネー系記事の執筆・監修の他、セミナー講師として活動。最近は、終活や生前整理など、人生のしまい方にもフィールドを広げている。

複雑でわかりにくい保険や社会保障制度など、身の周りのお金に関する様々なコトを「わかりやすくひも解く」がモットー。

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