「全国がん登録」スタートで、がん保険の保険料がアップ? ダウン?

今年1月から、全国のがん患者の情報を管理する「全国がん登録」(以下、がん登録)が始まりました。

これからは居住地域にかかわらず、全国どこの医療機関で診断を受けても、がんと診断された人のデータは、都道府県に設置された「がん登録室」を通じて集められ、国のデータベースで一元管理されるようになります。

<全国がん登録>全患者情報 データベース化で一元管理スタート

《要約》「がん登録推進法」が2016年1月1日に施行されたことを受け、8日から、国立がん研究センターでは、全国のがん患者に関する情報を一元的に管理する「全国がん登録」の業務を開始した。

同法によって、全国のすべての病院と指定を受けた診療所に対し、がんと診断された人の情報を都道府県に届け出ることが義務付けられる。

各病院等では、がんの種類など26項目のデータを、都道府県を通じ国立がん研究センターのデータベースに送る。送られたデータは、国立がん研究センターに設置したがん登録センターが一元管理する。

登録された情報を基に、2018年中には、都道府県別のがん罹患者数やその種類・進行度などの集計結果が、2023年中には、がん罹患者の5年生存率が公表される予定だという。

この新しいしくみによってわかることは、「毎年どのくらいの人ががんと診断されたか?」「生存期間はどのくらいか?」「効果のある予防法は何か?」「がん検診による効果は出ているのか?」「この地域のがん診療病院は十分か?」など。

正確な罹患率や生存率の把握、データ分析が可能になるということで、今後のがん対策や予防などに役立てる狙いがあります。

とはいえ、その認知度はまだまだ高いといえません。

平成25年の内閣府の世論調査では、がん登録について知っていたか聞いたところ、「知っている」と回答した人の割合が17.0%。一方で「知らない」と回答した人の割合が82.2%にのぼっています。

今回は、おそらく、まだあまり知られていないがん登録についての現状や私たちへの影響について考えてみたいと思います。

目次

従来のがん登録の種類と問題点

全国がん登録がスタートしたといっても、これがはじめての制度というわけではありません。これまでも、その対象と目的の違いによって、(1)「地域がん登録」、(2)「院内がん登録」、(3)「全国臓器別がん登録」の3つが実施されてきました(図表1参照)。

図表1【がん登録の種類】

出典:地域がん登録全国協議会HP

出典:地域がん登録全国協議会

みなさんが、日頃テレビや新聞、雑誌などで目にする「日本人の2人に1人ががんに罹患する」などのデータは、これらの情報を基に算出されているわけです。

しかし、都道府県ごとのデータを収集する場合、住所がある都道府県以外の医療機関で診断や治療を受けた人や、がんに罹患後、別の都道府県に引っ越し等をした人など、データが重複する可能性があります。

ちなみに、私は千葉県在住ですが、かかりつけの病院は東京都。しかも最初に診断を受けたのは実家のある富山県でした。仮に、それぞれの病院等で登録されているとがん患者が3人になってしまいます。

さらに、すべての医療機関ががん登録に協力しているわけではなく、任意に参加する方式のため、データの信頼性には地域差があります。

たとえば、2011年のデータの場合、1年間にがんに罹患した人は約85万人となっていますが、47都道府県中、信頼性の高い14県のデータを基にした推計値で、全国の実数がわかっていないというのですから、まったく驚きです。

全国がん登録でわかること&メリットとは?

新しいがん登録では、次のような情報が記録されます(図表2参照)。

前述の例のように、複数の医療機関を受診していても、氏名や性別・生年月日、診断日における居住地などで名寄せしますので、重複等が回避できます。

もちろん、これらの情報は重要な個人情報ですから、全国がん登録の業務に従事する者の秘密漏示等の罰則規定も厳密に定められ、万全の安全管理体制で行われるべきであることは特筆するまでもありません。

図表2【がん登録に記録される項目】

このように、精度の高い正確ながん情報の収集・分析によって、がん罹患数や一定期間後の生存率、これらのデータを基に導かれる治療効果などがわかります。

今後は、これらを用いて、エビデンスに基づいた効果的ながん対策([1]がんに罹患する人を減らす、[2]がんが治る人の数を増やす、[3]がん患者の予後の質を向上する)の構築を行うことが、がん登録の大きな目的です。

がん登録によって、がん保険の保障内容や保険料が変わる?

とはいっても、将来的にがん登録で公表されるデータというのは、私たち一般の生活者にとって、がん罹患時の病院選びの参考になる情報が得られるくらいで、だれにとっても「あったら便利!」という類いのものではなさそうです。

しかし、このデータで、別のものが大きく変わるかもしれません。それは「がん保険」など、がんを対象とした民間保険です。

以前、大手保険会社の医務部長にお聞きしたことがあるのですが、がん保険の保険料(純保険料)算定には、「それぞれの各社独自の計算基礎率」が用いられているそうです。

一般的には、国民データ、臨床データ、生保業界の経験データ、自社の経験データ等々。会社にとっては最重要機密事項、トップシークレット扱いの情報とのこと。

ただ基本として、がん保険の保険料は、がんの罹患率に大きく影響されます。ですから、男女とも、罹患率が増加する50歳代くらいから、がん保険の保険料もぐんと上昇し、30歳代後半から40歳代では、女性が男性より罹患率がやや高くなる傾向を反映して、通常は年齢とともに上昇する保険料が、40歳代よりも50歳代の女性の方が割安に設定されているという商品もあります。

リスクが高い人と低い人を比べて保険料が同じというのでは、公平性を著しく欠きますので、がん保険に限らず、保険会社では、その人のリスクの度合いに応じた保険商品設計に注力しています。たとえば、リスク細分型の自動車保険や、健康体割引、非喫煙者割引などは、その代表格です。

実は今年に入って、日本初のステージ別で給付金額が異なるがん保険が発売されました。マニュライフ生命の個人向けがん保険「こだわりガン保険」です。

一般的に、早期がんと進行がんを比較した場合、進行がんの方が再発リスクは高く、医療費負担も重くなりがちです。そのような観点から、がんの進行度であるステージに応じて給付金額を変えるというのは、効率的だと思います。

今後、がん登録によって、精度の高いがん情報が把握できるようになれば、もっときめ細かなリスク細分型のがん保険も登場し、リスクに応じて給付金額が変わったり、保険料の割引が受けられるようになるかもしれませんね。

参考

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この記事を書いた人

大学卒業後、大手シンクタンク勤務を経て、FP資格を取得。1998年FPとして独立。CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター。消費生活専門相談員資格など。新聞、雑誌、書籍などの執筆、講演のほか、個人向けコンサルティングなどを幅広く行う。「夢をカタチに」がモットー。著書に「50代からのお金の本」(プレジデント社)。

黒田尚子FPオフィス

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