「がんでも障害年金を受け取れると聞いたんですが・・・」―がん患者さんからのご相談で、よく話題に出てくるのが障害年金に関するご質問です。
認定対象となる障害が、がんが原因の外部障害はもちろん、抗がん剤など治療の副作用による全身衰弱も含まれるため、がんでも障害年金が請求できることが、だいぶ認知されてきた結果でしょう。
しかし、裁定請求手続きは複雑な上、ハードルは高く、容易に受給できるものではありません。
そもそも、年金保険の「障害年金」は、病気やケガなどで重度の障害が残った場合に受けられる年金制度です。健康保険等の「傷病手当金」のように、一定期間(最長1年6ヵ月)受けられる給付とは異なり、認められれば、中長期にわたって生活費を補てんできます。
一方、同じように病気やケガで働けなくなったときのリスク対策として、民間保険の「就業不能保険」がありますが、こちらも徐々に認知度が高まってきているようです。
長寿化で保険金支払い減…生保、契約者に還元の動き
「2025年問題」控えて第三分野商品など、販売合戦激化も
《要約》長寿化によって、生命保険各社に保険料率を見直す動きが広がっている。 各社が保険料を見直すのは、2018年4月、保険料の算定基準となる「標準生命表」が11年ぶりに改定されることを踏まえたものだ。
2018年度以降の適用分では、長寿化で全年齢の死亡率が改善し、40歳男性の死亡率は千人当たり1.48人から1.18人に、40歳女性は同0.98人から0.88人にそれぞれ減少する。 それにともない、定期保険などの死亡保険の保険料が引き下げられる。
ただ、この先、団塊世代や団塊ジュニアが高齢化していくと、生保各社にとっては、主要契約者の急減と保険金支払いの急増につながる。特に「団塊世代が後期高齢者となる2025年問題は脅威」(大手生保)であり、各社は新たな客層を呼び込むための戦いも始めている。
販売合戦が激化しているのが、医療保険や就業不能保険といった「第3分野」だ。 住友生命やアフラックの就業不能保険が大ヒットしているほか、明治安田生命も若年層を狙ったシンプルな保険の販売が好調だ。販路拡大の動きも活発化している。第一生命グループは金融機関や保険ショップに商品を卸す会社をつくるなど、販路の多様化を急いでいる。
就業不能保険の受給要件は、おおむね障害等級1・2級程度?
前述の通り、「就業不能保険」とは、病気やケガによって働けなくなった場合、一定の免責期間を経て、保険期間終了まで給付金が支払われる保険です。
「所得補償保険」、「お給料保険」、「給与サポート保険」といった名称で、2015年から2017年にかけて、相次いで販売された感があります。
基本的なしくみは各商品とも同じですが、就業不能な状態になってから給付金が受け取れるまでの免責期間(60日、90日、180日、365日など)や免責事由(精神障害は対象外など)、支払事由などは、商品によって異なります。
そこで、就業不能保険を検討する際に、重要なのは、「どのような状態になったら給付が受けられるのか」という支払事由に対する理解です。
例えば、アフラックの「給与サポート保険」の場合、支払いの対象となる「就労困難状態」について、「被保険者が病気またはケガなどにより、①入院や②在宅療養のいずれかに該当する状態をいう」としており、②の具体例として、「国民年金法で定める障害等級1級または2級に認定された状態」を挙げています。
また、住友生命の「未来デザイン1UP (ワンアップ)」(「生活障害収入保障特約」)も、支払いの対象となるのは、「公的年金制度の障害年金1・2級に認定されたとき」、「所定の就労不能状態に該当したとき」、「公的介護保険制度における要介護2以上に認定されたとき」、「当社所定の要介護状態が180日以上継続したとき」など。障害年金や介護保険といった公的保険に連動する形となっています。
もちろん、細かくチェックすると、商品によって支払事由はさまざまですが、在宅療養の場合は、おおむね障害年金1・2級に該当するレベル(後述)であることが必要です。
しかも、60日以上などの免責期間もありますから、「術後や治療の副作用で、1ヵ月くらい体調が悪くて復職できない・・・」という程度では、受給は難しいといえます。
障害年金の障害の程度は?
