”FP相談付きがん保険”なども登場?! 民間保険の現物給付拡大とその可能性

「死亡保険や介護保険など一般的な生命保険に加入している場合、亡くなったり、一定の要介護状態になったりすると、あらかじめ決められた保険金や給付金、つまり現金がもらえるしくみになっています。他方、現物給付とは、現金の代わりに、葬儀や介護、医療などのサービスが受けられるというものです。

金融庁はこれまで、民間保険会社の現物給付を禁止してきましたが、社会情勢の変化等を受け、2013年から金融審議会「保険商品・サービスの提供などの在り方に関するワーキング・グループ」での議論を進め、2014年から、「保険会社が直接提供しないこと」という条件付きで認める方針を打ち出しています。

この規制緩和を受けて、最近の生損保各社では、続々と介護事業者等との提携を強化しているようです。

現物給付型保険を視野に入れて、生損保各社が介護事業を拡大

損害保険や生命保険各社が介護事業を拡大している。2015年10月上旬、「損保ジャパン日本興亜ホールディングス」は、居酒屋大手ワタミの介護子会社「ワタミの介護」を買収すると発表。また、訪問介護事業をグループ会社で手掛ける東京海上も6月にサービス付き高齢者向け住宅の運営に参入すると発表しているほか、ソニー生命保険などを傘下に持つソニーフィナンシャルホールディングス(ソニーFHD)の子会社は来年4月に都内で有料老人ホームを新設する予定だ。

このほかにも、大同生命保険は10月に募集開始の介護保険の契約者や親族に対し、出資先の介護関連サイト運営会社の持つ情報を提供。明治安田生命も介護付き有料老人ホーム事業を拡大する方針を打ち出すなど、保険金の代わりに介護サービスを受けられる「現物給付型保険」も視野に入れている会社が多いという。

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公的制度でカバーできないサービスへのニーズが高まる

高齢者の増加にともなって、公的介護保険の給付費(介護保険費用額か利用者負担を除いた額)は増加の一途を辿っています。

厚生労働省の発表によると、公的介護保険がスタートした平成12年度の給付額に比べて、平成25年度(平成26年3月末現在)の給付額は約8兆5,000億円と2.6倍超にものぼると発表(※厚生労働省「平成25年度 介護保険事業状況報告(年報)」)。

国としては、民間企業の参入によって、増え続ける高齢者を支えるためのコスト抑制&サービス向上を図れるのであれば、大歓迎といった感じでしょう。また逆に、人口減少によって保険料収入が伸び悩む生損保会社としては、新しいマーケットの開拓にもつながります。

いわゆる公的制度でカバーしきれない部分は、自助努力でまかなうしかなく、それを支える民間企業のサービス・商品の提供が求められているといった構図でしょうか。

現物給付のメリット・デメリットは?

民間保険に加入していて、何かコトが起きた場合に、受取りを現金給付か現物給付かどちらかで選択でき、その点から保険の多様性は広がります。

とくに高齢者にとっては、保険金等の代わりに、訪問看護のサービスや介護付き老人ホームへの入所、葬儀を出してもらった方が、時間の短縮にもなりますし、選別・手続きなどモロモロの煩わしさから解消されます。

このほかメリットとして、契約時よりもインフレになった場合、現金給付であれば、その金額は決まっていますので、いわゆる価格変動リスクは契約者が負うことになりますが、現物給付であれば、価格変動にかかわらず、そのサービスが受けられてオトクです。

一方デメリットとしては、現物給付のみになる場合、保険契約が長期にわたるため、契約時のサービスがきちんと履行されるかどうか、質が担保できるか、追加で保険料やサービス料を徴収される可能性がある、といった問題が考えられるでしょう。

商品を提供する保険会社としても、現金給付あるいは現物給付が選択できる場合、どちらを選ぶか契約者次第ということになりますので、将来的に採算が取れずに、倒産してしまうかもしれません。

実際、日本においても、1960年代前半に、協栄生命(2000年に経営破綻)が「年金ホーム特約付個人年金保険」(一時払い)という、個人年金保険に加入すれば終身、追加負担なしで協栄年金ホーム(現在は東京近郊の1ヵ所のみ)に入居できるという商品を発売していました。

ある意味、時代を先取りした商品だったといえますが、バブルの終焉と長引く低金利でビジネスモデルは普及するには至らなかったようです。

現物給付の活用で「FP相談が受けられる保険」も登場する?!

