個人年金保険による緻密な老後資金の設計が可能に

 第一生命保険株式会社は、平成28年7月19日、「積立年金『しあわせ物語』の設計の自在性の向上について」と題して、従来から取り扱っていた個人年金保険商品について、プランニングの際の選択肢を拡げると発表しました。

 これは、同社のシニア層に向けたサービスの向上を図る取り組みのひとつで、この個人年金保険の契約年齢と年金の受け取り開始年齢の範囲を拡大するものです。

■「積立年金『しあわせ物語』」の設計の自在性向上について
//www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2016_029.pdf

(本稿で述べている「個人年金保険」は、年金額が確定しているタイプのものです。有価証券や外貨で運用するものは除外しています。)

目次

1.一般的な個人年金保険でできる設計とは

 念のため、個人年金保険について、おさらいしておきましょう。

 個人年金保険は、生命保険商品のひとつです。契約者は被保険者、年金受取人を決め、あらかじめ年金の受取開始年齢と受取方法を定めます。この年金は、被保険者が受取開始年齢に生存していれば、年金受取人が受け取ることができます。

 受取方法には、一般的に「確定年金」と「保証期間付終身年金」の2種類があります。

 「確定年金」は、被保険者の生死にかかわらず一定期間、例えば10年、15年、20年などのように年金が支払われます。この受取期間が満了する前に被保険者が死亡したときは、残存期間分の年金(または残存期間に相当する年金を一時金に換算した金額)が、継続年金受取人に支払われます。

 年金の受取開始年齢の前に被保険者が死亡したときは、一般的には今まで払い込んだ保険料と配当金の合計額が、死亡給付金受取人に支払われます。商品によっては、死亡給付金の額を抑制し、年金額を増やすような設計をしているものもあります。

2.契約年齢と受取開始年齢を拡大して設計の自在性を向上

 今回の第一生命が行った、個人年金保険の自在性向上の取り組み内容についてまとめます。

(1)契約年齢

 従来の契約年齢は0歳~60歳となっていましたが、今回の改定で上限を80歳としました。

 これによって、例えば60歳以降も定期的な収入があって、金融資産を蓄積できるような人が、元本の安全性を重視した運用を行いたいという場合、このように年齢が高くても契約できるタイプの個人年金保険は、選択肢のひとつとなるでしょう。

(2)年金の受取開始年齢

 従来は10歳~70歳となっていましたが、今回の改定で年齢の上限を90歳としました。80歳・90歳を受取開始年齢とした場合、実質終身年金になると考えられます。たとえ終身年金に一定の保証期間を付けても、保証期間内に死亡した場合、個人年金保険商品によっては、支払保険料を下回ってしまうものがあります。今回の改定のような取り扱いがなされれば、早期死亡による不利益がなくなります。

3.個人年金保険の既加入者は契約内容をチェック!

これを機に、既に個人年金保険を契約している人は、ご自身の契約内容を確認する機会を作ってみましょう。

(1)年金の受取開始年齢はキャリアプランを考えて設定する

 個人年金保険に加入している人の契約内容を拝見すると、なぜか一律に60歳に設定されていることがほとんどです。しかし、その人の今後のライフプランをうかがうと、60歳以降も継続して働くという方向性であったり、逆に60歳よりも早く退職する方向性であったりします。アドバイスを受けて、現状の受取開始年齢時期がその人のライフプランに合致していない、と気づく人が実に多いのです。

 一般的な個人年金商品では、年金の受取開始前であれば、受取開始年齢を早めたり、繰り上げたりすることができます。それによって年金額の設定を変更する必要がある可能性もあります。一度、自分自身のライフプランと、個人年金保険の契約内容をしっかりチェックしましょう。

(2)働いている時期に受取を開始することはできるだけ避ける

 ある程度の給与収入がある状態で個人年金を受けると、個人年金の実質の手取り額が減少することがあります。個人年金保険による収入は「雑所得」となり、他の所得と合算され、所得税・住民税の対象となります。併せて受給することで所得の金額が大きくなり、所得税率が高くなることで手取り額が減少するケースがあるのです。給与の額が少なくそれを補うために個人年金保険を受け取る場合はやむをえませんが、ある程度の所得が得られる場合は、個人年金保険を受け取ることは避けたいものです。受取開始年齢を延長してはどうでしょうか。

(3)綿密なプランニングのために、個人年金保険を複数契約する

例えば会社員の老後資金を個人年金保険でカバーする場合、

  • 60歳から受取期間5年間の確定年金
  • 65歳から公的老齢給付に上乗せする分を80歳までの15年確定年金

で準備すれば、ほぼ平均余命までの生活費を確保することができるでしょう。可能であれば、80歳以降「生きするリスク」に備えて、65歳から15年程度の保険料払込期間で、80歳年金受取開始、10年間の確定年金を確保しておけば、ほぼ終身年金の形になります。

 しかし、このようなプランニングは、1つの個人年金保険の契約では困難です。複数の契約に分けることにより、その人に合った個人年金保険プランニングが可能になると思います。

4.マイナス金利時代の安全な資産運用のひとつ!

 今、世の中はマイナス金利で、住宅ローンを利用する人にとっては追い風ですが、金融資産の運用には向かい風です。安全性の高い商品の中では、例えば証券会社等で取り扱っているMMFは、マイナス金利の影響を受けて新規の募集を停止する動きが出ています。預貯金金利も一層の利率の低下が予想されます。

 個人年金保険は預貯金よりも高い利回りとなっており、安定的に運用する金融商品としては相対的に魅力が出てきたと言えます。

 また、個人年金保険は生命保険商品ですので、生命保険料控除が適用されます。年金の受取開始年齢が60歳以上で、10年以上にわたって受け取るなどの要件を満たせば、死亡保障・医療保障とは別枠で「個人年金保険料控除」の適用を受けることができます。つまり、所得税・住民税を軽減しながら、資産形成ができるわけです。

 個人年金保険は、元本の安全性が確保されている金融商品です。しかし、生命保険会社が経営破たんした場合には、責任準備金の10%が減少しますので、年金額に影響が出ることは避けられないことに留意しましょう。

 今回の第一生命の取扱の改定は、老後資金の設計をもう少し緻密に行うひとつの契機になるのでは、と期待しています。

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この記事を書いた人

1962年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。 生命保険会社を経て、現在、独立系ファイナンシャル・
プランニング会社である株式会社ポラーノ・コンサルティング代表取締役。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、 CFP®認定者認定者。十文字学園女子大学非常勤講師。
個人に対するFP相談業務、企業・労働組合における講演やFPの資格取得支援、大学生のキャリアカウンセリングなど、
幅広い活動を展開している。

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