支払事由のハードルの高さは障害年金も同じです。
例えば、乳がん患者さんから、「乳房を全摘して、腕がうまく上がらない。買い物で重い物を持つことができないし、洗濯物も干せない。これで障害年金は受給できますか?」と相談されるケースがあります。その場合も「ちょっとその程度の状態では、障害年金の受給は難しいですねえ」と言わざるを得ません。
というのも、障害年金の対象となる基準は、障害の程度に応じて、「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」で決められているからです(図表参照)。
障害の程度は1級>2級>3級の順に重く、最終的には、組織所見やその悪性度、CT検査や腫瘍マーカーなどの検査結果の数値、転移の有無、病状の経過と治療効果などを照合した上で、具体的な日常生活の状況等により、総合的に決定されます。
障害年金を受給するためには、障害認定日等に、この障害の程度が一定の等級に該当していることが必要です。
この「障害認定日」とは、病気やケガで初めて医師の診察を受けた日(これを初診日という)から1年6ヵ月を経過した日または症状が固定化した日のこと。
がん患者であれば、たとえば、人工肛門や新膀胱の造設、尿路変更術を施術した場合については造設または手術を施した日、喉頭全摘出の場合については全摘出した日などが障害認定日となり、おおむね3級に該当する程度と言われています。
いずれにせよ、多くの患者さんが誤解しているように、体調が悪くなったとしてもすぐに障害年金がもらえるわけではありません。
障害の程度 | 障害の状態 | 一般状態区分 |
---|---|---|
1級 | 著しい衰弱または障害の状態にある | 身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの |
2級 | 衰弱または障害の状態にある | 身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの |
2級または3級 | 衰弱または障害もしくは著しい全身倦怠の状態にある | 歩行や身のまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの |
3級 | 著しい全身倦怠の状態にある | 軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの 例)軽い家事、事務など |
適用なし | 無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの |
※出所「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」(平成29年12月1日改正分)より一部抜粋の上、筆者作成
障害年金の受給者は増えているが・・・
障害年金の認知度があがったためか、実際、障害年金受給者はじわじわと増加傾向にあります(以下、図表参照)。
ただし、厚生労働省の「平成26年障害年金受給者実態調査」によると、受給者の傷病名別構成割合は、受給者全体でみると、その半数以上が精神障害(31%)あるいは知的障害(23.2%)を占めています。
それ以外には、脳血管疾患(8.1%)、中枢神経系の疾患(5.9%)、耳の疾患・外傷(5.1%)、腎疾患(4.7%)の割合が高くなっており、新生物はわずか1.1%です(年金種別では、厚生年金3.4%、国民年金0.5%)。
この調査は5年ごとに行われているもので、最近の状況がどうなっているか気になるところですが、障害年金の申請者が増えているとしても、実際に受給できる人はそれほど多いわけではなさそうです(あるいは、認定が間に合わず、お亡くなりになったというケースも・・・)。
受給者数(年度末現在) | 受給者平均年金月額 | |
---|---|---|
平成24年度 | 39万人 | 104,858円 |
平成25年度 | 40万人 | 103,175円 |
平成26年度 | 40万人 | 101,906円 |
平成27年度 | 41万人 | 102,630円 |
平成28年度 | 42万人 | 102,398円 |
受給者数(年度末現在) | 受給者平均年金月額 | |
---|---|---|
平成24年度 | 177万人(153万人) | 73,479円(73,759円) |
平成25年度 | 180万人(155万人) | 72,607円(72,890円) |
平成26年度 | 183万人(157万人) | 71,995円(72,265円) |
平成27年度 | 186万人(159万人) | 72,565円(72,835円) |
平成28年度 | 189万人(162万人) | 72,453円(72,721円) |
( )内は、基礎のみ・旧国年の受給者について再掲したもの。ここでの「基礎のみ」とは、同一の年金種別の厚生年金保険(第1号)(旧共済組合)の受給権を有しない基礎年金受給者をいう。
*出所:厚生労働省「平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
2015年10月より「初診日証明」が緩和
障害年金を受給するためには、前述の通り、障害の程度が所定の等級に該当しているという要件以外に、「初診日に国民年金あるいは厚生年金の被保険者であること」「保険料の納付要件を満たしていること」という要件も満たさなければなりません。
障害年金において、この「初診日」(その疾病の治療を目的として、はじめて医療機関を受診した日のこと)が重要です。初診日にどの年金制度に加入しているかによって受給できる障害年金の種類が変わってくるからです。
したがって、初診日がいつか、ということを証明する書類を添付する必要があるわけですが、厚生年金保険法施行規則等の一部が改正され、2015年10月1日以降、初診日を証明する方法が緩和されています。
以前、申請しようと思ったけれども初診日証明ができず断念したという方も、これ以降、再申請の際には、新しい判定基準により審査されますので、請求できる可能性はあるわけです。
いずれにせよ、冒頭に申し上げたように、がん患者も障害年金を受給することは可能ですが、そのハードルは高くそびえたっています。
申請の際には、年金事務所などで相談しながら、自力で行うことも可能ですが、障害年金の申請に特化している社労士など専門家に相談するのがベターだと思われます。
なお、保険会社の中には、就業不能保険の契約者に対して、障害年金の申請を希望する場合、「社会保険労務士」を紹介する付帯サービスを設けている商品もあります。是非とも有効活用してください。
参考