団信における疾病「保障」と疾病「補償」。その違いを知ってますか?

低金利が続く中、金融機関では金利競争だけではないサービス競争も激化しています。その一つが住宅ローンの契約者が加入できる3大疾病保障(補償)や8大疾病保障(補償)といった返済を支援する保険です。特定の病気で働けなくなった時、返済を保障(補償)してくれる保険は魅力的ですが、すべてを保険で備えると保険料が高額になり、せっかくの低金利のメリットを十分に受けられなくなる可能性もあります。

今回は、住宅ローンの契約者になると加入できる保険の種類と仕組みについて知っていただき、ローン契約時の保障(補償)を選ぶポイントについてお話しします。

目次

疾病保障(補償)のタイプは大きく2つ

ほとんどの民間の金融機関では、住宅ローンの契約者に万が一のことがあった時、残高を保険金で完済してくれる団体信用生命保険(以下団信)への加入は必須です。しかしこれだけでは病気やけがで働けなくなった時、収入が減っても返済は続けていかなくてはなりません。そのため各金融機関は団信でカバーできない、生きている間の返済リスクに対応する保険商品を用意しています。

保障(補償)のタイプは、金利に0.3%上乗せなど「金利上乗せタイプ」(疾病保障)と、年齢に応じた保険料を支払う「保険料支払い型」(疾病補償)の大きく2種類に分けられます。

■疾病保障(補償)の特徴
 金利上乗せ型 保険料支払い型
名称3大疾病保障付、8大疾病保障付住宅ローンなど8大疾病補償など
借入時の年齢20歳以上46歳未満など年齢が限定されている場合もある20歳以上56歳未満など年齢が限定されている場合もある
終了年齢75歳未満までなど (団信は81歳未満まで)81歳到達月の初日
所得を得る業務に従事しなくなった場合は終了となるなど
主な保障3大疾病保障 所定のがんと医師に診断確定された時、急性心筋梗塞、脳卒中と診断されて所定の状態が60日以上したと医師に診断されたとき残高が0円など。
3大疾病以外の保障 高血圧症、糖尿病、慢性腎不全、肝硬変、慢性膵炎で就業不能状態が1年を超えた場合、残高が0円、8大疾病と診断されたら残高が0円など。
月額返済補償 30日を超えて病気やけがで働けない状態が続いた時(最長1年)月額の返済分を補償など。
一括返済補償 8大疾病を原因として月額返済補償が1年間継続した場合残高が0円など。
保険料金利に0.3%上乗せ がん特約のみの場合0.1%上乗せ ローン残高の1/2を補償0.2%上乗せ 8大疾病以外の病気やけが、配偶者の補償も付けた場合0.4%上乗せなど。性別、借入時の年齢(5の倍数年齢ごと)、借入残高、借入残期間、金利、返済方法(元利均等か元金均等か)によって保険料が決まる。
中途解約できないできる

※みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行(7大疾病)、三井住友信託銀行などのHPから筆者作成

金利上乗せ型の保障

「金利上乗せ型」は、がんと診断されたり、特定の疾病にかかり所定の状態が一定期間続くと、保険金でローンの残金を一括返済してくれる保険です。団信が死亡や高度障害に対する保障であるのに対し、特定の病気で働けなくなるリスクに備える保障です。

住宅ローンの残高が多いときや、子どもの教育費がかかる時期には安心な保険ですが、保障内容によって金利が0.1%から0.4%上乗せになります。また、一度保障を付けると完済するまで途中で解約することができない点にも注意が必要です。

たとえば、みずほ銀行の『3大疾病保障特約付団体信用生命保険』の場合、2,000万円を35年返済、変動金利0.6%で借りた場合の毎月の返済額は5万2,805円となり、金利が上がらなければ35年間に払う元利金は2,217万8,226円です。このローンに3大疾病で残高0円となる保障を付けて0.3%上乗せすると、毎月の返済額は5万5,529円、元利金の総額は2,332万2,359円となります。毎月の返済額は2,724円アップし、35年間では約114万円の保険料を支払うことになります。

