今年の7月27日厚生労働省が発表した「平成28年簡易生命表」によれば日本人男性の平均寿命は80.98歳、女性の平均寿命は87.14歳で男女ともに過去最高を更新したということです。国別統計では香港に1位を譲ったそうですが、日本人が世界トップクラスの長寿国であることに変わりありません。
昨年秋に発行された「厚生労働白書」の表紙のサブタイトルは「人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える」となっており、高齢化問題への取り組みは日本国の大きな課題のひとつです。そこで、その長寿国日本に暮らす私たち庶民が、高齢化問題をどのようにライフプランに反映させるべきなのかをあらためて考えます。
老後が長くなればコストが増大する
寿命が延びれば当然老後の時間が長くなり、即ち生きるためのコストが増大するということは誰でもすぐに思いつくでしょう。ところが老後資金準備が重要とわかっていても、若い頃から遠い将来のことを意識してライフプランを構築することは容易ではないようです。社会人として独立し、就職、結婚、住宅の確保、子育てという具合に、次々と目の前に現れる課題を克服する日々に追われ、老後対策までは手が回らないのが現実ではないでしょうか。
しかし誰にも訪れるはずの老後は、誰にとってもライフプランの必須課題であることを認識するべきです。まずは老後の必要資金から検証しましょう。
あまり難しく考えるとついつい先送りになってしまいますし、重要なのは老後資金計算の正確性ではなく考え始めることなのですから、まずはざっくりと検討してみましょう。
ここでは統計上の平均的なモデルを使って試算します。
- 「家計調査年報28年版」による「高齢夫婦無職世帯の支出総額(月)」=26万7,546円
- 老齢年金などの社会保障給付による収入=19万3,051円
- 必要期間は65歳から20年間と仮定する
この設定で試算すると65歳からの20年間に必要な老後資金総額は約6,400万円。
→26万7,546円×12か月×20年=6,421万1,040円
ここから年金収入を引いた不足額は20年分で約1,800万円となります。
→(26万7,546円-19万3,051円)×12か月×20年=1,787万8,800円
夫婦二人で平均的な年金生活になると仮定した場合に、1,800万円の不足分を補う手立てを検討する必要があるのです。
このくらいなら退職金で賄えそうだと思う方もおられるかも知れません。しかしその退職金は住宅ローンの返済計画に組み込まれるかも知れませんし、その会社に最後まで勤務するかどうかは不透明、また上記の公的年金額も確実に保証されている訳ではなく、減額する可能性も大いにあるでしょう。そして老後期間の20年というのはあくまでも現在の平均寿命を元にした期間です。やはり、この程度の不足金の発生は想定しておく方が良いでしょう。
ではその資金を若いうちからコツコツと積み立てておくことを検討しましょう。
老後資金積立のシミュレーション
35歳から毎月積立をスタートして65歳時に1,800万円を用意するために必要な積立金額を試算してみます。金利無しの単純な積立の場合は毎月の必要な金額は5万円です(5万円×12か月×30年)。
平均的な収入の家庭において、毎月5万円を老後資金だけのための積立に回すことは決して容易ではないと思います。住宅購入資金作りや子供の学資金の準備などもありますし、収支のバランスが大きく狂ってしまう不測の事態もある程度想定して、緊急予備資金の確保や保険などへの毎月の支出もあることでしょう。そこで、老後資金準備を少しでも楽に効率よく実現する方法を検討する必要があります。それは、少しでも早めにスタートすることと、可能な範囲で投資などの資産運用手段を活用することです。
上記の5万円積立は金利を全く考えない試算ですが、例えば金利年1%で複利運用する場合の必要額は4万3,000円となります。3%の場合は3万1,000円、4%の場合なら2万6,000となります。
もちろん、このような金利が保証される運用手段は現在の日本には皆無ですが、運用のリスクを理解したうえで株式や債券などによる運用を取り入れることで、長期的に収益を伴う資金作りの実現可能性が出てきます。
日本人が保有する金融商品の構成比(「家計の金融行動に関する世論調査」)をみると相変わらず預貯金など確定商品に偏っており、投資商品の保有率はまだまだ少ない状況ですが、「超」低金利が続く中で老後資金作りを考えるためには、投資についても積極的に検討するべき時代であると思います。
老後資金準備手段のひとつである生命保険会社の個人年金保険にも、受取額が最低保証された確定商品だけではなく、株式などで運用される変額個人年金保険もあります。預貯金金利が一向に改善されない低金利時代の老後資金準備には、投資信託や不動産投資などと共に変動型の年金保険商品も検討すべき選択肢と言えるでしょう。
平均寿命と健康寿命の差(不健康期間)の問題
さて、次の検討課題は「健康寿命」です。平均寿命と同様に日本人の健康寿命も世界トップクラスで、2013(平成25)年時点で、男性71.19年、女性74.21年となっています。
しかし厚生労働白書では健康寿命と平均寿命との差(つまり不健康な期間)が若干ではあるが広まっており、平均寿命の伸び以上に健康寿命を延ばすことが重要だと指摘しています。
個人のライププランに当たっては、高齢期に図らずも長期療養や介護を要することになった場合の経済的補てんの準備が課題となります。その検討でまず必要となるのは、医療・介護の実態を把握することです。病気やケガで入院や手術をすることになったとき、長期間の治療が必要になったとき、国や自治体の制度ではどの程度の経済的保障があるのか、現状のあらましと今後の推移の方向性を知っておくことが先決です。現状では後期高齢者の医療費の自己負担は1割が原則ですが、年齢により負担割合が上昇する可能性があることや、保険給付の縮小や保険料負担の増大もあり得るなど、厳しい現状と今後の傾向について知っておくべきです。
