ふるさと納税で子育て支援に明暗? 大都市圏の住民税は大幅減収

ふるさと納税は、「今は都会に住んでいても、自分をはぐくんでくれたふるさとに納税を」という趣旨で、過疎化、高齢化が進む地方自治体に貢献する制度として平成20年度に発足しました。大都市圏に集中する人口や経済をふるさと納税という形で地方に分配することで、日本全体が豊かになることには誰も異存がないことです。

しかし、返戻品の過熱化などで自治体ごとの納税格差が開き、大都市圏では住民税の減収という問題にも直面しているようです。

ふるさと納税住民税の減収前年の5.4倍

《要約》総務省によると2016年度課税分のふるさと納税による住民税の減収額は全自治体を合わせて998億円と前年の5.4倍だった。都道府県別では東京都が261億円で最多。次いで神奈川の103億円、大阪の85億円だった。逆に減収が少なかったのは島根の1.7億円、鳥取の1.8億円、高知の2.0億円だった。

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ふるさと納税が増えるとなぜ住民税収が減少?

ふるさと納税は本来納めるはずであった所得税や住民税を、自分が応援する自治体に寄付をする「寄付金控除」を使った制度です。そのためふるさと納税をする人が多い自治体の住民税は減少し、その分が各地方の自治体に寄付されます。各地方の自治体は寄付をしてもらったお礼に、地元自慢の物産品をお送りするというわけです。

このしくみ自体は本来の趣旨に沿ったものですが、最近ではふるさとチョイスなどWEBサイトの充実もあり返戻品の競争が過熱化しています。また、ワンストップ特例制度(※)等手続きの簡素化により、ふるさと納税が広く普及してきたことで、寄付が多い自治体とそうでない自治体との格差も開いています。

(※)確定申告を必要としない給与所得者、寄付先が5自治体以内等の条件を満たすと自治体に申請書を送ることで確定申告が不要になる制度。

返戻品の過熱でふるさと納税を行う人が前年比3倍

平成27年1年間で前年比約3倍の約130万人もの人がふるさと納税を行っています。これは、各自治体が返戻品に力を入れた結果ともいえます。ふるさと納税の情報サイト「ふるさとチョイス」には各地のフルーツや牛肉、米などデパートのネットショッピング顔負けのおいしそうな品々がたくさん並んでいます。こうした魅力から中にはふるさと納税のしくみもよくわからないまま、納税者ではない専業主婦が自分のクレジットカードで寄付をしてしまい、ただのショッピングなってしまった、などという笑えない話も聞きます。

ふるさと納税の額を、住民税から差し引かれた控除額という視点で都道府県別に比べてみました。全体の控除額は999億円、そのうち東京、大阪、名古屋の三大都市圏の合計額が約7割を占めます。住民税の流出の約7割は三大都市圏からとなっています。

■寄付金控除額が多い都道府県
順位都道府県控除額順位都道府県控除額
1東京都262億円6埼玉県53億円
2神奈川県103億円7千葉県52億円
3大阪府86億円8福岡県30億円
4愛知県75億円9京都府24億円
5兵庫県54億円10北海道23億円

出典:総務省 平成27年1月1日から12月31日までのふるさと納税について、平成28年度課税における控除の適用状況より筆者作成

ふるさと納税でうるおう自治体は?

逆にふるさと納税の寄付金が多く集まる自治体は返戻品が人気の町、土地の名産品がある自治体です。以下納税受入額が多い自治体をランキングしてみました。

■ふるさと納税額の受け入れが多い自治体
順位自治体名納税受入額順位自治体名納税受入額
1都城市(宮崎県)42億円6伊那市(長野県)26億円
2焼津市(静岡県)38億円7佐世保市(長崎県)26億円
3天童市(山形県)32億円8平戸市(長崎県)26億円
4備前市(岡山県)27億円9上峰町(佐賀県)21億円
5大崎町(鹿児島県)27億円10浜田市(島根県)21億円

出典:総務省 各自治体のふるさと納税受入額及び受け入れ件数(平成20年~平成27年)より筆者作成

使い道も指定できるふるさと納税で子育て支援に格差?

大都市圏の住民税から地方の自治体へというふるさと納税の流れの中で、住民税が減収になる自治体とうるおう自治体で、子育て支援に格差が広がりつつあります。

ふるさと納税を上手に活用して子育て支援に成功した自治体があります。ランキングには入りませんでしたが、北海道の上士幌町では平成27年度の寄付額が14億円を超えました。町ではこの寄付金を基金として2016年4月から10年間、町認定こども園「ほろん」を完全無償化します。しかも働くママにはうれしい異文化交流を図る外国語指導講師や体験学習のための施設建設も行っていくとのことです。ふるさと納税が地域の次の世代を担う子どもたちに使われるとてもうれしい事例です。

逆に東京都世田谷区ではふるさと納税を行う人が多く、平成27年度の住民税は15~16億円減る見通しです。世田谷区は全国で最も待機児童が多い自治体です。大きな減収は保育園や保育士確保に影響を与える可能性もあります。世田谷区以外の大都市圏の自治体も住民税の減収が大きくなり、子育てや高齢者対策などに影響を与えかねない状況があります。

返戻品だけでなく使い道にもっと注目を

そもそもふるさと納税は豪華な返戻品を受け取るための制度ではありません。自分が一生懸命働いて得たお金から納める寄付金です。返戻品よりはそのお金を自分が使ってほしいことにしっかりと使ってもらえるのかどうかという視点が大切です。

私が住んでいる東京都国分寺市は財政難で23区と比べても子どもの医療費助成や保育料の助成をはじめ子育て支援が見劣りします。実はそうした事情から私自身は一度もふるさと納税を行ったことがありません。もちろん地方に親御さんが住まわれている方、子どもや孫たちが住んでいる方は、その自治体を応援したいとふるさと納税を行う方も多いと思います。そうした個々の想いは本来のふるさと納税の趣旨なのではないかと思います。

返戻品に惹かれてふるさと納税を行おうと思ったなら、手続きの前に自分の自治体の財政状況や税金の使い道にも目を向けてみましょう。

参考

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この記事を書いた人

有限会社ヒューマン・マエストロ取締役。大学卒業後、地方銀行にて融資業務担当。結婚、出産後7年間の子育て専業主婦。その後、住宅販売、損保会社、都市銀行の住宅ローン窓口を経て独立。現在は中央線を中心に活動する女性FPグループ「なでしこFPサロン」のメンバーとともに、さまざまな専門分野を持つFP・士業と連携しながら、お客様の悩みをワンストップで解決することを目指している。身近なお金の問題に役立つ講演・執筆多数。

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