保険料支払い型の補償

これに対し「保険料支払い型」は、病気やけがで30日を超えて働けない状態になると、1年間は保険金で毎月の返済を補償してくれます。さらに1年30日を超えてまだ働けない状態が継続すると、保険金で完済されローン残高が0円となります。これは損害保険の収入を補償してくれる『所得補償保険』を応用した仕組みを使っており、定年後、仕事を辞めて収入がなくなると補償する所得がなくなるため、解約となってしまいます。また、ローン残高が少なくなり補償がいらないと思った時点で、中途解約することも可能です。

保険料は年齢(5の倍数年齢ごと)、性別、ローン残高、残期間等によって決まり、ローンの返済とは別に保険料を支払います。たとえばみずほ銀行の『8大疾病補償』で、32歳男性、2,000万円を35年返済、金利1.5%、元利均等返済で借りた場合、35年間に支払う保険料は以下の通りです。

■みずほ銀行8大疾病補償保険料例
年齢32歳~35歳~40歳~45歳~50歳~55歳~60歳~65歳~67歳
月払保険料298円453円654円913円1,183円1,405円1,352円631円
5年間の保険料1万728円2万7,180円3万9,240円5万4,780円7万980円8万4,300円8万1,120円2万2,716円
累計1万728円3万7,908円7万7,148円13万1,928円20万2,908円28万7,208円36万8,328円39万1,044円
ローン 残高※2,000万円1,867万円1,631万円1,376万円1,102万円806万円488万円145万円

※5歳ごとに保険料が変わる初年度のローン残高の目安(みずほ銀行HPより筆者作成)

35年間加入したとしても保険料の累計は約39万円です。年齢によって保険料が大きく変わりますが、保険料が高くなる50代、60代には子どもも成長しローン残高間も少なくなることから、解約することも考えられます。

当初の1年間はローン返済分しか補償されず、完済できないリスクはありますが、特に年齢が若いうちは保険料が安く、補償がいらなくなればいつでも解約できます。

どういう状態になると保険金が出るのか吟味が必要

返済期間が30年、35年と長く、成人病リスクが高くなる中高年まで返済が続く場合、疾病保障(補償)はとても魅力的に感じます。しかし、実際には保険金を受け取るための条件は金融機関ごとに異なり、その条件が厳しいと感じる場合も多いようです。

たとえば「金利上乗せ型」の場合は、「がんと診断されたとき」、「脳卒中、心筋梗塞で所定の状態に住宅ローンの残高が0に」といううたい文句があります。「がんと診断されるとは」、「所定の状態とは」と一つ一つ細かく要件を確認しておくことが必要です。金融機関によって保険金が出る要件が異なることも注意点の一つです。

また、3大疾病以外の病気では「いかなる業務にも従事できない状態が30日を超えて継続した場合、毎月のローンの返済額を補償」とあります。「医師の指示による自宅療養」が30日以上続く病状とは具体的にどのような状態かも、加入時に確認しておきましょう。

「保険料支払い型」は3大疾病になっても働けない状態が30日を超えて続かないと毎月の返済が補償されません。さらに1年30日を超えて働けない状態が続いて、はじめてローン残高が0円となります。

最近は目覚ましい医療の進歩で、がんになっても通院しながら仕事を続ける方も多くなっています。治療を続けるために働く時間を減らしたり、転職をして収入が減ったとしても、「働けない状態」ではないため、ローンの返済は残ってしまいます。

何となく心配だから加入するのではなく、保障内容と保険料をよく吟味したうえで加入を検討してください。せっかくの低金利なのに、保障のために家計負担が重くなり預貯金の積み立てができなくなっては本末転倒です。預貯金、すでに加入している保険、収入が減った時の家計やライフプランの見直しを行った最後に8大疾病保障(補償)を考えてみましょう。

参考

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この記事を書いた人

有限会社ヒューマン・マエストロ取締役。大学卒業後、地方銀行にて融資業務担当。結婚、出産後7年間の子育て専業主婦。その後、住宅販売、損保会社、都市銀行の住宅ローン窓口を経て独立。現在は中央線を中心に活動する女性FPグループ「なでしこFPサロン」のメンバーとともに、さまざまな専門分野を持つFP・士業と連携しながら、お客様の悩みをワンストップで解決することを目指している。身近なお金の問題に役立つ講演・執筆多数。

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