そのうえで、老後資金準備の一環として必要と思われる場合には、終身医療保険やガン保険などで補うことも検討事項となるでしょう。
健康寿命を延ばす自助努力
厚生労働白書が指摘している「健康寿命を延ばす」こともライフプランに取り入れるべき重要事項です。長期療養や介護を強いられた場合の対策と共に、そうならないための対策をどう考えるかは個々人の生活環境や体質、健康状態に応じて色々な取り組みが考えられます。
日々の健康チェック、栄養バランスの確保、健康診断の実施や体力維持の運動など、様々です。
私事で恐縮ですが、私は8年前から自宅での筋トレを続けています。中高年の筋肉は年々減少してゆき、20歳台の筋肉量に対して70歳代になると3分の2になると言われていますので、それに歯止めをかけることが必要です。筋肉が増えれば「転倒のリスクが低下する」「基礎代謝が上がり太りにくくなる」「老化する骨を補強する」などの効果があり、さらに肩こりや腰痛を軽減したり、病気などに対する免疫力が上がったり、脳の活性化の効果もあるなど良いことづくめです。
筋肉量を増やすための筋トレと、身体の柔軟性を保つストレッチは健康寿命を延ばす効果が大いに期待できるのです。(自宅でのトレーニングにはお金は殆ど掛かりません。)
また、ヨガや体操、整体、ウォーキングや水泳など健康維持の身体づくりなどトレーニングの方法は色々ありますから、健康寿命を延ばすために、それぞれの体調や生活パターン、住環境などに合わせて無理なく継続できる運動やトレーニングの導入を強く推奨いたします。
ライフプランの策定やその検証と同じように、決め手は習慣化です。こちらも若いうちからコツコツと始めましょう
心の健康寿命も伸ばしたい
健康寿命を延ばすためには、体力の維持のみではなく「心や精神状態の健康維持」も重要です。
定年までの40数年休みなく働き続けてやっと迎えた定年退職後、「ちょっとのんびりさせてもらいます。」という気持ちは分からないでもありませんが、退職後にいつも家に閉じこもりゴロゴロしている状態が楽しいと感じるのはほんの短期間ではないでしょうか? 社会的な動物である人間は、他者との関りの中で生きるのが基本であり、そこで受ける刺激によって脳が活性化され、体力・精神の健康維持が保たれます。定年退職後に他者と関り、しかも老後資金の不足を補う方法として最も有効なのは「仕事をする」ことでしょう。高齢者の雇用対策は国の課題でもありますが、自分の技量や特性を生かした自営業を営むことなども視野に入れて、高齢期の活動への何らかの準備を始めることも、資金積立の開始と共に検討すべき課題と考えます。寿命が延びても「老後(あるいは余生)を長くしない」という対策でもあります。
高齢者向け商品リテラシー
昨年から今年にかけて生命保険会社数社が「寿命の伸びに対応した保険」を発売しています。
昨年5月27日の保険ジャーナルでも紹介された「長寿生存保険」に見られるような「長生きすればするほど受取額が多くなる」商品は今後も増えてくるかも知れません。しかし、保険などの運用市場環境は相変わらずほぼゼロ金利状態が長引いています。長生きで得をすると言ってもその収益性は、積立期間中の元本割れリスクをカバーするほど魅力あるものとは言い切れないかも知れません。
保険商品に限らず高齢者が増加し続けるマーケットには、サプリメントや健康食品、健康グッズやサービスなどを含めて高齢者向けの商品が続々と投入されることでしょう。長生きを応援する、健康な老後を実現する、という謳い文句でアピールしてくる色々な商品を、そのイメージやセールストークに魅かれて次々と手にすることのないように、冷静に選別をする消費者目線が必要です。そして自分にとっての高齢化とはどういうことなのかを理解しておくのも準備のひとつです。
高齢社会ライフプランのまとめ
平均寿命が伸び続ける日本人の(老後対策)ライフプランを考えて感じることは、いかにして自立した老後を維持するかが最重要だろうということです。
- 公的年金の実態を知って自分年金を作ること。(老後資金積立)
- 医療や介護の限界があるなら自分でも備えること。(保険などの活用)
- 健康はまず自分で管理すること(自己免疫力の強化)
- 自分で仕事を確保すること(退職後の自営)
- 自主的に社会とかかわること(ボランティアや社会活動)
- 医療や介護を受ける選択の自主決定(死に方を含めた自身の姿勢)
・・・共通のキーワードは「自」です。
こうしたことを意識して可能な限り自立して愉快に高齢時代を過ごして行ければ、もしも自分だけではできないことが生じたり不測の事態に陥った場合には、家族や地域や国の制度を遠慮なく、引け目を感じることもなく利用できるような気持ちを持てるのではないでしょうか。
自助努力を惜しまずできる限りの自立を目指し、それが叶わぬこととなったときは、みんなお互い様の精神で助け合い、補い合う、これが思いやりある人間の社会というものです。
ライフプランには必ず「老後プランニング」の項目を加えて、自立老後を目指してゆきましょう。
参考
- 平成28年版厚生労働白書
//www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/
- 家計調査年報(家計収支編)平成28年(2016年)
//www.stat.go.jp/data/kakei/2016np/index.htm
- 家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)2016年版
//www.shiruporuto.jp/public/data/survey/yoron/