つらつらとここまで書き進めてきましたが、みなさんにとっては、生命保険で現物給付というのは、あまりなじみがない印象かもしれません。

でも実は、保険の現物給付というは、わたしたちのとても身近な所にあります。たとえば、健康保険など公的医療保険の「療養の給付」。そうです。保険証を持って医療機関等にかかった際に、一定の自己負担額(3割など)を支払って、診察を受けたり、注射や点滴を打ってもらったり、薬を処方してもらったり、というやつです。

当たり前すぎて、意識していないかもしれませんが、療養の給付は代表的な現物給付といえるでしょう。

また、損害保険の自動車保険に加入している場合、ほとんどの商品では、何か事故が起きると示談交渉サービスや事故車の応急処理などのサービスが受けられます。これも現物給付のひとつです。

そこで、私もこんな保険の現物給付があったらいいな、と考えている商品があります。それは、「FP相談サービス付医療&がん保険」!契約者ががんなどの疾病に罹患した場合、治療等が始まる前にFP相談が受けられるというものです。

「これから、どれくらい治療費がかかるのか?」「罹患後の家計の見直しはどうしたら良いのか?」「受け取った給付金・保険金をどのように利用するのかベストか?」「遺された家族のために、どのような相続対策等をやっておけば良いのか?」などなど。病気になって不安に感じておられる患者さんやそのご家族の悩みや問題にFPがアドバイスを行います。

同時に、必要に応じて、医療従事者や税理士、社労士、弁護士などと連携を取るのもFPの役割です。こうして、患者さんとそのご家族を支えるシステムを構築していきます。

■経験者だからこそ思うこと

要するに、ふだん私がお客さまにやっていることを、保険商品に組み込んだだけなのですが、このようなサービスが当然のように受けられたらいいなあと感じたのは、私自身が乳がんに罹患したとき。

病気やこれからの生活(とくに経済面で)に不安を感じている頃に、アメリカでは、医療費に関する専門家が、これから治療にかかるお金について事前にアドバイスしてくれると聞いたからです。

もちろん、日本とアメリカでは医療保険のしくみが大きく異なります。アメリカでは、病気になると、まず保険会社に連絡をし、病状等を聞き取った保険会社が病院や医師を指示するというもの。患者は、民間保険会社と医療保険の契約をしていなければ、治療が受けられません。加入している医療保険の保険料によって、高額な治療が受けられない場合もあるわけですから、事前に医療費を確認するのは当たり前のことだともいえます。

日本には国民皆保険制度というすばらしい制度があって、一定の自己負担額を支払えば、安心して医療を受けられます。でも、がんなど、病気によっては、医療費が高額化する可能性がありますし、今後の生活や家計に大きく影響するほど、治療が長期化することも考えられます。そんなときに、お金のことも含めて、色々と相談に乗ってくれるFPへの相談サービスが受けられたら…そう感じるのは私だけでしょうか?

こんな保険が登場するかはさておき、今後も現金給付と併せて現物給付の保険の動向に注目していきたいと思います。

参考

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この記事を書いた人

大学卒業後、大手シンクタンク勤務を経て、FP資格を取得。1998年FPとして独立。CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター。消費生活専門相談員資格など。新聞、雑誌、書籍などの執筆、講演のほか、個人向けコンサルティングなどを幅広く行う。「夢をカタチに」がモットー。著書に「50代からのお金の本」(プレジデント社)。

黒田尚子FPオフィス

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